Creo を進化させる GPU の力~そしてメタバースへ~
9/27/2022 読み込み時間 : 7min

Creo Simulation Live とは

Creo Simulation Live」は、3D CAD「Creo」の中でリアルタイムなシミュレーションができるツールで、2019 年にリリースされました。GPU を駆使することで、構造解析、伝熱解析、固有値解析の結果が秒単位で非常にすばやく得られ、しかも Creo 側で 3D モデルを修正すると解析結果へ即座に反映されます。操作方法も簡単で、対話式で指示を受けながらシミュレーションの設定が行えます。

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Creo Simulation Live の画面


Creo Simulation Live は、まさに設計をしながら電卓をたたく感覚で使用できます。このソフトウェアは、3D CAD の老舗である PTC が、CAE の老舗である Ansys とのパートナーシップを組んだことで実現しています。

2020 年に「Creo 7.0」がリリースされたタイミングで、Creo Simulation Live に流体解析も加わっています。以前は設計者にとって、ハードルが高いといわれてきた流体解析がいよいよ身近になってきました。

一般的な CAE ソフトウェアの計算速度では、単純な形状で簡単な梁計算でも早くても数分程度はかかるものです。シリンダブロックのような複雑な形状を扱っても数秒から十数秒あれば計算できる Creo Simulation Live の計算速度は驚異的と言えます。もしも Pro/ENGINEER と称していた時代のユーザーが、現在にタイムスリップしてきたら、目を疑うような光景でしょう。

このように、高機能化してきている Creo Simulation Live ですが、より専門性が高く、解析専任者の知見が必要な解析では「Creo Ansys Simulation」が活躍することになります。設計者が Creo Simulation Live を使って行う設計者 CAE、設計者があたりをつけた現象について Creo Ansys Simulation でより詳細に解析する CAE と、「両輪の CAE」活用で、設計課題や問題を設計の初期で徹底的につぶしていくことが可能です。

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Creo Simulation Live と Creo Ansys Simulation による設計の進め方


もう 1 つ、Creo の最新技術の目玉ともいえるのが「Creo Generative Design」です。PTC は 2018 年に、AI を活用したジェネレーティブデザイン技術を開発していた米 Frustum 社を買収しています。Creo 7.0 から実装された Creo Generative Design の機能は Frustum 社の技術が生かされています。

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Creo Generative Designの重要性


Creo Generative Design は、設計で想定する荷重、材料、加工方法(鋳造か、切削か、3D プリンタなど)といった条件を設定すると、コンピューターが AI アルゴリズムを使って最適な形状を自動で生み出す機能です。

機械設計者が部品の形状を考える際は、加工が極力しやすく、なるべくシンプルな形状を考えていきます。また設計者が考えつく形状は、自身がこれまで設計した部品や、先輩が設計した部品の影響を大いに受けているものだと思います。一方、ジェネレーティブデザインは、人が持つ経験や知識に基づかないため非常に斬新ともいえる形状を考え出します。

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Creo Generative Design とは


Creo Generative Design で快適な処理を行うためには、大きなグラフィックスハードウェアの力が必要です。

今日のハードウェア進化があってこそ、 Creo Simulation Live の驚異的な計算スピードや、Creo Generative Design のユニークな機能が実現できています。Creo のサポートに携わる PTC のエンジニアたちも、今後の Creo において、特に GPU の役割がますます重要になってくると考えています。

Creo の最新機能を快適に使用するためには、PC に NVIDIA CUDA コアのグラフィックカードが搭載されていることが必須であり、8GB 以上のメモリが推奨されます。Creo Simulation Live の場合は、GPU をより高性能なものにするほど計算速度や精度が格段に高まります。

下記は、NVIDIA(エヌビディア)社によるベンチマークの結果であり、Creo Simulation Live の計算スピードを示しています。

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NVIDIA 社によるベンチマーク


左から、流体解析、熱解析、固有値解析、構造解析の計算速度を示しています。それぞれ 4 本のデータの棒がありますが、それらは GPU の種類別になっており、左から「Quadro P2200」「RTX A2000」「RTX 4000」「RTX A4000」で、右にいくにつれ高性能になっています。また Quadro P2200 の処理スピードを「1」として、それ以上のクラスの GPU が何倍の処理スピードになるかを示しています。このデータからは GPU の世代によって大きく性能が異なっていることが分かります。Creo Simulation Live はメッシングを GPU メモリ上で行うため、メモリ容量の大きさも性能に大きく左右するということでした。

また、NVIDIA 社によれば、Creo Simulation Live を使うなら、「RTX A2000」もしくは「RTX A4500」がちょうどよいとのことです。Creo Generative Design を使う場合は、AI の高度な処理が伴って大きなグラフィックスパワーを消費するため、グラフィックスカードは「NVIDIA RTX A5000」だと適切だということです。

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NVIDIA RTX のラインアップ


PTC の Platform Support ページ から、システム要件をチェックできるハードウェアユーティリティーがダウンロードできますので、採用を検討する場合は、まずそちらでチェックしてみることをお勧めしています。

適合する性能の PC を探していくと、タワー型のワークステーションではなくても、ラップトップ型のモバイルワークステーションに NVIDIA CUDA グラフィックカードが搭載された機種があります。社内で部屋を移動する際に持ち歩いたり、出張時に持参したり、あるいはリモートワークの時に、いつもの環境で仕事ができることは重宝します。

DELL のタワー型ワークステーションであれば、ハイエンド機種なら、NVIDIA RTX A6000 が 3 枚も搭載できるとのことです。ラップトップ型のモバイルワークステーションのシリーズでは、グラフィックスカードは NVIDIA RTX A5500 まで載せられる機種があるそうです。ぜひ参考にしてください。なお PTC ジャパンでも、Dell Precision を使用して Creo の最新機能に関するベンチマークテストをしている最中です。

DELL 社に話を聞いてみたところ、薄いラップトップ型モバイルワークステーションはやはり今、よく売れているそうです。

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DELL 社のラップトップ型モバイルワークステーションのラインアップ



NVIDIA 社が作りだす産業メタバースの世界

NVIDIA 社が開発したグラフィック・コラボレーション・プラットフォーム「NVIDIA Omniverse」(Omniverse)は、NVIDIA のGPUパワーを駆使して、コンピューターの仮想空間に、映像作品や建築設計、製品開発などを進めるためのさまざまなソフトウェアのプログラムやデータを持ってきて、かつそれらが密連携できるコラボレーション環境を作りだす技術です。

Omniverse は、作品や建物、製品の製作(制作)にかかわる皆が、同じ 3D データを共有して閲覧でき、かつ、さまざまな種類のソフトウェアを使い、複数のユーザーが修正や編集を一気に同時に行えるという仕組みです。

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Omniverse の画面:左側がソフトウェアそれぞれの編集画面で建材や机などのデータを作成している。右側は、複数のソフトウェアで編集しているデータを統合した状態で表示し、リアルタイムで編集状況を反映している。

さらに、Omniverse は VR(仮想現実)で、3D データの空間に没入させて提供が可能になっており、自分自身のアバター(分身となるキャラクター)を置くことも可能です。現在は、AI を使ってアバターにしゃべらせるプログラムを開発中のようです。

Omniverse を用いて、製造業においても皆で同じデータを扱い修正がリアルタイムに行えれば、従来の組織のような専門分野縦割りのバケツリレー状態から、異部門の横連携で一気に設計を進められるようになります。

製造業では BMW による Omniverse のデジタル工場の事例 があり、2022 年 6 月に開催された「NVIDIA AI DAYS 2022」で披露されています。

登場からしばらくは 3D CG 系のソフトウェア中心に機能を提供していた Omniverse でしたが、2022 年 7 月に Creo 向け CAD インポータのベータ版もリリースし、いよいよ 3D CAD との連携機能を提供開始。同年度末までに正式版もリリースする計画ということです。この機能では、Creo の画面から Omniverse 用データを生成できます。そして Omniverse 内で Creo の 3D データを取り扱い、(現在は、まだ簡易的にではありますが)部品配置の変更や、形状編集などが可能です。Creo 用のインポータは無償版もあるとのことなので、興味のある Creo ユーザーはぜひ試してみてはいかがでしょうか。

NVIDIA 社によれば、寸法や履歴の概念、属性情報など持ち、さまざまな種類かつ独自のモデリングカーネル(アルゴリズム)が存在するソリッドの 3D データを Omniverse で扱うのは、なかなか難易度が高いとのこと。そのため、Omniverse での 3D CAD 連携強化においては、われわれ PTC のような CAD ソフトウェアベンダー側の協力が不可欠ということです。

将来もしかして、この Omniverse の環境に、Creo Simulation Live や Creo Generative Design も乗ることになるかもしれません。そうするといよいよ、「製造業メタバース時代」の到来となるでしょう。


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ご参考

  • DX を加速させる 3D CADソリューション: 日本語特設ページは こちら
  • Creo ブラザーズ Presents 「クリオの部屋」は こちら
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