UDトラックス様では、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンでデータ連携を加速するための新たなデータプラットフォームを構築。
設計・生産・アフターサービスのすべての領域に PTC の製品を使うことによって、シームレスでリアルタイムなデータの共有化を実現。製品に関するデータの利活用および情報共有を進めることで、強靭なサプライチェーンを構築するとともに「モノづくり」の中核であるエンジニアリング能力を高め、DX による業務変革を目指しています。



いすゞ自動車(以下、いすゞ)グループの国内屈指のトラックメーカーであり、とりわけ大型トラックで有名なUDトラックス。「永遠の時間の流れ」を意味する「久遠(くおん)」がブランド名の由来であるという「クオン」は、同社を代表する大型トラックブランドであるが、最近はいすゞと共同でクオンの新モデル開発に取り組んでいることも話題だ。

UDトラックスでは、今、エンジニアリングチェーン(設計・生産)とサプライチェーン(調達・販売)のデータ連携を加速するための新たなデータプラットフォーム構築に取り組んでいる。同社では、製品に関するデータの利活用および情報共有を進めることで、強靭なサプライチェーンを作り上げるとともに、モノづくりの中核であるエンジニアリング能力を高めることで、IT やデジタルを駆使したスマート物流の実現を目指している。


課題

物流量の増大や人手不足、カーボンニュートラル・・・・・・難題を乗り越えるための DX

この数年間で、気候変動や異常気象、新型コロナウイルス問題といったグローバルな課題を背景に、社会のあり方や人々の価値観、働き方など、劇的に変化した。物流業や製造業の現場においては、きわめて厳しい状況に直面している。電子商取引の増大による物流量の増大、少子高齢化の加速による働き手不足、カーボンニュートラル対応といった課題を抱えている。

特に物流業では、ドライバー不足の中での業務量増加の問題が深刻であり、事故を引き起こす要因となり得るドライバーの過労働 も問題視されている。

同社では、これらのような複雑な課題を解決できる持続可能なソリューションを提供することで「Better Life」(人や地球によりよい暮らし)をかなえようというパーパス(存在意義)を掲げている。

そして、そのパーパス実現のために欠かせないのが、UDトラックスにおけるビジネスモデル変革プロジェクトである「DX ジャーニー」の推進だ。DX ジャーニーでは、同社の生産計画や品質管理に関するビッグデータの一元管理や、コミュニケーションの見える化およびデジタル化により、データに基づいた意思決定をベースとしたビジネス環境(データドリブンカルチャー)を醸成。慣習や経験に基づくのではなく、客観的な数字やデータでもって意思決定を行っていくことを目指す。

同社における製品開発プロセス改革の考え方について、UDトラックス デジタルソリューション・IT 部門 シニアバイスプレジデントの何 慶輝氏はこのように述べている。

「これまでのように製品の改善・改良を繰り返すだけではなく、『新たなもの』を作り出していかなければならない。そのためには、3D データ技術や AI の新技術などを用いた自動化について、業界においていち早く試していく必要があると認識している。また、失敗を『成功のためのステップ』と考える環境を作り、アジャイルに開発を進めていくことも重要だ」。

それには、開発チームのメンバーが同じ目的を共有しながら議論していくことが必要であり、それをかなえるのがデータドリブンカルチャーであるという。

コロナ禍では、感染予防での移動制限などが理由で各企業においてリモートワークが普及。ワークスタイルの変化もあった。そうしたこれまであまりなかったニーズが増えたことも後押ししてか、クラウドやネットワーク技術も急速に進化した。「場所にとらわれず、チームとして仕事に取り組むようになってから、データドリブンなカルチャーに自然とシフトしてきている動きもある」(何氏)


解決策/PTC 製品の導入

Creo の 3D データで、意思決定を迅速化する

UDトラックスは DX ジャーニーの取り組みの一環として、高度かつシームレスなデータプラットフォーム構築に取り組んでいる。何氏は、「その実現のためには PTC のパートナーシップが必須である」と言う。

UDトラックスでは、2020 年から社内で利用している CAD を「Creo」に完全一本化。Creo の 3D データを核にして、PLM「Windchill」、IoT プラットフォーム「ThingWorx」を駆使してエンジニアリングとサプライチェーンのデータをつなげ、「必要な時に、必要なデータを、どこでも取り出せる」環境を作り、サプライヤーと顧客との双方向なコミュニケーションを実現し、意思決定の迅速化やコミュニケーションロスの排除などに取り組んでいる。

Creo と Windchill で設計開発の QCD を向上

設計開発現場と生産・アフターマーケット部門とのデータ連携や IT サポートを担当している、UDトラックス デジタルソリューション・IT 部門 開発・調達ディレクターの原田優氏は、設計開発現場で Creo と Windchill が担う役割の重要性について、このように話す。「設計開発部門はメーカーにとってのコアであり、多くの人が働いている。一人一人の生産性を向上して、品質 (Q) を上げていくことは、製造品質だけではなくて、納期 (D) 短縮やコスト (C) 面など、非常に大きなインパクトを与える。そこで、Creo と Windchill を活用した設計開発現場の QDC 向上は会社としてはマストである」

設計開発部門では、Creo と Windchill を組み合わせて、設計部門が Creo で構成した情報と、生産部門で流通する部品表などのデータを統合したデジタルモデルを構築。デジタルモックアップの自動化および製品管理を全て行い、さらにそのデータを生産部門につなぐことによって、設計初期段階で問題を発見し、製品品質向上や後工程での手戻り削減を実現しているということだ。

「生産部門でも今、PTC の製品を積極的に導入している。そこともシームレスにつながることによって、会社全体のサプライチェーンが非常に効率よくなっていくことに期待している」(原田氏)。

ThingWorx で生産設備の稼働監視や予防保全

UDトラックス デジタルソリューション・IT 部門 上尾生産担当ディレクターの小林大悟氏は、生産活動を支える IT システムを企画・統括している。同氏は、上尾工場における「Smart&Modern」の活動を推進している。これは、同社の生産工程からリアルタイムにデータ取得できる仕組みで、生産性向上や設備の安定稼働などを目指す取り組みだ。

小林氏は、Smart&Modern における設備データ活用について、「生産設備の稼働状態可視化がまずメインとなっている。データを用いた設備メンテナンスや予防保全への取り組みがベースライン」と述べている。「さらに、現場の暗黙知であるナレッジを、データにより形式知化することも課題。データから得られる知見を新車の生産で生かす、あるいは技術者育成の教材にするといったことにも取り組みたい」(小林氏)

また、生産現場にとっても Creo が“共通言語”となったため、生産側から設計側へ、量産試作の情報などのフィードバックもスムーズかつ即時に行えるようになってきているという。

同社は、ThingWorx を用いて、事例を基にしたサービス対応策情報を集約し、過去に生じた問題を検索し参照できるように進めている。また、生産計画や品質管理の情報、営業社員の商談の進捗状況までをビッグデータとして一元管理し、さらに AI を活用して生産性をより高めていくところを目指しているとのことだ。

「われわれの工場においては、『間違いのないもの』を作り、それを市場に提供するというところまでが責任。さらに市場に出た後、間違いのないものを届けていることを保証し、かつ間違いのないサービスやメンテナンスまで担保していきたい。そのためのサポートツールが、PTC 製品群だ。今後は AI や AR なども取り入れて、Smart&Modern を推進していきたい」(小林氏)。

また小林氏は、「われわれのものづくりは、人が主役」と強調し、それは今後も変わらないと言う。「最後は人づくり。PTC に支援していただきながら、人づくりにつなげていきたい」と言う。

Arbortext とWindchill を連携させてカタログやマニュアルを生成

UDトラックス デジタルソリューション・IT 部門 国内販売・アフターマーケット ディレクターの浦野 健吾氏は、アフターマーケット部門のデータドリブンな環境づくりの取り組みについて、「顧客の車両をいかに効率良く早く整備・点検するかということにフォーカスを置き、システムの供給を図っている。商用車のさまざまなバリエーションがある中で、設計・生産の情報をシームレスかつタイムリーに提供するという取り組みを進めている」と述べる。

商用車はカスタマイズの要素が強くサプライチェーンも多岐にわたるため、データを「集める」「貯める」「加工する」「可視化する」といったステップを一貫性あるシステム環境で実行することが非常に重要であるという。

同社のアフターマーケット部門では、XML ベースのドキュメント作成ツール「Arbortext」を活用し、設計・生産側で運用する Windchill からデータ取得し、それをカタログやサービスマニュアルとして提供している。そのように設計から生産、アフターマーケットの領域の全てにおいて PTC 製品を使ってデータを一気通貫で活用することについて、浦野氏は「シームレスかつリアルタイムにデータ提供を共有化できることが最大のメリット。それで、顧客の満足度向上と共に、大幅に効率性・生産性を高められる」と述べている。


今後

UDトラックスと PTC のパートナーシップで、「Better Life」を実現

「DX ジャーニーの取り組みが開始された当初は、業務効率の向上がメインの目的であった。しかし世界中の社会や経済が激しく揺れ動く中で、企業文化、仕事の仕方、人の考え方まで、企業文化全体にわたるトランスフォーメーションと目的が変わった」と何氏は、DX ジャーニーを歩む中で、そのスケールが大きくなってきたことを述べた。

UDトラックスと PTC による DX ジャーニーは、まだ道半ばであり、今後、ますますの進化を遂げていくことになる。

また何氏は、「将来的には、シームレスなエンジニアリングチェーンとサプライチェーンのデータ連携および双方向コミュニケーション環境を、サプライヤーや顧客などにも展開する。それにより、強靭なサプライチェーンの構築と顧客起点でのビジネスモデル変革を促していく」と、今後の DX ジャーニーの展望について語った。

「不確実性が一段と高まっているニューノーマル時代に適応するためには、IT 業界だけではなく、われわれ製造業においても、AI、ビッグデータ、IoT、クラウド、ブロックチェーン、3D 技術などを活用していくべきだ。モノづくりの変革、競争優位を獲得するためのデジタル戦略、さらに共創を通じた新たな価値創造に取り組んでいかなければならない。われわれも今、まさにそれについて、どう取り組んでいこうか一生懸命考えているところだ」(何氏)。

UDトラックスは、ボルボ傘下時代の 2008 ~ 2009 年にかけて設計現場で PTC「Pro/ENGINEER(現在の Creo)」や PLM「Pro/IntraLINK(現在の Windchill)」を導入した。

UDトラックスと PTC のかかわりは、十数年以上に上る。特に最近は、パートナーシップによって PTC の日本法人である PTC ジャパンとのかかわりが深くなり、「今までよりもすぐ隣にいるように感じられ、親近感がより深まった」と何氏は話す。「当社に、いつも足しげく通ってくださり、新しい機能や製品を意欲的に提案していただいて、非常に感謝している」

UDトラックスは、過去には設計開発の領域のみで PTC の製品を活用してきた。それが、いまや生産やアフターマーケットの領域にまで活用が及び、今後はトラックという製品ライフサイクル全体におよぶエコシステムを作り上げていくことになる。ひいては、それがUDトラックスの掲げる「Better Life」実現の大きな力となっていくだろう。

われわれ PTC は、ソフトウェアベンダーとして「ユーザーにアプリケーションを提供し、使っていただくだけ」だけの存在ではない。顧客の現場にあるデータをいかに活用していくか、または DX を PTC のアプリケーション群でどう支援していけばよいのか共に考え、そして貢献していくことが今後、より一層重要になっていくだろう。

UDトラックスとしても、われわれ PTC の、そういった活動や思いに、大いに期待を寄せてくれているとのことだった。