ソリューション コンサルティング, シニアプリンシパルソリューションコンサルタント
機械メーカーのCAE部門を経て1997年に入社。以来、教育、コンサルティング、プリセールス、QAなどの業務に従事し、現在は解析系を中心にCAD全般のプリセールスを担当
※本ブログは、Creo Chapter Webinarシリーズを記事化したものです。
まず、流体解析のお話をする前に、Creoで可能なシミュレーションや解析について少し説明します。「Simulation-Driven Design」と「Traditional Analysis」の2つの分類についてです。
開発初期段階では「Simulation-Driven Design」が有効です。このプロセスでは、設計を検討しながらシミュレーションを加え、その結果をもとに設計を進めていきます。
一方、「Traditional Analysis」は、従来の構造解析や流体解析を指します。これらは昔から行われており、開発プロセスの後半で行われることが多いため、このように分類しています。
Creoには、さまざまなシミュレーション機能が搭載されています。これらのシミュレーション機能は「Simulation-Driven Design」としてリスト化されており、特に「Simulation Live」「Generative Design」「Behavioral Modeling」などは、設計初期段階で有効に活用できます。これらの機能については、Creoチャプターシリーズの2回目と4回目で詳しく紹介しており、YouTubeのPTCチャンネルでも再確認が可能です。
一方、「Traditional Analysis」は、従来からある構造解析、運動機構解析、流体解析などを指し、これらもCreo内で実施可能です。
Creoでの熱流体シミュレーションに関して、Creoで実施できる熱流体シミュレーションは2つの方法を用意しています。「Creo Simulation Live Advanced」は、先ほども述べたように、Simulation Liveのオプションモジュールである「Advanced」を導入することで、こちらでも熱流体解析を行うことができます。Creo11からは、流体と固体の間で熱伝達(共役熱伝達)が可能になり、これにより熱流体シミュレーションがSimulation Liveで実施できるようになっています。
メニュー構成はシンプルで、設計者が使いやすく、答えが早く得られることを目指して設計されています。
一方、「Creo Flow Analysis」は「Simulation Live」と比べるとメニュー項目が多く、設定項目も多岐にわたります。そのため、設計者にとっては少し使いづらいと感じるかもしれません。しかし、「Creo Flow Analysis」は、設計者が十分に活用できるように作り込まれています。
流体解析に関する問題は多くの企業で共通しているものと考えられます。PTCのツールに限らず、流体解析に関する一般的な課題を挙げると、まずは「CFD解析を行うには多くのトレーニングが必要であり、解析の内容を深く理解していないと使用できない」という点があります。また、CADとは別に、第三者のツール(CFDツール)を使って計算を行う場合もあり、これが設計者にとっては手間となり、専任の専門家でないと使いこなせないことがよくあります。
さらに、流体解析は構造解析などに比べて計算時間が長くなることが多いため、設計者が忙しい中で計算に多くの時間を割くのは難しいという課題もあります。これらの理由から、設計者が設計の初期段階で流体解析を行うのではなく、従来は専門家が行うことが一般的だったと考えられます。
こういった課題を解決しようというのがCreo Flow Analysisの目的です。今挙げた課題に対して、以下の4つの特徴があります。
使いやすさ:簡単に解析モデルを作成できるように設計されています。
CADとの統合:Creoの中にCFDを組み込み、CADとCFDがシームレスに統合されています。これにより、設計者は日常的にCreoで3Dモデルの設計を進めながら、同じ延長線上でCFD解析を行うことができます。
解析時間の短縮:従来は時間がかかるという認識がありましたが、できるだけ迅速に計算を終わらせるように作り込まれています。
BMXとの連携:BMX(Behavioral Modeling Extension)は感度解析や最適化を行うためのオプションモジュールです。設計者は寸法やパラメーターを最適化し、流体解析と連携させることができます。これにより、設計者が早期の段階でさまざまな検討やパラメーター設定を行いながら流体解析を進められます。
これらの特徴により、設計者は早期段階で流体解析を行うことができ、従来のように専門家だけでなく、設計者自身が積極的に解析に取り組むことができるようになります。Creo Flow AnalysisはもともとTraditional Analysisに分類されますが、これらの特徴により設計の初期段階でも流体解析を行えるというメリットがあります。
まず、特徴の中で2番目の「CADとCFDのシームレスな統合」について説明します。ここでは、Creo Flow AnalysisをCreo Parametricの操作画面内で使用できるようにしていることが大きな特徴です。Creoで作成したモデルを、そのまま同じインターフェースで前処理や解析結果を行うことができます。このように、CFD解析がCAD環境内でシームレスに統合されていることは、従来、CFDツールを別途使用していた方々にとって、非常に大きなメリットです。CADで作成した3D形状がそのまま解析に使える点は、特に優れた特徴といえるでしょう。
さらに、これだけに留まらず、Additive Manufacturingで作られたような複雑な3D形状(例えばラティス構造や格子構造)にも対応できる点も大きな特徴です。
また、BMX(Behavioral Modeling Extension)を使って感度解析や最適化を行うこともでき、流体解析を用いて寸法決定やパラメーター調整が可能です。このように、CADとCFDが双方向にデータを連携しながら進行できることも、Creo Flow Analysisの大きな強みです。
設計者は日常的に流体解析を行うわけではないため、操作方法を一度覚えても時間が経つと忘れてしまうことがあります。その結果、再度操作方法を思い出すのが面倒で、使いづらさを感じることがあると思います。これに対処するため、便利な「ウィザードによる解析条件の定義」機能があります。
ウィザード機能は、設定すべき項目を順番に問いかけてきます。設計者はその都度質問に答えるだけで、簡単に設定を完了できます。例えば、プロジェクト名や解析する物理現象、重力の有無、流体ドメインの作成の有無などを順に設定することで、解析条件が自動的に定義されます。この方法なら、一度操作を覚えておけば、次回解析を行う際にも覚え直す必要がなく、非常に使いやすくなります。
この工夫により、流体解析を簡単に行えるようになります。
BMX(Behavioral Modeling Extension)との連携と、「感度解析とは何か?」という点を詳しく説明します。
まず、感度解析の結果についてです。結果として出てくるのは、右に示したグラフのようなものです。横軸には設計変数(例えば寸法やパラメーター)が設定され、縦軸にはその計算結果がどのように変動するかが示されます。感度解析という名前が付いている通り、この解析を通じて、設計変数を変更したときに、結果がどれくらい敏感に反応するかを判断できます。
例えば、設計変数としての寸法を変化させたときに、結果が極端に大きく変わる場合、それは「敏感」であり、逆に少々の変更で結果がほとんど変わらない場合、それは「鈍感」となります。この情報を基に、設計者は敏感な設計変数をうまく調整し、設計を進めることができます。
この感度解析は、流体解析とは直接関係なく、Creoの通常の設計活動として行うことができます。ただし、今回、流体解析とこの感度解析を連携させることができるようになりました。
例えば、オートバイの風防にかかる圧力が流速とどのような関係があるかを調べる場合、流速を設計変数として設定し、その範囲を50から90に設定します。そして、計算結果として風防にかかる圧力を使い、その結果をグラフとして出力することができます。このようにして、流体解析を通じて得られたデータを感度解析に組み込み、より効率的に設計を進めることができます。
もう一つ、実行可能性最適化について説明します。ここでは、同じモデルと条件を使って、実行可能性最適化を試してみます。この機能を使うことで、流体解析における逆の計算を行うことができます。
通常の流体解析では、流速を与えると風防にかかる圧力が計算されますが、実行可能性最適化では、風防にかかる圧力がいくらになる時に、流速がどれくらいであるべきかを逆に求める計算を行います。これにより、設計段階で「この圧力を達成するには流速はどれくらいにすべきか?」という疑問に答えることができ、必要な寸法を計算することができます。
たとえば、この図のように実行可能性最適化を行うと、流速が78のときに圧力が101500になることがわかります。ここで設計変数を流速に設定した場合、設計変数が寸法であれば、必要な寸法を算出することができます。そして、これらの結果はCADに反映させることも可能です。
また、設計変数が複数の場合には最適化を行うこともできます。これにより、設計段階で流体解析を活用し、より精密な設計を進めることが可能になります。設計者はこの機能を有効に活用し、設計の精度を高めることができることが理解できるかと思います。
設計者に限らず、専門家の方々も複雑な計算を行いたいというニーズがあると思います。そうした方々のために、Creo Flow Analysisではさまざまな解析タイプを用意しています。これらの解析タイプを実現するために、3つのパッケージが提供されています。これらのパッケージは「Creo Flow Analysis」、その上位版「Advanced」、さらに「Premium」となっています。それぞれのパッケージで実行できる解析タイプが異なり、どのパッケージを使用するかによってできる解析が変わります。
「Advanced」や「Premium」パッケージは、より複雑な流体計算が可能で、より高度な解析を行いたい場合に適しています。一方、Basicパッケージにあたる「Creo Flow Analysis」は、基本的な流れと熱の計算に対応しています。これまでは設計者が熱伝達率を公式や経験則に基づいて計算し、構造解析ツールを使って計算していました。しかし、流体解析は時間がかかるうえに難しそうだと感じ、あまり利用されていなかったかもしれません。
ですが、このFlow Analysisを使用することで、設計者が現実に即した解析を実行できるようになります。熱伝達率の変動を流体の流れによって考慮し、より現実に近い解析を行えるようになるため、設計者も積極的に活用できるようになるでしょう。
それぞれのパッケージでどのようなことができるかを、当ページで紹介しています。まず、Basicパッケージの特徴についてです。このパッケージでは、流れ、熱伝導、乱流の計算が可能です。内部流れ、例えば容器内の流れや、外部流れ、例えば飛行機や自動車の周囲を流れる空気の流れなどの計算を行うことができます。
また、流れと熱が関係するような計算も実行できます。計算結果は、先ほどご覧いただいた通り、リアルタイムで流れの状態を確認できるため、設計者が進行中の解析を逐次確認しながら進めることができます。
さらに、並列処理が可能で、コア数が多いPCを使用することで、より高速に計算を行うことができます。最大で8コアまで対応しており、効率的に計算が実行できます。
次にAdvancedパッケージについてです。このパッケージでは、4つの追加機能が提供され、さらに高度な解析が可能になり、次のような計算ができます。
粒子の軌跡の追跡: これは流体中の粒子の動きを追跡し、どのように移動するかを計算するものです。
熱の輻射: サーフェス間で熱がどのように伝わるかを考慮した熱伝達計算が可能です。
種シミュレーション: 英語で「スペーシー」と呼ばれるこの計算では、例えば水にインクを落としたときのように、液体の中でどのように成分が拡散するかをシミュレートします。密度の異なる液体の拡散計算にも対応しています。
可動/スライディングメッシュ: ファンなどの可動体を使用して流体の流れを発生させ、その流れの状態をシミュレーションすることができます。メッシュを動かすことで、可動部分と流体の相互作用を解析できます。
これらの機能を活用することで、より詳細で複雑な流体解析が可能となり、設計者は幅広いシナリオに対応したシミュレーションを行うことができます。
最後に、Premiumパッケージについてです。このパッケージでは、さらに4つの追加機能の計算が可能になります。以下にその機能を紹介します。
キャビテーション解析: プロペラが回転する際に発生する気泡などのキャビテーション現象を確認することができます。これは流体の圧力変動により、気泡が発生する状況をシミュレーションします。
多相流(混相流)解析: 液体と気体の相互作用を考慮した計算ができます。例えば、最初は空のタンクに水を充填する際の液体と気体の挙動をシミュレーションすることができます。
多成分混合解析: 異なる成分を含むガス(例えば、密度が異なるガス)を複数の入り口から流し、それが混合されることで出てくる濃度の分布を計算します。
ダイナミック解析: 左右の流体の流れによって圧力差が生じ、その圧力差で真ん中の板(例えば丸い板)が動く動きを計算することができます。自由度としては、平行移動や回転移動の一自由度の動きが計算でき、流体の影響で物体がどのように動くかをシミュレーションします。
これらの機能を活用することで、さらに複雑な流体解析を行うことができ、設計の精度を高めることができます。
2023年にアメリカで開催された弊社のユーザー会で発表された事例をご紹介します。この事例は、ダクトロニクスという会社で、主にスタジアムや野球場などで使用される大型パネルの製造を行っている企業です。最近では、ほとんどの野球場で、バックネット後方に大きなパネルが設置されています。これらのパネルは、電子部品が多く組み込まれているため、熱を発生しやすくなります。高温になると故障の原因となるため、事前に熱が発生しないかどうかを確認することが非常に重要です。
しかし、大型パネルの試作品を何個も作ることは難しいため、シミュレーションを活用して、発熱を抑えるための精度の高い計算を行いたいと考えていました。さまざまなCFDツールを検討しましたが、最終的にCreoを使用しており、その中のFlow Analysisを選択しました。Flow Analysisを使うことで、思い通りに熱管理ができ、効果的に発熱対策ができたというコメントをいただいています。
従来の計算ツールであるFlow Analysisは専門家によって利用されていますが、設計者が初期段階でBMXなどのツールを使いこなし、設計検討の中で流体解析を活用できる点が大きな特徴です。計算時間が短縮され、待機時間なく設計作業に役立てることができるため、非常に効率的です。
Q: 密閉された容器内で自社デザインの羽を回転して、シミュレーションを実施することは可能ですか?どのような状態が必要になりますか?
A: Advancedモジュールでは、さまざまなシミュレーションを実行することが可能です。アニメーションとして羽の回転が表示されるわけではありませんが、計算自体は羽を回転させる形で行っています。液体の密度や物性値などの計算条件を設定し、シミュレーションの初期状態を定義することで、羽の回転を含む計算を行うことができます。Advancedモジュールを導入していただければ、これらのシミュレーションを実施することができます。
Q: 計算速度が速いのはなぜでしょう?アルゴリズムの工夫はどのような点にありますか?
A: 流体解析の速度について詳しく説明するのは少し難しいですが、Flow Analysisは他の有名なCFDツールと同じことを行っています。ただし、従来のツールと比較して、Flow Analysisは後から登場したため、差別化が必要でした。そのため、開発元であるSimerics社は、ツールのスピードを重要な特長として強化し、アルゴリズムを工夫して高速化を実現しました。
また、流体解析を実行するマシンについても、コア数が多ければ並列処理を活かして高速化が可能です。これは、マルチコア処理を活用することで、処理速度が向上するためです。
Q: 熱流体解析シミュレーションを行っています。対流を計算する場合、熱伝達係数は計算してくれますか?それとも値を入力する必要がありますか?
A: 流れと固体が一緒に計算される場合、流れから固体に熱が伝わります。その際、熱伝達率が計算されますが、ユーザーが事前に熱伝達率を計算しておく必要はありません。フローアナリシス内で熱伝達率が自動的に計算され、計算後にその値を確認することができます。
例えば、ラジエーター内の流体について計算する場合、ラジエーター周囲の空気はモデル化されていない場合があります。その際、空気とラジエーター間の熱伝達率を設定することで、ラジエーターと空気の熱のやり取りを計算し、温度分布を求めることができます。
Q: Creoのモデルですが板金データでも解析データとして使えますか?他の解析では板金のみNGが多いです。
A: 板金データでも計算は可能ですが、構造解析のように板金データをシェルとして扱い、二次元的な要素として使う場合とは異なり、流体解析ではシェルなどの概念はありません。流体解析では、薄肉であっても厚みがある部分を3次元的に扱い、計算を行います。
しかし、薄肉の部分を計算する場合、メッシュを切らなければならないため、計算が少し複雑になります。流れのみを計算する場合、板金の内側だけを扱えばよく、厚みは関係ありませんが、熱伝達を計算する際には厚みを考慮する必要があり、メッシュをしっかり切る必要があります。そのため、メッシュを細かく切ることが求められますが、その分、メッシュ数が膨大になり、計算時間が長くなるという注意点があります。