課題 Carlsberg 社は、生産ラインのパフォーマンスを改善するため、世界 28 カ所のビール工場の生産データを追跡できる一貫した効率的なソリューションを必要としていました。


PTC の ThingWorx により、複数のビール工場におけるリアルタイムのパフォーマンスモニタリングと予知保全を実現


現代の製造業において総合設備効率 (OEE) を向上させるには、生産データの収集が不可欠です。適切な技術を導入して機械のデータを活用すれば、ラインの遅延の削減やプロアクティブなメンテナンススケジュールの設定など、さまざまな価値を企業全体にもたらします。PTC の ThingWorx を使用して飲料の生産業務を刷新し、OEE を改善する一方で、イノベーションと持続可能性への取り組みを続けた企業の事例をご紹介します。

Carlsberg Group: ビール生産業界の世界的大手企業

ポーター、ピルスナー、エール、スタウトなど、あらゆる人気醸造酒の生産プロセスには感性と科学が融合しています。このことを誰よりもよく理解しているのが、1847 年に創業した伝統ある世界的なビールメーカーである Carlsberg Group です。

現在、Carlsberg 社は世界全体に 78 カ所の工場を擁し、主力のビールブランド、地ビール、スペシャリティビール、ノンアルコールビールなど、140 種類以上の銘柄からなる製品ラインナップを展開しています。デンマークを拠点とする Carlsberg 社の従業員は世界全体で 4 万人以上です。「より良い現在と未来のために」という約束を掲げ、二酸化炭素排出量を削減し 2030 年までに排出量ゼロのビール工場を実現するという意欲的な計画もあります。


システムとプロセスの不統一が業界全体の OEE 低下の原因

デジタル化が進んだほかの業界と異なり、ビール業界で生産プロセス最適化のためにデジタルソリューションが導入されるようになったのはごく最近のことです。しかし、Carlsberg 社は、生産ロセスとパフォーマンス測定を強化する方法を求め、10 年以上もデジタルソリューションの検討を続けてきました。

Carlsberg 社や同業他社が直面している業界共通の課題の 1 つが、生産ラインに接続性がない場合、有用なデータを適切なタイミングで収集することが困難であることです。Carlsberg 社では生産データの収集は一部で行われていましたが、紙と手作業で収集していたため、リードタイムが長くなり、機器の状態や稼働停止に関するリアルタイムデータが把握できませんでした。

Carlsberg 社は、以前からデジタルソリューションを検討しており、ラインの作業員が機械の状態を把握しづらい状況を改善できる可能性に気付きました。この状況を改善することで、作業員が進捗状況を確認したり計画外ダウンタイムの原因を調査したりするために、持ち場を離れることを回避できます。また、すでに行われた修理に関する包括的な情報をもっていない作業員が問題に直面し、さらなる遅延が生まれることもありました。

この状況を改善するために、Carlsberg 社の一部の工場では大型スクリーンを導入してラインのパフォーマンスのより高度なモニタリングを行うようになりましたが、その他の工場では引き続き手作業でシステムを使用していました。デジタルスクリーンを使用している工場では、一部の機器のライブデータが表示されたものの、シフトが目標に足してどのように進捗しているかを完全に評価するには不十分でした。Carlsberg 社は、自社の工場全体でデータ収集の一貫性を高められれば、コストを削減し、処理能力を向上できると考えていました。そこで、生産ラインのパフォーマンスを向上させるために、企業全体の生産データを追跡できる一貫した効率的なソリューションを探し始めました。

Carlsberg 社の事例

PTC の IoT ソリューションを活用して工場全体の OEE を改善

Carlsberg 社は、機器のパフォーマンスを一元的に監視することで、より一貫性のある製品を提供し、工場全体の OEE を向上できると考え、データの収集および分析を改善する PTC の IoT ソリューションを導入しました。

まず、PTC の ThingWorx Kepware Server および ThingWorx によって複数の生産ラインの機器を接続しました。ThingWorx Kepware Server は、さまざまなオートメーションデバイスおよびソフトウェアアプリケーションからデータを抽出し、1 つのデジタルデータセットに統合するソフトウェアです。このソフトウェアは、Carlsberg 社の多くの工場にあるような旧式の機械のデータに接続し、アクセスを確保する場合に特に便利です。ThingWorx は PTC のエンドツーエンドの産業 IoT プラットフォームであり、そのリアルタイムデータ分析および分析データと生産に関する豊富なレポート機能により、生産および機器の状態を把握できます。ThingWorx は ThingWorx Kepware Server から取得したデータを可視化することで、データをコンテキスト化し、リアルタイムの状態監視と診断に使用できるようにします。

PTC の技術により、Carlsberg 社は重要なユースケースであるリアルタイムのパフォーマンスモニタリングへの対応を開始できました。Carlsberg 社は現在、ThingWorx のデータを活用して、大型デジタルスクリーンのダッシュボードビューに各ラインの現在の設定、パフォーマンス、設備の状態、主要なパフォーマンス指標を表示しています。作業員はこのスクリーンを見ることで、ラインのパフォーマンスを明確に把握し、完了予定時間や水の消費速度などの要素を評価し、目標とこれらの数値を比較できます。同様に、一部の現場作業員は、タブレット端末に搭載されたアプリで ThingWorx のデータを活用して特定の機械のダウンタイムを追跡し、その原因をリアルタイムで確認できます。さらに、工場内の離れた場所からでも、次にとるべき行動を確認できます。

ThingWorx を使用するもう 1 つのメリットは、システム全体を交換せずにデータを取得して価値を確認できるため、既存の設備の中断を最小限に抑えることです。ThingWorx と ThingWorx Kepware Server を併用する Carlsberg 社は、導入済の設備や制御システムを変更することなく、すべてのパッケージングラインのパフォーマンスを改善できます。

Carlsberg 社の事例

Microsoft Azure と PTC ソリューションの統合により高度な分析機能を実現

クラウドベースのソリューションならオンプレミスのストレージの必要性を最小限で抑えることができると考えた Carlsberg 社は、安全なストレージを提供するだけでなく、ThingWorx と組み合わせて拡張することで、より一元化された運用を実現できる柔軟性も備えた Microsoft Azure クラウドプラットフォームを導入しました。Carlsberg 社の新しいソリューションでは、データが Microsoft Power BI に入力され、企業全体のダッシュボードビューが作成されます。そして、ThingWorx がそのデータをコンテキスト化してスクリーン上に表示します。このソリューションは Microsoft Azure でホストされているため、単一のアプリケーションをインフラが統一されていない複数の工場に展開できます。これにより複数の工場にソリューションを迅速に拡張できるようになり、Carlsberg 社のデジタルトランスフォーメーション (DX) に向けた取り組みの基盤が構築されました。

「ThingWorx と Microsoft Azure を併用して新しいデータを収集し、処理し、新しいものを作り出すのは非常に簡単です。これこそ、PTC と Microsoft のソリューションのメリットです。何かを作り出すとき、構想段階から展開、実稼働開始まで、すべてが非常に簡単です」
- Marco Farina 氏、
グローバル OT マネージャー、Carlsberg 社

さらに、この強力な組み合わせにより、Carlsberg 社は製造およびクラウド技術に関する深い専門知識を活用することもできるため、PTC の先進的なテクノロジーソリューションを最大限に活かして迅速に価値を創出できます。「ThingWorx と Microsoft Azure を併用して新しいデータを収集し、処理し、新しいものを作り出すのは非常に簡単です」と話すのは、Carlsberg 社のグローバル OT マネージャーを務める Marco Farina 氏です。「これこそ、PTC と Microsoft のソリューションのメリットです。何かを作り出すとき、構想段階から展開、実稼働開始まで、すべてが非常に簡単です」

より良い未来のためのデジタルトランスフォーメーション (DX)

現時点で、Carlsberg 社はクラウドおよび IoT ベースのソリューションを 28 カ所のビール工場に導入しています。最終的には、残りのビール工場への ThingWorx の導入も予定しています。Carlsberg 社のデジタルトランスフォーメーション (DX) への取り組みはまだ進行中ですが、リアルタイムのパフォーマンスモニタリングがビジネス全体にもたらすメリットはすでに明らかになっています。業務手順が明らかに改善され、生産率も向上しました。このように効率性が向上したことで、廃棄物を大幅に削減し、二酸化炭素排出量と持続可能性に関する企業目標の達成に近づくことができています。

carlsberg-body-3社内のプロセスが改善されたことで可視性も高まり、予知保全も可能になりました。ラインから収集された ThingWorx のデータを使用して根本原因を分析する方法を適用することで、ラインの問題をより明確に把握して、遅延や機器の稼働停止を削減できます。「過去のデータを見ることで故障が発生する可能性のあるタイミングを判断し、その予測に基づいてメンテナンススケジュールを迅速かつプロアクティブに設定できます」と Farina 氏は言います。「これらの機能を実現したことで、特に世界中の全データのレポート作成と集計を開始してから、日々改善が見られるようになりました」

特筆すべきは、経営幹部から現場の作業員まで、この変化に対する反応が良好で、それぞれから大きな支援を得られている点です。Farina 氏は次のように話しています。「当社の経営陣は、デジタルトランスフォーメーション (DX) に対して非常に協力的です。これが効率化の鍵であり、効率化のための基本手段であることを身をもって理解しているからです」

進化を続ける Carlsberg 社は、すべての工場を 1 枚の画面を通して把握できるシステムを開発することで、引き続き企業全体を世界規模で接続していこうと考えています。これにより、あらゆる非効率の原因を解決し、工場ごとのパフォーマンスを評価し、業務や人材のパフォーマンスをさらに向上させるために新技術を導入すべき領域を判断できます。

Carlsberg 社の多くの社員にとって、デジタルへの取り組みを促進することは単なるイノベーターではなく、より優れた持続可能な未来を見据える企業として、ビール業界における同社の一貫した立場を再認識する手段にもなっています。