ビジネスデベロップメント
ディレクター
1998 年 PTC ジャパンに入社。アプリケーションエンジニアからテクニカルマーケティング、また Pro/ENGINEER Wildfire(現 Creo)の開発にも従事。入社以来、現在も CAD 関連で活動し、新製品/新バージョンの紹介や、主に設計に対して新しい提案活動を行っている。
※本ブログは、Creo Chapter Webinar シリーズの内容をもとに編集・再構成しています。
「設計データが各部門で分散し、手戻りが多い」
「DXを推進したいが、部分最適に終わり全社的な効果に繋がらない」
多くの製造業が、このような根深い課題に直面しています。その原因の多くは、部門ごとにしか最適化されていない「サイロ型」のシステム投資にあります。
本記事では、この「サイロ化」の壁を打ち破る鍵となる「デジタルスレッド」の概念を深掘りし、世界のトップ企業がどのようにして変革を遂げたのかを、具体的な事例とともに詳しく解説します。そして、成功の核となる 3D CAD「Creo」とPLM「Windchill」が、貴社の DX をいかに成功に導くか、そのメカニズムを徹底解説します。
IDC (International Data Corporation)の調査によると、70%の組織がデジタル技術の利用を加速させると予測されており、デジタルトランスフォーメーション (DX) は企業にとって避けて通れない経営課題となっています。成功のためには、クラウド導入や最新アーキテクチャの活用、そして全部門で共通のデータを参照する「Single Source of Truth (SSOT)」の確立が不可欠です。
しかし、特に日本では DX の取り組みがうまく進んでいないケースが散見されます。その大きな原因が、部門ごとにしか IT 投資が最適化されず、情報が分断されてしまう「サイロ化」です。
実際、DXの取り組みの3分の2は、このサイロ型の投資にとどまっていると言われています。設計部門は高機能な 3D CAD、製造部門は生産管理システム、営業部門は SFA / CRM と、それぞれで効率化を進めても、部門間の情報連携が人手に頼っていては、データ活用の価値は大きく損なわれてしまいます。
例えば貴社では、以下の非効率な作業が発生していないでしょうか?
このような状況では、情報の伝達や部門間のすり合わせが特定の担当者のスキルや経験に依存する「属人化」を招き、価値の損失に繋がります。このサイロ化の壁を乗り越え、「つながること」こそが DX 成功の鍵なのです。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査では、企業間や部署間、さらにはサプライチェーン全体でのクロスファンクション(部門横断)型の協力を進めることで、企業の提供価値が30%〜40%向上することが示されています。
部門横断の連携を実現し、企業の価値を最大化するコンセプトが「デジタルスレッド」です。PTC はデジタルスレッドを「製品ライフサイクル全体にわたり、物理的な世界とデジタルの世界をクローズループでつなげることにより、製品やプロセスに関する正確な情報活用が実現するもの」と定義しています。
文字通り「デジタルの糸(スレッド)」によって、製品の企画・設計から製造、販売、メンテナンスに至るまでのあらゆる情報を繋ぎ、「必要な情報」を「必要な人」に、「必要なタイミング」で正確に届けることを可能にします。
多くの企業では、各部署内での部分的な最適化が進んでいます。しかし、部署と部署をつなぐプロセスは人海戦術に頼っており、非効率なまま放置されているのが「現状の姿」です。
これに対し、デジタルスレッドが実現する「ありたい姿」は、すべての情報がデジタルで連携した状態です。
要件管理から始まり、設計データが解析に活用され、その結果が設計にフィードバックされる。設計データ(EBOM:設計部品表)から製造データ(MBOM:製造部品表)が連携して生成され、さらに MBOM を基に工程検討(ボップ)を作成される。このクローズドループの実現こそが、デジタルスレッドの目指す世界です。
このデジタルスレッドの中核を担うのが、3DモデルとPLM(製品ライフサイクル管理)システムです。現在、多くの企業で設計部門に業務が集中し、ボトルネックとなっています。製造部門からの図面作成依頼、品質管理部門からの検査寸法作成依頼、サービス部門からのマニュアル用図面作成依頼など、あらゆる業務が設計者に集まり、膨大な作業量を抱えているのが実情です。
この問題を解決するのが 、3DモデルとPLM です。PLM は、CAD データ、部品表 (BOM)、仕様書、技術文書など、製品に関するあらゆる情報を一元管理するプラットフォームです。3Dモデルデータをコアに、PLMでこれらの情報を一元管理することで、各部署の担当者が必要な情報を、最新の状態で、設計者の手を煩わせることなく、いつでも直接システムから取得できるようになります。設計者をハブとするのではなく、PLM をハブとすることで、設計者は本来の創造的な業務に集中でき、組織全体の生産性が向上するのです。
このように、PTC の PLM ソフトウェア「Windchill」は、クローズドループとして機能し、製品のライフサイクル全体を支えます。もちろん、すべて PTC の製品で統一していなくても、異なるシステムとも円滑に連携できるように設計されています。
デジタルスレッドは、どのようにしてビジネス価値を生み出すのでしょうか。PTC のソリューションを活用して 製造業DX を実現した 2 社の事例を詳しくご紹介します。
風力発電機メーカーのベスタスは、サステナビリティを経営の中核に据え、デジタルスレッドの活用で大きな成果を上げています。
ベスタスは、製品の「モジュール化」を徹底することで、顧客ごとの個別設計に頼らず、効率的なカスタマイズ対応を実現しています。この柔軟なビジネスモデルを支えるのが、要件管理から設計 BOM、製造 BOM (MBOM)、サービス BOM (SBOM)、アズサプライドストラクチャーまでを一気通貫で管理するデジタルスレッド戦略です。
設計は Creo、製品データ管理は PLM「Windchill」、そして市場で稼働する製品からのデータ収集・活用はThingWorx (IoT)と、PTCのソリューション群で設計から製造、サービスまでを緊密に連携させています。ベスタスでは、設計、製造、サービスの一貫した要件に対応しています。左上から順に、設計は 3D CAD「Creo」、製品データ管理は PLM「Windchill」、そして市場で稼働する製品からのデータ収集・活用は「ThingWorx」(IoT) と、PTC のソリューション群で設計から製造、サービスまでを緊密に連携させています。
ベスタスでは、全ての2次元図面を廃止し、3D モデルデータ(3DA:3Dアノテーション付きモデル)のみに完全移行する「モデルベース定義 (MBD)」を徹底しています。従来のように 2D 図面と 3D データが混在すると、情報の二重管理や手作業による修正が発生し、3Dデータの価値が損なわれます。「3Dモデルこそが唯一の正しい情報源 (SSOT)」と定めることで、設計プロセスを大幅に効率化可能です。図面の印刷コストや管理コストの削減はもちろん、リソースの無駄をなくすことが、サステナビリティに大きく貢献しています。さらに、Windchill と材料データベース「Ansys Granta」を統合し、材料選定を実践しています。「サステナビリティは設計段階で80%が決まる」とよく言われることから、デジタルスレッドを活用してブレードとハブのリサイクル率を44%から55%に向上させるなど、具体的な成果を生み出しています。
トラックや建設機械で知られるボルボグループは、PTC のソリューションを全面的に採用し、単一の PLM・CAD プラットフォームを構築しています。 ボルボグループのCTOが「PTCの IoT や AR ソリューションを取り入れることで、デジタルスレッド戦略の可能性が大きく広がった」と述べる通り、最先端のデジタルエンジニアリングを実践しています。
このように、設計から製造、検査までのデータが一貫してつながり、クローズドループで循環することで、開発リードタイムの短縮と品質向上を同時に実現しているのです。
ご紹介した企業が活用しているのが、PTC の 3D CAD ソフトウェア「Creo」です。Creo が単なる「3D 設計ツール」にとどまらず、企業の DX を推進する強力なプラットフォームである理由を、5つのポイントで徹底解説します。
デジタルスレッドにおいては、設計変更がリアルタイムに全部門へ伝わらなければ意味がありません。Creoは、設計の骨格となる「スケルトン(骨組み)モデル」を使用することで、顧客要件や重要な設計情報を集約し、関連する全部門に正確に伝達させます。これにより、常に全員が最新の正しいデータを基に作業を進めることができ、部門間の手戻りを抜本的に削減できます。 強固な連携性についてさらに詳しく知りたい方は、以下のブログよりご確認いただけます。
トップダウン設計とは? Creo Parametric のトップダウン設計機能や強みを解説
他部署と連携できても、作業がシーケンシャル(直線的)では意味がありません。
Creo が可能にするコンカレント(同時並行)な開発プロセスこそが、開発速度を飛躍的に向上させます。
Creo は、幾何公差や注記などの製造情報 (PMI) を 3D モデルに直接付与する 3DA(3D アノテーション)の機能が充実しており、JIS B 0060 などの規格にも準拠しています。これにより、ベスタスのように 2D 図面を廃止し、3D モデルを唯一の正とするモデルベース定義 (MBD) / モデルベース・エンタープライズ (MBE) への移行を強力に支援します。 単に作図の手間が省けるだけではなく情報が 3D モデルに一元化されることで、後工程でのデータ活用が自動化・効率化されて、全社的な生産性向上に繋がります。
Creo のモデルベース定義 (MBD) 機能について詳細をまとめた資料は下記よりご覧いただけます。導入や機能のご検討にお役立てください。
設計意図を正確に伝える機能やグローバル規格への対応について詳しく解説します。
詳細はこちら三菱パワー(現在の三菱重工業 パワー事業)では、タービンブレードの設計にCreoの3DAモデルを活用しました。サイズバリエーションが非常に多く、従来は500枚、時には数千枚もの2D図面が必要だった複雑なタービンブレードの設計。これを3Dで設計し、さらにアノテーション機能をフィーチャーとして扱うことで作成プロセスを自動化。手作業での修正を大幅に削減し、設計工数を半減させるという劇的な成果を上げています。
Creoは、AI やリアルタイム解析といった最新技術を積極的に統合し、設計者の能力を拡張させています。その代表が「ジェネレーティブデザイン」です。設計者が荷重条件や拘束条件、製造方法などを定義するだけで、AI が設計要件を満たす最適な形状を自動で複数提案してくれます。
特筆すべきは、その圧倒的なスピードと、結果が単なる STL データではなく編集可能な CADジオメトリ として再利用できる点です。設計者は数分で形状を確認し、すぐに次の作業プロセスへ進むことができます。以下より、Creo のジェネレーティブデザインについて詳細をまとめた資料をご覧いただけます。詳しく知りたい方はぜひこちらもご確認ください。
ジェネレーティブデザインの概要や解決できる課題、導入事例について解説します。
詳細はこちらエンジンメーカーのカミンズは、サステナビリティの戦略の一環として、軽量化のためにジェネレーティブデザインを活用して材料を削減しています。具体的には、リブの位置など人間では思いつかないようなアイデアを得て設計に反映させることで、部品重量を平均10%~15%、最大で23%も削減することに成功しました。 カミンズの導入事例について詳しく知りたい方は、以下のページよりご確認いただけます。
「Creo Simulation Live」は、Ansys の世界最高水準の解析技術を Creo に統合した画期的な機能です。設計変更を行うと、その影響(応力、変位、温度など)が瞬時に解析・可視化されます。「このリブを太くすると強度はどう変わるか?」といった思考プロセスを、待つことなくリアルタイムに試せるため、設計者は手戻りを恐れずに様々なアイデアを検討できます。また、開発のフロントローディング(前工程への業務移行)と品質向上が可能になります。Creo のシミュレーション機能について詳しく知りたい方は、以下のページよりご確認いただけます。
Creo Simulation ソフトウェア | PTC (JA)
リクシルでは、解析専任者が2人のみだったため、設計者の要望にタイムリーに応えられないという課題を抱えていました。そこで設計者自身が簡単に使用できる Creo Simulation Live を導入しました。これにより、設計者が自ら解析を行い、設計プロセスを迅速化することができるようになりました。さらに、Ansysの設計者向け機能であるCreo Ansysシミュレーションを活用することで、設計者が多くの解析作業を行えるようになり、業務効率が大幅に向上しました。
浴槽の強度解析や、金属からプラスチックへの材料変更シミュレーションなどを設計者が直接行うことで、迅速な意思決定が可能となり、開発プロセスが大幅に効率化されました。
通常、取引先やサプライヤーから受け取るCADデータが自社と異なっていると、ツールを活用したデータ変換や互換性がない部分の再設計が発生していまい、設計効率が落ちてしまいます。
Creoなら、そうした再作業を最小限にすることができます。Creoの「UNITE TECHNOLOGY」は、SolidWorks、CATIA、NX といった他社製 CAD データを、高価な変換ツールなしで直接読み込み、編集することができる機能です。
さらに、元のデータが更新されれば、Creo上のデータも自動で更新されるため、複合CAD 環境でのデータ変換の手間とコスト、そして変換ミスによるリスクを劇的に削減します。
そして、この強力な連携機能は、PTC 製品である PLM「Windchill」と組み合わせることで真価を発揮します。Creo と Windchill はCAD データと部品表 (BOM) を密に連携させ、複雑な製品バリエーションの管理も効率化できます。これにより、設計から製造、サービスまで、一貫したデータ管理基盤を構築できるのです。Creo の UNITE TECHNOLOGY について詳しく知りたい方は、以下のページよりご確認いただけます。
Creo の Unite テクノロジー | PTC (JA)
Creoは、クラウド環境で使用できるSaaS 版3D CADソフトウェア「Creo+」も提供しています。「Creo+」は、常に最新バージョンが利用できるだけでなく、クラウドならではの強力な機能で、DX をさらに加速させます。
Q: ベスタスは寸法公差もすべて 3D で管理しているのでしょうか?
A: 詳細な図面は拝見していませんが、モデルベース定義 (MBD) を活用し、3D アノテーションで公差などの情報を管理していると考えられます。部品によっては 2D シート形式を併用している可能性もありますが、重要なのは 3D データを正として、そこから必要な情報が連携・派生する仕組みを構築している点です。
Q: 3D アノテーションは本当に設計効率が良いのでしょうか?
A: 3D モデルに注記を付与する作業自体は、2D 作図と大きく変わらないかもしれません。しかし、本質的な価値は「情報の一元化」にあります。情報が 3D モデルに集約されることで、後工程でのデータ参照や自動化が可能になり、部門間の手戻りや再作成といった無駄がなくなります。結果として、設計者個人だけでなく、組織全体の効率が飛躍的に向上します。
Q: PLM 導入はどこから、誰が主導すべきでしょうか?
A: 多くの場合、まず、製品データは設計部門で最初に作成されるため、まずは設計部門が CAD データや EBOM(設計 BOM)をしっかりと管理できる環境を整えることが第一歩となります。それを主導するのは設計部門のリーダーであることが多いですが、全社的な取り組みであるため、経営層やIT部門との連携が不可欠です。まずは見える化から始め、段階的に対象領域を広げていくアプローチが成功の鍵です。
Q: 他 CAD とのデータ更新は、Creo Elements/Directともできますか?
A: はい、可能です。特別なライセンスは必要なく、Creo と Creo Elements/Direct(旧CoCreate)は連携して作業できます。
Q: 2D 図面を廃止した場合、モデルの承認はどのように行うのでしょうか?
A: PLMシステム(Windchillなど)上で電子承認ワークフローを構築するのが一般的です。デジタルスレッド上で承認プロセスが進行するため、誰がいつ何を承認したかの記録が明確に残り、トレーサビリティが確保されます。
製造業の DX を成功させる鍵は、部門やプロセスを横断して情報を「つなぐ」デジタルスレッドの構築にあります。そしてその中核を担うのが、正確な 3Dデータを生成し、AI や解析などの最新テクノロジーを統合することで、あらゆる情報と連携できる 3D CAD ソフトウェア「Creo」です。 本記事でご紹介した事例のように、Creo は貴社の業務効率化、コスト削減、そして競争力強化に大きく貢献します。 まずは Creo が秘める可能性を、ぜひ下記の無償試用版よりお確かめください。
Creo Parametric のすべての機能を試用開始後すぐにご利用いただけます。
詳細はこちら他にも、導入に関するご相談や、自社の課題に最適な活用方法について知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。
Creo エキスパートにお気軽にお問い合わせください。
詳細はこちらCreo の導入によって設計業務の効率化に成功した事例や実際に導入した企業の声を知りたい方は、ぜひこちらもご覧ください。
【導入事例】
本ブログで解説した機能は、こちらの動画にてさらに詳しく説明しております。実際に Creo の操作画面もお見せしながらお話ししていますので、ご興味のある方はこちらもご覧ください。