StreetScooter のお客様事例 StreetScooter のお客様事例



アヒム・カンプカー (Achim Kampker) 氏まるで自動車開発プロセスをさらに複雑にしなければならないかのように、自動車メーカー各社は電気自動車の開発を始めています。

革新的な電気自動車 "StreetScooter" の開発チームでは、電気自動車というコンセプトに新たなテクノロジを利用するだけでなく、そのクラウド ソーシング型設計に 30 社ほどの協力サプライヤの技術と革新を結集しています。

自動車メーカーの経営幹部に「今、最も心配なことは何か」と尋ねれば、十中八九、短くきっぱりと次の答えが返ってくるでしょう。

「複雑さです」

これは、ドイツの RWTH アーヘン大学が数年前に行った調査で、自動車 OEM やサプライヤの意思決定者たちが述べた言葉でもあります。2007 年のレポート『自動車設計開発における複雑性の管理』で調査結果が発表されました。その要旨では、「OEM および一次サプライヤにとって、多様性管理、テクノロジ管理、およびプロセス管理といった分野で複雑さをうまく管理することは持続的成功の鍵である」と述べられています。

同調査におけるバリエーション管理とは、拡大する一方の製品ラインや頻繁なモデル チェンジ、地域ごとのバリエーション モデルを的確に管理することを指します。自動車業界では、テクノロジの複雑さが急速に問題化しています。RWTH アーヘン大学の教授でレポート『自動車設計開発における複雑性の管理』の主著者であるギュンター・シュー (Guenther Schuh) 氏は、「今日の自動車は、機械設計の産物であると同時に、電子エンジニアリング、ソフトウェア エンジニアリングの産物でもあります。自動車開発では、これら 3 つのテクノロジ領域を効率よく統合することが求められます」と述べています。

これほど急激にバリエーションが増加し、テクノロジが変化する中では、自動車の開発プロセス (メーカー自身によるものと OEM やサプライヤによるもの) に加わる負担も相応に大きくなります。自動車業界のトップ メーカーが製品ライフサイクル管理 (PLM) ソリューションへの投資を増額し続けているのも当然と言えるかもしれません。

「実際のところ PLM は、複雑さを管理するのに非常に有効です」とシュー教授は述べます。その証拠に、RWTH アーヘン大学は、アンケート調査『自動車設計開発における複雑性の管理』を実施した際、PLM ソフトウェアのグローバル プロバイダである PTC に対して助言を求めました。

「そして今、まるで自動車開発プロセスをさらに複雑にしなければならないかのように、自動車メーカー各社は電気自動車の開発を始めています」とシュー教授は言います。


サプライヤ主導の開発

自動車産業への依存度が高い国はどこも、低価格で乗りやすい電気自動車 (EV) の開発競争に乗り遅れまいと必死になっています。中でも危機感を抱いているのが、GDP の 20 % 以上を自動車の開発、生産、供給に直接依存しているドイツです。

「ドイツが EV の開発に躍起になっているのは、環境への負担や化石燃料への依存を減らすためだけではありません」と、シュー氏と同じく RWTH アーヘン大学の教授を務めるアヒム・カンプカー (Achim Kampker) 氏は語ります。「これは純粋な経済的利益の問題でもあります。ドイツの将来は、EV の成否にかかっています」

カンプカー教授はさらに続けます。「ドイツの自動車メーカーやサプライヤには、駆動系の内燃機関から電気へのシフトにおいて、競合企業に先行することが求められます。そこには、文字どおり数百万人分の雇用がかかっているからです」

EV の開発では、バリエーションや技術的な複雑さが増すだけでなく、自動車作りのプロセスそのものが一変する可能性があります。現在進められている最新の EV 開発では、OEM がコンセプトを定義し、プロジェクトを策定して、サプライヤに作業を割り当てるという従来の階層型アプローチに代わって、"クラウド ソーシング型開発" ("クラウド" は "群衆" の意) とでも言うべき方法が採用されています。

カンプカー教授が説明します。「この方式では、サプライヤ自身が自動車の設計と製造を主導します。サプライヤ各社は、同一企業内の部門同士のように共同作業を行うのです」

このコンセプトの実証実験として RWTH アーヘン大学の主導で進められているのが、"StreetScooter" と呼ばれる新しい EV 開発プロジェクトです。このプロジェクトは、ドイツ国内の自動車サプライヤ 19 社が株主として参加する形でスタートしましたが (そのうち 10 社は 1 つの合弁会社として参加)、その後、別のサプライヤ 10 社が戦略的パートナーとして加わり、技術協力を行うこととなりました。開発チームは、プロジェクト管理に PTC の PLM ツールを利用しています。

また、サプライヤ各社の開発作業を調整するための法人組織として、StreetScooter 社が設立されました。カンプカー教授は同社の CEO を務めています。「StreetScooter 社は、革新的な EV の開発を唯一の目的とする会社です」とカンプカー教授は言います。


まったく新しいコンセプト

StreetScooter プロジェクトの目的は、政府から永続的な支援を受けることなく、サプライチェーン パートナーのネットワークによって効率的に開発可能な都市交通向けの EV ファミリーを作り出すことです。

「ドイツ政府は、このプロジェクトに直接的には関与していません」とカンプカー教授は言います。「ただし、プロジェクトの方針は政府計画の大きな影響を受けています。政府の電気自動車に関する国家開発計画は、2020 年までに 100 万台の EV をドイツ国内に普及させることを目指しています。私たちも、この目標達成を後押ししたいと考えているのです」

StreetScooter は、ドイツ国内および周辺の中央ヨーロッパ諸国を主な対象とする取り組みです。このプロジェクトに参加するパートナーの大半は、OEM や大手サプライヤではなく小中規模の企業です。「これは、ドイツの自動車業界が小規模な同族経営企業と深い関わりを持ってきたという歴史的経緯に沿った流れでもあります」とカンプカー教授は言います。

StreetScooter は、このような仕組みにより新しいタイプの企業を EV 開発の最前線に参入させた、これまでにない EV 戦略です。カンプカー教授が指摘するように、すでに EV を手がけている大手自動車メーカーはこれまでのところ、従来型の燃焼エンジン車の設計を踏襲することに注力してきました。「この方法の問題点は、ドライブ トレインを電気系に置き換えるのに、一般消費者がとても受容できない高額な追加コストが 1 台当たり約 1 万ユーロが発生することです」とカンプカー教授は言います。

また初期の EV では、運転性能や快適性も犠牲となっていました。たとえば、エアコンだけでも、自動車のバッテリーにはかなりの負担となります。

「つまり、まったく新しい EV のコンセプトが必要とされているわけです」とシュー教授は言います。「しかし、これまでに発表された EV のコンセプト カーは、極端な運転性能や突飛なデザインに着目したものが多くを占めており、大衆車に求められる基本的な要件を満たすものは存在していませんでした」

StreetScooter は、このような EV とは一線を画しています。StreetScooter の開発チームは、性能や快適性、安全性、信頼性のすべての面で従来型のコンパクト カーに比肩する低価格な EV を開発しようと模索しています。もちろん、収益性も確保した上での話です。

StreetScooter はモジュール製品アーキテクチャを採用しており、これがそのコンセプトを実現するための鍵となっています。各モジュールはインタフェースで連結・分離できるため、モジュールごとの最新のイノベーションを取り込み、継続的に設計を強化することができます。つまり、ビルディング ブロック形式で機能を追加できるということです。

「この学習アプローチを通じ、StreetScooter のチームは、最先端のテクノロジを活用するだけでなく、それらをうまく統合する方法も見つけ出すことができます」と、シュー教授は言います。「StreetScooter では、複数の分野にまたがりダイナミックに学習を重ねることができます。私たちはこの取り組みを通じて、新しい形のコラボレーションを模索し、自動車開発の新標準を打ち立てようとしているのです」


製品とプロセスの統合

StreetScooter プロジェクトは早い段階から大きな注目を集めましたが、この事実は、この新しい開発スタイルに大きな意味があることの証明であるように思えます。開発チームは、最初の稼働プロトタイプを 2011 年 9 月にフランクフルトで開催される国際モーター ショーで披露することを目指しています。年末までには、さらに 10 種類のプロトタイプ車をドイツ国内の公道でテストする予定となっています。

しかし、プロジェクトが順調に進んでいるように見える一方で、その核心である広範囲にわたるサプライヤのコラボレーションは、製品開発プロセスに新たな複雑さをもたらしていました。「そんなとき、問題解決に大きな力を発揮してくれたのが効果的な PLM ソリューションです」とカンプカー教授は振り返ります。

StreetScooter プロジェクトで使用されている PLM ソリューションは、業界をリードする PTC Windchill ソフトウェアです。Windchill は、各サプライヤの作業を調整し、効率化する PLM 機能を備えています。

RWTH アーヘン大学では、この PLM プラットフォームを導入するにあたり、PTC の Automotive Center of Excellence (iCenter サポート チームの一部) のコンサルタントに相談し、自動車業界における導入事例を調査して、設計の基本データ モデルを構築しました。この作業には、すぐに利用できる自動車データ構造の適用や導入が含まれます。その結果、エンジンやパワートレイン、サスペンション、タイヤなど、内装および外装の完全なデジタル プロトタイプを作成できるようになりました。

StreetScooter チームは、PTC Windchill テクノロジをベースとする PLM プラットフォームを利用して、設計プロジェクトにおける各サプライヤのアクセス権と役割を定義、追跡しています。PLM アプリケーションは BOM 管理と変更管理を軸としており、変更リクエストが行われた場合、すべてのチーム関係者は、その影響が及ぶ場所をすぐさま確認することができます。このような仕組みが必要なのは、ある場所における変更は別の場所に直接影響するからです。サプライヤは、PTC Creo View for MCAD ソフトウェアを使用してこれらの影響を視覚化しています。

PTC Windchill プラットフォームでは、各サプライヤが使用する CAD ソフトウェアに関係なく、あらゆる製品データを管理できます。「Windchill は、本当の意味でのマルチ CAD データ管理環境です」とカンプカー教授は言います。「Windchill のおかげで、機械設計、電子設計、ソフトウェア設計の間にあった壁を取り払い、これら 3 つの分野を緊密に統合した自動車開発を実現できています」

StreetScooter チームがさらに野心的であるのは、製品設計に関する意思決定と製造に関する意思決定をより強く結び付けるために PLM を活用していることです。この試みは、StreetScooter の可能性をさらに広げつつあります。

「これまで、自動車設計に関する多くの意思決定は、製造規模に基づいて下されてきました。つまり、製造ロットがある一定の数量でなければ利用できない技術があったのです。しかし PLM を導入したことで、このような制約に縛られることなく、より多くの選択肢を検討できるようになりました」とカンプカー教授は言います。

「たとえば、チューブラー スペース フレーム コンポーネントの採用可否を判断するのに PLM ツールを利用しています。チューブラー スペース フレームは、従来のプレス部品や成形部品よりも安価に製造できますが、これまでは、小ロットのオートバイ製造に利用が限定されていました」とカンプカー教授は言います。

しかし、「StreetScooter で採用できれば、車体価格を低く抑えることができます」とカンプカー教授は言います。

ほかに類を見ない開発スタイル

製品、製造、プロセスのいずれの観点から見ても、StreetScooter プロジェクトは、他に類を見ないまったく新しい開発スタイルを採用しています。同プロジェクトでは、非常に多くのサプライヤが共同作業を行っているため、プロセスの複雑さも突出していますが、パートナー各社は、単に難題に取り組む以上の成果を生み出しているように見えます。その力の源は、同プロジェクトにおける PLM の活用方法にあります。

カンプカー教授は、「私たちは、プロジェクトの長期的な成功を支えるため、設計情報とプロセス情報の管理基盤を構築しました。PLM は、StreetScooter のビジョンを具現化するための知識ベース、つまり "唯一の正しい情報源" としての役割を果たしているのです」と言います。