日本を拠点とする日本電産 (Nidec Corporation) は、世界最大規模のモーターメーカーです。世界 8 カ国で事業を展開しており、製造工場 11 カ所、研究開発ラボ 50 カ所以上、事業所 3 カ所、グローバルビジネスサポートセンター 1 カ所を拠点として保有しています。2019 年にはブラジル企業の Embraco を買収して冷却ソリューションに注力する新部門を設立しました。Embraco ブランドは、可変速コンプレッサーの開発や省エネに欠かせない自然冷媒の利用に早くから取り組んだことでよく知られています。
Embraco の画期的なソリューションは、生活の質を向上させ、環境に大きな影響を与えています。たとえば、可変速コンプレッサーは平均 35% の省エネ効果をもたらし、国際規制として最も厳格なエネルギー効率水準を満たしています。
経営陣の支持を受けた IT 部門と設計部門が協力して効率化を推進し、従来よりも多くのプロジェクトを立ち上げ、市場投入までの期間短縮、コスト削減、品質改善を実現しています。
国際的な圧力
製品の変化: EU は気候変動とエネルギーに関する政策により 2020 年 ~ 2030 年にエネルギー消費を 1990 年の 40% に削減することを目標に掲げており、そのことは Nidec Global Appliance をはじめとする企業に大きな影響を及ぼしています。食洗器などの家電製品や冷却システムなどの商業用電化製品は新しい規格に基づいて再分類されるようになり、現在の製品の設計の多くはそれらの規格を満たさないものとなります。現在 AAA に認定されているものが、新しい規格では F に認定されるようになります。
国際競争の激化: 中国と日本の企業はイノベーションに優れており、トレンドへの対応が迅速です。エネルギー効率は価格に反映されます。Nidec Global Appliance は、長年にわたり、他社に先駆けて製品を市場に投入していますが、現在は世界的な生産過剰状態にあります。そのため、製品開発を迅速化しなければ、製品価格を大幅に下げざるを得なくなります。
サプライチェーンの分断化: イノベーションが加速化しているため、Nidec Global Appliance は新しいサプライヤーの部品や既存のサプライヤーの部品を速やかに認定する必要があります。さもなければ、製品の市場投入で遅れをとることになります。
調査の概要
今回の調査は以下の重要業績評価指標 (KPI) を中心に実施され、Nidec Global Appliance では、製品ライフサイクル管理 (PLM) 戦略の結果として、以下のような成果が確認されました。
- 大規模プロジェクトの件数: 284% 増
- 市場投入までの期間: 48% 減
- リソース: 22% 減
- 品質: 低品質によって発生するコスト 40% 減
「IT チームは研究開発チームと共に知識を身につけ、より即応性のあるアプローチを取り入れました。継続的な改善の理念に基づき、当社のチームワーク、手法、ツールは時間と共に進化しました。」
Thalita Begliomini 氏、ガバナンス、リスク、およびコンプライアンス担当グローバル IT マネージャー、Embraco 社
課題
Nidec Global Appliance は、2015 年に CAD データの管理のために PTC の Windchill を導入しました。そうしなければ、製品関連の情報がサイロ化されたシステムに保存されたままになっていました。システムやプロセスが分断されていたため、製品化の遅れは避けられず、低い歩留まり、社内や顧客のラインでの問題、手直し、現場での故障が生じていました。Nidec Global Appliance では、市場投入までの期間を短縮し、品質問題によるコストを削減するには製品開発の統合と合理化が不可欠であると認識していました。
全社を挙げて PLM に取り組む以前は、部品、製品ドキュメント、認定、およびプロセスのトレーサビリティならびにガバナンスはプロジェクトベースで行われ、関連付けられていませんでした。Nidec Global Appliance の拠点は、ブラジル、メキシコ、中国、欧州にあり、各地域にあるドキュメントとプロセス用の個々のデータベースが互いから切り離され、サイロ化されていました。多数のバリエーションを含む製品を提供し、独自の部品表 (BOM) が 17,000 もあるにもかかわらず、それらの情報に世界中からアクセスできなかったため、作業の重複が頻繁に発生し、一貫した品質が保証されていませんでした。
単一の正しい情報源がなかったので、従業員は、製品バリエーションを正確に設計するために必要なドキュメントや履歴を見つけるのに苦労していました。その結果、若干のバリエーション変更でも何度もテストを実施しなければならなくなり、そのことが新しいバリエーションや新製品のリリースの遅れにつながっていました。大規模および中規模プロジェクトでは、予防できるはずの不良品、手戻り、スクラップ、余分な作業時間、サイクル時間などがプログラムのコストをさらに押し上げていました。
設計変更にも問題がありました。開発者は作業データを Windchill と SAP に別々に入力しなければならないため、2 倍の労力がかかり、ミスの可能性も高まっていました。SAP のデータが Windchill のデータとは異なっていたこともありました。設計を開発段階から製造段階に移行する際、BOM や関連作業の指示事項で整合性がとれていないことがよくあったため、問題が発生していました。
作業方法を変更することは簡単ではありません。ガバナンス、リスク、およびコンプライアンス担当グローバル IT マネージャーである Thalita Begliomini 氏は、次のように説明しています。
「個々のシナリオに基づくプロセスの違いには、実質的な理由や認識上の理由がありました。独立した立場にある研究開発チームでは、彼らにとって既に機能しているプロセスとは異なるものを標準プロセスとしなければならない理由がわかりません。作業方法を変えたいと思う者は誰もいませんでした。私たちは、プロセスを標準化することによって、はるかに優れたサポートを IT チームが提供できるようになると、各チームを説得しなければなりませんでした。今では、協力して何ができるかを全員が理解しています」
Nidec Global Appliance の OEM の顧客については、製品の変更を伝えるための標準化された手段がありませんでした。そのような情報が伝えられなければ、OEM でライン障害が発生する可能性があり、Nidec Global Appliance は問題修正や評判回復のために時間とリソースを余分に割かなければならなくなります。
サプライチェーンでも、標準的な要件セットがないことで問題が発生していました。認定手続きが一貫性を欠くものであるだけでなく、サプライヤー情報のデータベースがいくつもの地域に分散されているため、サプライヤー認定に時間がかかっていました。
同様に、現場で冷却機などのコンプレッサーが故障した場合、品質管理チームは、根本原因の分析と修正策や防止策を実施するために、開発、サプライヤー、製造に関する情報をトレースすることができませんでした。
ソリューション
Nidec Global Appliance は、事業を最適化するための手法を検討し始めました。IT のリーダーチームは、テクノロジーを連動させるだけでなく、品質、安全性、迅速性への対応を可能にするテクノロジーの堅牢なエコシステムを構築しなければならないことを認識していました。
IT チームは PTC と連携するという決断を下し、Windchill を製品関連情報のための戦略的システムとして選択しました。Windchill に最初から用意されている PLM プロセスを使用し、企業文化を改革に必要なガバナンスとトレーサビリティを実現し、納品までの期間短縮を実現しました。
PLM 導入プロセスの一環として、IT 部門は研究開発部門と協力してデータベースを整理し、現在のインフラストラクチャーについて把握しました。
手戻りやテストの時間が大幅に削減されました。変更および構成管理が導入されて、開発プロセス中の変更リクエストがドキュメントに関連付けられ、該当するすべての承認と検討事項と共に自動的にアーカイブされるようになりました。
Windchill と SAP 間でデータが失われることがないように、製品構造が整理されました。
さらに、新たなプロセスにより新たな効率性がもたらされました。たとえば、プロジェクトの計画時には、品質確保のために最初と最後のテストを同じ担当者が実施するなど、手戻りが少なくなるよう、従業員に特定の役割が割り当てられます。
顧客も PLM によるメリットを受けており、十分に統制された設計変更通知 (ECN) プロセスによって変更が分析、検討されています。テストと認定に関するドキュメントが用意されており、プロセスに役立っています。
サプライヤーも、強化された認定システムによるメリットを得ています。
「主要な研究開発プロセスは、Windchill が管理する堅牢なプロセスに基づく信頼できるデータを使用して、世界レベルでデジタル化されました。それにより、当社は、データに基づいてビジネスを促進し、人工知能を活用した取り組みを開始できました」と、テクノロジーおよび分析責任者の Luiz Gustavo de Oliveira 氏は説明しています。
成果
エネルギー効率に優れた冷却ソリューションの分野で競争力とリーダーとしての地位を維持するため、Nidec Global Appliance は事業を改革する必要がありました。同社は、デジタル PLM 戦略を実施し、Windchill や SAP などの異なるシステムを統合することにより、製品のライフサイクル全体を通じた品質管理手法を再定義できました。
研究開発担当シニアマネージャーの Gerson Heusy 氏は、次のように述べています。「当社では製品の世代が新しくなるごとにエネルギー効率が 5% 改善されています。画期的なツールによってイノベーションが実現されました」
それらの画期的なツールは、Nidec における製品のタイムラインに大幅な変化をもたらしました。また、市場投入までの期間が 48% 短縮され、大規模プロジェクトの件数は 284% 増加しましたが、このような成果は PLM 導入前のリソースの 78% で達成されています。ガバナンスとトレーサビリティだけでなく、企業全体でのその他の品質への取り組みも強化され、低品質に起因するコストも 40% 削減されました。
現在では 900 名の従業員が Windchill を利用しており、毎日の利用者数は 300 名に上り、システムは全世界で 24 時間 365 日稼働しています。
今後
PLM 導入プロセスの成功を受け、IT チームは研究開発部門との信頼関係を築くことができました。今後の優先課題は、生産ラインのパラメータを確立して効率性を評価し、運用コスト削減、工場の生産性向上、設備の利用率改善の可能性を模索することです。Nidec Global Appliance で品質管理がデジタルスレッドに組み込まれるようになることに、疑いの余地はないでしょう。