3D CAD とは、立体データ(すなわち 3D データ)による設計支援ソフトウェアのことです。
3D は「3 次元」の意味であり、3D データで設計物などを表現することを示します。「CAD」は「Computer Aided Design」の略称であり、日本語に訳せば「コンピューター支援設計」であり、国内外ともに「キャド」と呼称します。
3D CAD は、「スケッチ」と呼ばれる線画を描き、それに対して高さや奥行きを定義することで立体のデータを形成します。そこへさらに形状追加や修正を繰り返しながら立
体を定義します。また、スケッチや立体は数値で精密に制御可能です。3D CAD で作成する 3D データは、スケールや寸法、幾何の概念が伴うことが特色です。なおアニメーションやゲームのグラフィック制作で用いる 3D CG ソフトウェアでも 3D データを制作可能ですが、それで製作する 3D データには寸法やスケールの概念が伴いません。
3D CAD で生成する 3D データは、中身の詰まった立体である「ソリッドモデル」が主流です。ソリッドモデルの作成手法は、大きく「パラメトリックモデリング(ヒストリー型)」と「ダイレクトモデリング(ノンヒストリー型)」の 2 手法に分かれます。パラメトリックモデリングは形状を積み上げて、形状作成履歴や各部位を設計根拠に紐づけながらモデリングしてく手法です。一方、ダイレクトモデリングは、作成履歴に囚われず、思うがままに形状を作りあげる手法です。どちらの手法が優れているかは一概に語れず、自社の製品設計の進め方により選定するのがよいとされます。
2D CAD と 3D CAD は、単純には設計物を平面的に表すか、立体的に表すかの違いですが、作図の考え方や設計物の捉え方が少し異なります。
2D CAD では設計物を全て平面的に表すことから、設計物の形状や仕様を詳細にわたり、丁寧に理解、あるいは説明しやすくなっています。一方、3D CAD は、設計物の形状を直感的に、「見たまま」で理解することが可能であり、特に複雑な設計物を表現するための作業を大幅に効率化できるほか、平面で描かれる設計図を見慣れていない人にも形状を理解してもらいやすくなります。
CAD は、従来のドラフターでの手描き製図から、コンピューター上で数値を入力しながら製図へ置き換えることで設計の効率を向上させる目的で生まれました。
今日の CAD の原型となるシステムは既に、メインフレームコンピュータが活躍していた 1970 年代から存在しました。その後、1980 年代には商用の 3D CAD ソフトウェアが登場。パラメトリック・テクノロジー・コーポレーション(今日の PTC)が立ち上がり、3D CAD の「Pro/ENGINEER」が誕生したのもその頃でした。
さらにその後、1990 年代からマイクロソフトの OS である「Windows」が登場し、3D CAD を動作させる OS は従来の Unix から Windows が主流に変わり、パーソナルコンピュータ(パソコン)やインターネットが普及していく中で、製造業で 3D CAD が急速に普及していきました。
3D CAD の規模(クラス)は、大きく 3 種類あります。
1980 年代に登場し、比較的歴史が長く、かつハイエンドな機能を備えた 3D CAD を指します。ライセンスの価格帯は、比較的高価になっています。航空宇宙や自動車業界で使用される 3D CAD で目立つクラスです。
1990 年代後半に登場した、Windows OS をベースに動作する、PC 向けの 3D CAD ソフトウェアを指します。ライセンスの価格帯は、ハイエンド CAD に比べて機能を抑えて普及的な価格に抑えたものになっています。業界や企業規模にかかわらず、広く使われているクラスです。
2010 年代半ば以降に急増した、個人ユーザーでも手が届く数万円クラスの価格帯や無償の 3D CAD を指します。機能面はミッドレンジクラスの 3D CAD に劣るため、企業内での設計でメインツールとするには厳しいクラスです。このクラスには、クラウド対応の CAD もあるため、社外の協力者などと協調して開発する際、あるいはリモートワークの際のサブツールとして使用するのが現実的でしょう。
近年は、上記の定義を完全に当てはめることが難しくなっています。2000 年代に入ってしばらくした後、ハイエンドと言われてきた CAD がミッドレンジにあえて機能を抑えて価格を下げたパッケージを(かつての Pro/ENGINEER もそうでした)、逆にミッドレンジと呼ばれてきた CAD がハイエンドに匹敵する機能を実装するといった動きがあり、ユーザーの要望に応じてソフトウェアの規模をスケールさせるようなソフトウェアも増えています。さらに、サブスクリプションライセンスも業界で広まっています。そのため、ハイエンドとミッドレンジの境がグレーゾーン化しているような状態といえます。
3D CAD を使用するメリットは、設計物の形状や構造を 3D データで直感的に把握できることです。特に複雑な形状や部品点数が多い場合は、設計者自身が直感的に形状を理解しながら、設計を進めることができます。また、3D CAD で扱うデータが、ソリッドという中身が詰まった密度を伴うデータであるため、自動で部品同士の干渉をチェックできる、すぐに部品の体積や重量を計算できる点も便利です。
設計に詳しくない、あるいは機械図面が読めない人にも、3D データで分かりやすく設計物について説明することが可能です。
さらに、3D CAD で生成される 3D データは、機械加工の NC プログラム作成に使用する、作業手順書や取り扱い説明書のテクニカルイラストの制作で使用する、フォトレンダリングという実物のように見せる CG 処理を加えてカタログ制作に使用するなど、設計以外の工程で活用することも可能です。
最近は、3D データのある空間に没入できる VR(仮想現実)/AR(拡張現実)システムが 3D CAD とデータ連携ができるようになっているため、今後のさらなる活用拡大が期待されています。
最近の 3D CAD は GUI が直感的になってきており、モデリングも部分的な自動化が進んでいます。そのため、3D CAD を扱うハードルは以前よりかなり下がっており、モデル作成は比較的簡単に覚えられるようになりました。
もちろん、3D CAD の操作を覚えるだけでは設計の実務は行えず、理解しておくべき勘所もありますが、まずは「3D CAD を使ってみること」が最も重要かもしれません。
例えば、長年 2D CAD で設計を行ってきた人からよく聞くのが、「慣れたツールを変えたくない」「新しいことを覚えたくない」といった声です。このような人たちも、いざ職場に 3D CAD が導入され、さらに「それでしか仕事をしてはならない」となれば、やがて慣れて順応してしまうことが多いようです。
上述のとおり、3D CAD は、「とにかく使ってみること」が大事であるといえます。3D CAD を使えるようになる第一歩は、試用版でも無償の 3D CAD でもかまわないので、ダウンロードして、3D CAD でモデリングする体験をして、実際に業務でやっている単純な設計から試してみることがいいかもしれません。今は、無料でさまざまな 3D CAD を試すことができるため、いろいろ試しながら自分の設計スタイルに合ったソフトウェアを探していくとよいかもしれません。
3D CAD の操作を習得したい場合には、ソフトウェアのチュートリアルを実践してみるのがおすすめです。無償のソフトウェアにもたいていチュートリアルが付いています。また、YouTube では、本職の機械エンジニアや職業訓練の先生の YouTuber が 3D CAD の入門を無料で教えています。このような人たちは SNS を使って、設計初心者の方向けのお役立ち情報も発信しているので、ぜひ探し出して、「この人、いいね!」と思う人と交流してみてください。
3D モデリングを教える研修やトレーニングも、インターネット上でも、実地でも、いろいろあり、個人にも負担がかからない額の受講料のものも結構あります。「自分自身にコミットする」きっかけ作りとしては、このようなトレーニングを受講するのも有効かもしれません。
ここでは、パラメトリック 3D CAD による一般的なモデリング方法の一例について説明します。
3D CAD のモデリングの基本的な機能は、どのブランドのソフトウェアも大きく変わりません。また、「スケッチを描いて、押し出す」を繰り返していくことがモデリングの基本であり、パラメトリックモデリングでもダイレクトモデリングでもそれは同じです。両者では、大きく、設計空間に対して作成履歴を考慮していくかいかないかの違いがあります。
ここでは、パラメトリックモデリングの例を紹介するので、空間に対する寸法を定義しながらモデリングを進めていきます。
1. 3D CADの 新規作成では、以下のように XYZ の 3 面が描かれているか、もしくは XYZ の 3 軸が描かれているかの違いです。
機械設計の業務でのモデリングは、XYZ 軸や面に対して、どこを基準点として寸法を決めるかを定めておき、モデリングを進めていく際には、それを守っていくようにします(チームで新しく設計をスタートする際には、必ず基準点を決めます)。ここでは、XYZ 軸の中心(原点)を基準点に寸法を決めていきます。
最初に、モデリングを開始する面を選びます。「Top」を選びます。
2. Top 面を真正面からみた方向にして、長方形コマンドを使って長方形を描画します。
3. 長方形に寸法を定義します。線色が青から黒に変化していますが、長方形の寸法や空間に対する位置(座標)が、原点に対して完全に定義されたことを示しています。
4. 作図した長方形を基に押し出して立体化します。(「3」のスケッチが未定義で、線が青のままでも、押し出しは可能です)。
5. 今度は、「4」で作った長方形の箱の上面を選択し、円のスケッチを描きます。
6. 「5」で描いた円に直径などの寸法指定をしたのち、今度はスケッチを基にくりぬきます。Ohshape の場合は「押し出し」のコマンドの中で、今回のようにくりぬくか(「削除」)、「4」のように形状を押し出すか(「新規」もしくは「追加」)が選べますが、ほかのソフトウェアでは別々のコマンドの場合もあります。
7. 箱状の形状に穴が開いた 3D モデルができました。
8. 以後、同様な作業を繰り返し、形状を付け足したり、切り出したりしていくことが可能です。ここでは、取っ手のような形状を加えてみました。
9. 気になるピン角は、エッジを選択して面取り(チャンファー)やフィレット(ラウンド)コマンドを選択すると簡単に処理できます。
10. 3D モデルが完成しました。
画面左側に、これまでのモデリングの過程が「ヒストリーツリー」としてまとまっています(以下の図、赤枠)。このヒストリーツリーを使って、過去のモデリングをさかのぼって修正を加えることが可能です。ノンヒストリーの 3D CAD の場合は、このようなヒストリーツリーはありません。
ヒストリーが残ることはとても便利なのですが、あれこれ試行錯誤しながら、ランダムに作成したヒストリーツリーは非常に複雑になり、ツリーをさかのぼった修正が困難になる場合があります。そのため、モデリングの手順を、後から修正しやすいように論理立てて考える必要があります。
しかし、お客さんと話しながら、「ああでもない、こうでもない」とすり合わせで設計を進めているような現場では、このようなことを考えてモデリングするのは非常に難しくなるケースもあり、ヒストリーが残らないダイレクトモデリング 3D CAD が向いていることもあります。
なお、1 ~ 10 の要領で作成した部品をいろいろ作成したら、以下のような「アセンブリ」という組み立てデータにすることが可能です。
このデータを使って、部品同士がぶつかったり、めりこんだりしていないか、「干渉チェック」という機能で簡単に調べることが可能です。アセンブリが作成できる3D CAD ではたいてい実装されており、Onshapeにも標準搭載されています。
この例では PTC の 3D CAD ”Onshape” を利用しました。
Creo は、複数の手法から選べる 3D CAD の他、CAE による解析、AR、CAM や 3Dプリンター出力、製造支援機能など、幅広いラインアップを備えた 3D 設計システムであり、ユーザーの設計事情に合ったソフトウェアが選定可能です。
部品にかかる強度に基づき AI が最適な形状を導くジェネレ―ティブデザインや、複数の現象を組み合わせて解析するマルチフィジックス解析、モデルベース定義 (MBD)、エルゴノミクス(人間工学)設計など、業界最先端の技術も実装しています。
Onshape はソフトウェアの演算処理やデータ格納の一切をクラウドで行う、Web ブラウザベースの設計業務向け 3D CAD です。データ管理や製図機能も付属しています。端末にソフトウェアをインストールする必要がなく、かつサブスクリプションで使用することが可能です。Web ブラウザベースであることから、コロナ禍のリモートワークでの採用が増えています。
PTC の 3D CAD は、全世界のさまざまな分野の企業で使われています。PTC の Web サイトでも、さまざまな活用事例を紹介しています。各企業がどのように PTC 製品を活用し、ビジネスで成果を出しているか、学ぶことができます。
PTC の 3D CAD 活用事例は こちら
パナソニック株式会社の社内カンパニーであるライフソリューションズ (LS) 社のライティング事業部では、「Creo」を導入しています。「Pro/E 時代から Creo 時代まで、『設計者が責任を取る』という開発思想が変わることなく貫かれており、設計者が ”ちゃんとしたものを作る” という意味で、大変良いツールです」
>>詳しくは 「Pro/E 魂を Creo ネイティブ世代が継承する パナソニックの照明器具設計」
「電子式でありながら、上質なバイオリンのような反響を生み出したい!」――ポール・マッカートニーやキース・リチャード、ジミー・ヘンドリックスの影響を受けてギター演奏を学んだという、エンジニアのアリステイデス・プアート氏が、自分が演奏するために欲しいギターを作るために選んだのが、Creo でした。
>>詳しくは Creo を使用して生み出される Aristides Guitars 社のギター
3D CAD は 40 年近くの歴史があるシステムですが、コンピューターの技術の進化により高機能ながら使いやすいソフトウェアになりました。かつて研究機関や大手企業の高級システムであった 3D CAD は、PC で誰もがアクセスしやすくなりました。
3D CAD を導入し、3D モデルの流通を社内に増やすことで、将来のさまざまな可能性が広がります。まだ 3D CAD を導入していない企業は、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速している今こそ、その検討をすべき時かもしれません。
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