今回は、MBSE(モデルベース システム エンジニアリング)の基本的な概念、メリットについて詳しく解説します。
記事の最後で PLM のお客様導入事例もご紹介しておりますので、ご興味ある方はぜひ最後までご覧ください。
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組み込みソフトウェアの進化がもたらす課題
組み込みソフトウェア(製品内部に搭載され、動作を制御するソフトウェア)は 製品に高度な機能や柔軟な操作性をもたらし、それぞれの顧客ニーズに応じた体験をつくるために重要な要素です。また組み込みソフトウェアは モノのインターネット (IoT) 技術でモノとモノをつなげるスマートデバイスの開発に貢献しています。
これらは大きなメリットをもたらす一方で、システムや開発プロセスが複雑になるという課題も生じるため、製品開発の難易度を高める要因にもなっています。
製品開発における複雑性とシステムエンジニアリングの重要性
メカ(機械)、電子機器、ソフトウェアを組み合わせた製品開発では、これらをシームレスに連動させる高度なシステム エンジニアリングが求められます。これに失敗すると事業に深刻な影響を及ぼし、市場の機会損失やブランドイメージの低下といった悪循環を招く恐れがあります。
Tech-Clarity と PTC が共同で実施した調査『Developing Software-Intensive Products: Addressing the Innovation Complexity Conundrum』では、組み込みソフトウェアを活用した製品開発業務に関する企業の実態が明らかにされました。
図 1 には、そのような開発を進める中で、企業が直面した事業への悪影響がまとめられています。

図 1: 組み込みソフトウェアを使用する製品の開発がビジネスに与えるマイナスの影響
システムの複雑化が引き起こす課題
システムが複雑になると、エラーや不整合が発生しやすくなります。
例えば 各コンポーネントやアセットが相互に依存し合う構造では、1 つの変更が他の要素に波及するため、その影響を正確に把握して関連するすべての要素を適切に更新する必要があります。万が一、更新漏れがあった場合、システム全体の互換性が損なわれ、品質の問題が生じます。こうした不具合が見逃されたまま開発が進行すると、ブランドの信頼を損ない、ビジネスチャンスの損失にもつながりかねません。さらに問題の特定と修正には時間がかかることが多く、製品の市場投入が遅れる原因にもなります。複雑なシステムでは、1 つの修正が別の不具合を生むリスクも高く、対応が非常に難しいのが現実です。
開発コストや市場投入への影響
システムの不具合や変更への対応が不十分なまま進めると、業務や設計のやり直しが発生し、開発スケジュールやコストに大きな影響を与えます。
本来 製品の差別化や新たな付加価値の創出に使うべきリソースが、トラブル対応に割かれてしまい開発全体のスピードや効率が低下します。また このような手戻りが頻発すると、生産ロスやコストの増加を招くだけでなく、新製品の開発も滞るおそれがあります。特に 修正対応のために開発チームが既存業務を中断しなければならなくなってしまった場合、プロジェクト全体における生産性低下のリスクが高まります。
解決策:システムエンジニアリングとPLMなどのツール活用
こうした問題に対応するためには、複雑なシステム全体の構造を把握し、各要素を的確に整理・管理することが欠かせません。つまり 高度なシステムエンジニアリングの導入が不可欠です。
適切な手法を取り入れることで、構成要素同士の関係性や変更の影響を見える化し、設計の整合性と品質を維持しながら開発を進めることが可能になります。さらに システムエンジニアリングを支えるツールの選定と活用も、開発の効率化やリスクの低減において重要な役割を果たします。
こうした背景を踏まえ、PTC では デジタルスレッドとデジタルツインの概念を組み合わせ、製品ライフサイクル全体におけるデータを管理するPLMソリューション「Windchill」を提供しています。ご興味のある方は、こちらもご覧ください。
製品データ管理: デジタルスレッドとデジタルツインの基盤
PLMツール”Windchill”を活用し、デジタルスレッドとデジタルツインを組み合わせた効率的で柔軟なシステム運用を実現しましょう。
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MBSE(モデルベース システム エンジニアリング)とは
システムエンジニアリングプロセスを改善する方法として、MBSE(モデルベースのシステム エンジニアリング)の活用が注目されています。
MBSE とは
MBSE とは 、「Model Based Systems Engineering(モデルベース・システムズ・エンジニアリング)」の略で、テキストベースではなく「モデル」を活用して、製品開発におけるシステムの設計や分析、検証を行う手法です。
製品に関わるさまざまな情報をモデル上で可視化して一元管理できるため、複雑な製品開発において開発効率の向上や設計品質の改善に役立ちます。また従来の文書中心のプロセスに比べて、モデルによるデータ管理は変更やバリエーションへの柔軟な対応を可能にし、製品全体の構成の整合性やトレーサビリティの確保にもつながります。
似た言葉として「MBD」がありますが、MBDはモデルを活用した製品設計プロセスのことを指し、MBSEは製品ライフサイクル全体を対象としたMBDの上位概念として位置づけられます。
MBSE のメリット
MBSE の主なメリットとして、以下の 3 つが挙げられます。
- 複雑なシステムにも柔軟に対応できる
- 設計資産を再利用しやすくなる
- 製品ラインの管理を効率化できる
システムの複雑さは、エンジニアリングにおける課題の根本的な原因となります。MBSE を活用することで、システムにおける各要素の関係性を視覚的に把握でき、構造全体を管理しやすくなります。このビジュアルモデルは複数部門における共通の参照元として機能し、チーム間のコミュニケーションや連携を円滑にします。その結果、開発の効率が向上し、市場投入までの期間も短縮されます。さらに変更を加える際にも、要素間の相互依存関係を把握しやすくなるため、エラーの発生や品質リスク低減にもつながります。

図 2: MBSE プロセスのイメージ
流用設計の課題と MBSE による解決
Tech-Clarity の調査によると 42 % のメーカーが、システムエンジニアリングにおける最大の課題として「設計の再利用(以下、流用設計)」を挙げています。
流用設計は設計や開発、試験にかかる時間を削減し、全体の効率化に直結します。さらに検証済みの部品やサブシステム、デジタルアセットを活用することで、エラーが生じるリスクも抑えることができます。ただしシステムが複雑になればなるほど、再利用可能な要素の特定が難しくなるのも事実です。MBSE では、小さなモジュール(セクション)に分割して管理するモジュール型の手法を用いるため、データの再利用がしやすくなります。またモジュールごとに個別の検証を行えるため、エラーを早期に発見し、後工程での手戻りを防ぐことができます。
MBSE の活用領域
製品ラインアップには、共通の基本機能を持ちつつ、多様なバリエーションに対応できる構成が求められることが多くあります。こうした「プラットフォーム設計(以下、モジュール設計)」も MBSE の活用領域の 1 つです。
Tech-Clarity の調査では、企業が組み込みソフトウェアを導入する主な目的として、モジュール設計の実現が挙げられる一方で、49 % の企業が「バリエーションの設計」を大きな課題としています。MBSE を活用すれば、再利用可能な複数の部品を組み合わせて、バリエーションごとに個別のモデルを効率よく管理することができます。
PLMで MBSEを実現
MBSEは非常に有効な手法ですが、PLMツールやCADと密接に連携されていないと、要求仕様とモジュール・部品との間で食い違いが発生してしまいます。MBSEを実現するためには、製品ライフサイクル全体における多様なデータとCADデータとの連携性が高いPLMツールを採用することが重要です。
PLM お客様導入事例
PTCの PLM「Windchill」 は、Excelなどの帳票データだけでなくCADデータとの連携性も高く、確実にMBSEを実現できるPLMツールです。
以下にWindchillを活用した製品ライフサイクル全体を最適化した企業の導入事例を紹介しますので、こちらもぜひご覧ください。
【導入事例】