民間航空は、世界で最も不安定な業界の 1 つです。ここ数十年間で、燃料費の高騰と格安運賃が相まって、多くの主要航空会社が財務面での危機に追い込まれています。2014 年、世界で3 番目に古い航空会社である Qantas Airlines Limited が、不確かな未来に直面していました。
同社は持続的な道筋に戻ろうと、コスト ベースを 20 億ドル削減することを目的とした、2 年計画の変革プログラムを開始しました。このプログラムは社内全体に改善を求めるもので、その対象には、スペア部品をメンテナンスのために世界各地に 70 の拠点を持つ Qantas Engineering (QE) Supply Chain も含まれていました。QE Supply Chain は、その大きなコスト ベースと在庫保有量により、多大な価値を Qantas にもたらすことができる独自の状況にありました。
また 2014 年以前から、コスト ベースを 30 パーセント減らし、旧機体の在庫保有を合理化するという取り組みを開始していました。
「サプライ チェーン変革プログラムは 4 つの段階からなるプロセスで、今でも続いています」と話すのは、Qantas Engineering サプライ チェーン担当主任であるリック・フラカロ (Rick Fraccaro) 氏です。「まず、メンテナンス組織の変更に合わせて、また重複を排除するために、弊社のフットプリントを統合しました。その後、プロセスと運用モデルを作り直し、次の価値の波を生み出しました。今は、運用効率、プランニング機能、データの可視性を高めるために、継続的な改善に取り組んでいます。最終的には、お客様とサプライヤとのコラボレーションをさらに拡張し、ネットワーク内の変化とリスクを予測する機能を改善することを目指します」
QE Supply Chain は現在、変革の第 3 段階に取り組んでいます。組織としての個別の目標の中には、総所有コストの削減、航空機のディスパッチの信頼性と部品の在庫状況の改善、航空機の寿命に合わせた在庫の削減が含まれています。これらの要件を満たすには、正確な在庫予測を作成することが重要でした。なぜなら、Qantasではコストのかかる在庫を過剰に抱えることなく高いレベルのサービスを実施するために、十分な部品を手元に置いておく必要があったためです。
これらの領域における企業目標を達成するために、QE Supply Chain では在庫管理と部品要件予測のためのより効率的なツールを必要としていました。Supply Chain のプランニング チームは以前、エンタープライズ デマンド プランニング システムによってこれらのニーズを満たそうとしました。しかし、このアプリケーションでは予測や在庫に関する推奨事項を利用できず、エンドツーエンドのソリューションに必要な業務プロセスも提供されていませんでした。Supply Chain チームの消耗品プランニング ポートフォリオ担当主任、ジャスティン・ポラード (Justin Pollard) 氏はこう言っています。「弊社は大量の SKU を持っているため、当時使用していたプロセスとツールでは在庫を効率的に計画し、事前対処的に管理することができませんでした」
「 プランニング チームはツールと推奨事項を信じておらず、手作業で在庫を管理しようとしていました」ポラード氏は言います。「弊社で必要だったのは、ユーザーが理解できるツールでした」
競争の激しい市場でよりよいサービスを提供するための要件の予測
Qantas には、適切なタイミングと場所で部品を確実に利用できるようにするための、実績ある在庫予測ソリューションが必要でした。獲得チームは 3 つのソリューションを検討した後、PTC のサービス パーツ管理ソリューションへの投資を勧めました。
「PTC は、リアルタイムで部品を把握するために Qantas が必要としていた機能すべてを提供できたのです」と話すのは、PTC Service Lifecycle Management ビジネス開発担当ディレクターのボブ・メリフィールド (Bob Merrifield) です。「サービスパーツ管理は、グローバル在庫の最適化とライフサイクル要件の予測に特化して設計されています。ユーザーは簡単に部品の要件を予測し、サービスを支える在庫を最適化し、シナリオをモデル化し、部品のライフサイクル全体を管理できます」フラカロ氏によれば、PTC のソリューションに投資するという最終決断が下されたのは、この航空会社が極度に困難な財務状況に直面していた 2014 年でした。「その年、Qantas は 28 億オーストラリア ドルの減益を報告しました。弊社にとって、そうした状況でさらに投資を行うには勇気が必要でしたが、そのビジネス ケースには大きな現金収益と迅速な元金回収がありました」
ユーザーの習熟とサプライ チェーンの可視性の確立
PTC Customer Success チームは、クラウドおよびハイブリッド アーキテクチャのプロバイダであるオーストラリアの企業、Bulletproof が提供するサービス パーツ管理をインフラストラクチャに導入しました。このソリューションの導入には丸 1 年かかり、28,000 個のコンポーネントの部品番号と 60,000 個の消耗品の部品番号がインポートされました。
フラカロ氏はこのプロジェクトを、これまでに経験した中で最もスムーズなソフトウェア リリースの 1 つであったと説明しました。
PTC Customer Success は、プロジェクトを納期どおりに予算内で完了しました。プロジェクト チームは熱心に取り組んでくれましたし、弊社ではその成果に大変満足できました」
PTC Customer Success チームは、16 名の Qantas 従業員に対してサービス パーツ管理に関するトレーニングを実施する必要がありました。チームは、スタッフの半分を集中トレーニングとユーザー受け入れテストに割り当て、残りのスタッフには通常どおりの業務を行わせることに決めました。
「トレーニングでは、弊社の環境でそのソリューションがどのように機能するかを判断できるか、チームをテストしました」と話すのは、Supply Chain コンポーネント担当主任のペトロス・リゴポウロス (Petros Rigopoulos) 氏です。「最初は、自分たちが求める答えを得られない理由を解明するために、たくさんの問題解決を行わなければなりませんでした。どんなに難しい問題がある場合でも、チームは常にシステムの可能性とそれがもたらす利点を認識できました」
当初、一部のユーザーはソフトウェアに問題があると考えていました。しかしさらに調査を進めてみると、ソースのマスター データに問題があることが分かりました。データをサニタイズしてみると、そのソリューションからユーザーが望んでいたような情報を得られるようになりました。たとえば、あるプロセス レポートでは、サービス レベルを一定に保ちながら、在庫の余剰部品の数百万ドルを節約できることが分かりました。
リゴポウロス氏はこう言っています。「このツールにより、70 以上の場所にある非常に大量の部品を系統的に管理し、一貫性をもって使用量を見積もったり予測したりできるようになりました。この取り組みの一環として、さまざまな部品をその分類 ( コスト、用途、必要性など) に応じて保管、管理する方法に関する在庫ポリシーを策定し、刷新してきました」
最初にツールのトレーニングを受けた Qantas の従業員グループは、ツールを実際に操作してユーザー受け入れテストを完了することで、プロジェクトに没頭できるようになりました。その後、新たに獲得した知識を活用して、2 番目のユーザー グループのトレーニングを迅速に進めると同時に、在庫に関する推奨事項を安定させるためのプロセスの定義も支援しました。このプロジェクトは 2015 年後半から段階的に実施されてきたため、スキルを獲得したユーザーは、ほかの従業員が短期間でツールをマスターできるよう支援することができました。
成功のためのプランニング
50 以上のプロセスが部品の在庫状況に影響を与えます。現在の手法では、この基準値は 94 パーセントです。しかし、2016 年半ばにサービス パーツ管理が完全に導入された後は、2 年以内に部品の在庫状況が平均でクラス最高の 95 パーセントになるのではないかとフラカロ氏は予測しています。
ソリューション予測および最適化機能を習得した従業員は、在庫データを利用して製品コンフィギュレーションを作成し、確率的メンテナンス部品表 (BOM) をモデル化し、Qantas のグローバル フットプリント全体で材料のバランスを調整してコストの削減と部品の在庫状況の改善を実現する方法も学んでいます。
「 弊社は組織として、非常に事後対応的でした」とリゴポウロス氏は言います。「追いかけるだけで、プランニングを行っていませんでした。それが今、このツールで変わり始めています」
企業全体への可視性の拡張
PTC は、作業の各段階で Qantas と緊密に連携しました。オーストラリアを拠点とするボブ・メリフィールドは、PTC の Customer Success 導入チームのほかのメンバーとともに、フィードバックと助言を提供しました。これを参考に同社はアジャイル システムを構築し、在庫を最適化すると同時に、データ取得、テクノロジの導入、ユーザーのトレーニングに関する系統的な戦略も提案できるようになりました。しかし、まだ作業は続きます。
「実に大きな変革を成功させました」とポラード氏。「現在集中して取り組んでいるのが、システムのプランニング機能の改善の継続です。お客様とのつながりを改善し、サプライヤの提供パフォーマンスを促進する作業は、プロセスの次のステップです」