製造業の現場では、競争力の強化のために人手不足への対応が迫られる一方、多品種少量生産など多様化した顧客ニーズに対応しながら、市場投入までの期間を短縮する必要があります。そのためコロナ禍以前より、第4次産業革命、Connected Industries を旗印に、スマートファクトリーへの転換が推進されてきました(2018年ものづくり白書)。
しかし IoT の導入や特定工程の自動化のために、PoC あるいは本番運用を進めている企業では、期待したほどの全社的な生産性向上やコスト削減につながっていないケースが多いのです。そこで本記事では、スマートファクトリー実現に向けたロードマップや、個社の全体最適化に必須な製品データ基盤 PLM の重要性について紹介します。DX を通じてサプライチェーン全体での競争力強化や、市場の需要変動に即対応できるアジャイルな生産体制の構築に関心のある担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
スマートファクトリーは、なぜ「部分最適」で止まりがちなのか?
グローバル競争力を強化するためには、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットを活用した工場のスマート化を先駆けて実現することが重要です。エンジニアリングチェーンとサプライチェーンをつないで最適化・自動化すれば、設計においては短期間でニーズに即した製品化や機能向上を可能にし、生産においては個別ニーズや需要変動に即応できるようになります。
さらに生産性や品質の向上はもちろん、利益増も見込まれるにもかかわらず、スマートファクトリー・プロジェクトは、なぜ「部分最適」で止まりがちなのでしょうか?ここではスマートファクトリー推進の過程や、日本の製造業工場における DX 取組状況を振り返り、部分最適で止まっている実態について見ていきましょう。
スマートファクトリー実現に向けた機運の高まり
世界では、主要各国が第四次産業革命へ対応するために明確な旗印を打ち出し、製造業のパラダイムシフトが進んでいます。たとえばドイツの「industry4.0」、フランスの 「未来の産業 (Industrie du Futur)」、中国の「製造 2025」が代表的な例です。
一方、日本は、未来の社会の姿は「Society 5.0」に決定したものの、未来の産業の姿は明確にしないまま政策を進めてきました。そのような状況の中、ようやく2017年3月、「Connected Industries」を打ち出したのです。これは「データを介して、機械、技術、人など様々なものがつながることで、新たな付加価値創出と社会課題の解決を目指す産業のあり方」を意味します。
さらに2017年3月、「- 第4次産業革命期における IoT・ロボット導入促進調査 - ものづくりスマート化ロードマップ調査 」の報告書(SF ロードマップ調査報告書)が経済産業省 中部経済産業により発表されました。これにより、スマートファクトリー促進に向けた具体的なステップが、製造業 DX の進め方に悩む企業に対して示されたのです。
日本の製造業工場における DX 取組状況
製造業におけるスマート化の対象は、関連する部門や範囲が幅広いという特徴があります。実際にスマートファクトリーを実現するためには、下記のプロセスをすべてつなげてデータ連携を進めなくてはなりません。
- 受注・調達
- 製品企画、開発・設計
- 生産
- 物流・販売
- 製品稼動、サービス提供
スマート化の対象を見ると、多数の部門を巻き込むプロジェクトであり、非常に多くの関係者との利害調整に時間がかかることが想像できるでしょう。ここで、2024年版ものづくり白書より、日本の製造業における DX の取組領域を紹介します。
▼DX の取組領域推進状況の内訳 (%)
| 実施し、充分な成果が出ている | 実施しているが、成果が限定的 | 一部開始した | 取組を計画中である | 取り組んでいない | |
| 個別工程のカイゼン | 5.8% | 38.3% | 28.2% | 15.2% | 12.8% |
| 製造機能の全体最適 | 4.7% | 21.8% | 25.3% | 20.2% | 28.0% |
| 事業機会の拡大 | 2.9% | 16.2% | 19.9% | 24.5% | 36.5% |
出典:第 2 節 DX による製造機能の全体最適と事業機会の拡大(2024年版ものづくり白書)|経済産業省
2024年版ものづくり白書によると、「個別工程のカイゼン」に取り組む企業が多いことがわかります。個社で「製造機能の全体最適」を目指すケースは少なく、新たな価値創出をベースに新たな市場を獲得する「事業機会の拡大」を目指すケースはさらに少ないことが示されました。
プロジェクトが進まない理由とは?スマートファクトリー化の課題
一元化されたデータ基盤を持たずに「個別工程のカイゼン」を実施する製造業 DX は 、データのサイロ化を招きます。データのサイロ化はデータ活用を阻む要因となり、意思決定の遅延をもたらすにもかかわらず、日本の製造業はなぜ全体最適につながる DX を実現しづらいのでしょうか?その理由は、主に3つの課題を克服する必要があるからです。
本来の目的を見失いやすい
1つ目は、具体的なステップがわかりづらく、部門横断で最適化するという本来の目的を見失いやすい点が挙げられます。スマートファクトリー実現に向けては、スマート化の対象となるそれぞれの部門でも変革を進めていかなくてはなりません。そのためプロジェクトの実態は、特定部門だけで実施できる PoC ばかりを進める傾向にあり、その結果、全体最適に止まりがちなのです。
複雑な要件定義と人材不足
2つ目は、データ活用の要件定義が複雑すぎる上に、人材不足でやりきれないという課題が挙げられます。「稼働率指数◯%向上」という目的を決めたら、操業状況を見える化する設備(組み立てライン等)を選び、どのデータを、どう収集して、どう見える化するかを定義しなくてはなりません。最終的には、単一の設備に導入したシステムを工場全体へ、さらに他拠点・サプライチェーン全体へ横展開することも視野に入れておく必要もあります。この要件定義には、IT と OT の知見が必要になりますが、両方の知見を持つ人材は少ないのが現状です。
生産現場の根強い反対
3つ目は、トップダウンで投資を決断しても、従来のやり方や裁量の変化に対する抵抗感が強く、生産現場の協力が見込めないケースです。反対が根強い工場では、DX に必要な実態を反映した正確なデータが集まりません。実際に現場を見える化しただけで、生産性は向上しないのです。取得したデータから発見した改善点をもとに生産性向上につなげる仕組みや、運用を定着させるノウハウも必要になります。
「部分最適」を乗り越える!スマートファクトリー実現に向けたロードマップ
スマートファクトリー化に伴う課題を解決するためには、構想策定段階から全体最適の志向を貫く必要があります。その際に役立つのが、NEDO が提唱するものづくりの全体プロセスを下記の4つのチェーンに振り分ける考え方です。
- サービスチェーン
- エンジニアリングチェーン
- サプライチェーン
- プロダクションチェーン
4つのチェーンをいかにシームレスにつなぐか。その情報連鎖や付加価値の連鎖について、俯瞰的に考えながら、具体的に洗い出す必要があります。この考え方こそが、「個別工程のカイゼン = データのサイロ化」から脱却し、ものづくりの全体最適を志向する土台となるからです。
工場のスマート化と並行して、「設計領域」のデジタル化(設計 DX)も進めることで、さらに強固なエンジニアリングチェーンを構築できます。設計 DX 推進のポイントについては、以下の記事もあわせてご覧ください。
【事例あり】AI や SaaS は設計者の“相棒”に:開発力を強化し、競争優位を築く製造業 DX の進め方
情報連鎖や付加価値の連鎖について理解を深めたら、経営課題を踏まえて実現すべき目標を明確にします。自社の企業規模やスマート化の状況を見ながら必要なソリューションをイメージした上で、ベンダーと話をしましょう。ここでは、一例としてコスト削減を目標に掲げたスマートファクトリーロードマップを紹介します。
▼スマート化の目的とレベル(データ活用のレベル)
| スマート化の目的 | レベル1 データの収集・蓄積 | レベル2 データによる分析・予測 | レベル3 データによる制御・最適化 |
| 有益な情報を見極めて収集して情報を見える化し、得られた気付きを知見・ノウハウとして蓄積できる | 膨大な情報を分析・学習し、事象のモデル化・将来予測ができる | 蓄積した知見・ノウハウや、構築したモデルによる将来予測を基に最適な判断・実行ができる | |
| 材料の使用量の削減 | 設計事例を収集してデータベースとして蓄積することで、過去の事例を容易に参照できる。 解析・シミュレーションソフトウェアを利用することで、構造等を解析できる。 | 過去の設計事例の分析や、解析・シミュレーションソフトウェアなどによって、材料の軽量化や部品点数の削減につながる形状・構造等を知見としてモデル化できる。 | 構築した設計改善モデルを用いて、製品設計を最適化することで、材料の使用量を最小化できる。 |
| 生産のためのリソーセス削減 | MES(製造実行システム)などの生産管理システムのデータを利用することで、生産の作業プロセスの進捗状況や、ヒト(工数)、材料、エネルギーの投入状況を収集・把握できる。 | 生産の作業プロセスの進捗状況を踏まえて、ヒト(工数)、材料、エネルギーの予定投入量、予定生産量などを予測できる。 | 設備の稼働計画、ヒトの作業計画を修正・最適化することで、投入するヒト(工数)、材料、エネルギーを最小化できる。 |
出典:第4次産業革命期におけるIoT・ロボット導入促進調査「ものづくりスマート化ロードマップ調査 」調査報告書(2017年3月)|経済産業省
CAD と PLM を活用して DX を成功させるにはどうすべきか、製造業の DX 成功事例については、下記の記事からご覧いただけます。
製造業 DX の成功事例に学ぶ:3D モデルと PLM でつながるデジタルスレッド
課題を解決し、スマートファクトリー実現に不可欠な「PLM」
さまざまな改善につなげるためには、工場に関するデータを可視化して分析する必要があります。データの見える化を成功させるために重要なポイントは、「デジタル」と「リアルタイム」です。手書きで紙に記録して集計する方法では、スマートファクトリーの実現はのぞめません。
SF ロードマップ調査報告書によると、単一の設備・生産ラインからスタートし、全体最適へとスマート化を進めるには、下記の3つの方向性も十全に考慮する必要があります。
- より高度なデータ活用
- 単一の設備・生産ラインから工場全体・他拠点・サプライチェーン等への横展開
- 導入したシステムを当初の目的以外の目的(イノベーション創出等)のために活用
これらすべてを網羅するためには、「PLM によるデータ基盤の統合」が必要になります。つまり、スマート化の対象となるプロセスをすべてデジタルスレッドでつなぎ、データを一元管理するのです。ここでは、PTC のソリューションである Windchill PLM ソフトウェアと産業 IoT プラットフォーム ThingWorx について見ていきましょう。
Windchill PLM ソフトウェア
スマートファクトリーの成功には、データ中心のアプローチによるデジタルスレッドの構築が不可欠です。Windchill PLM ソフトウェアは、単一で正しい情報源を提供し、データの一貫性と高い信頼性に裏付けられたデジタルスレッドの構築に役立ちます。Windchill は、容易な保守・拡張を可能にし、データ資産の再利用も促進できる見守り監視機能付きの安全なプラットフォームです。
具体的には、Windchill は以下に挙げる要件を網羅しています。
| デジタルスレッド構築に必要な要件 |
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このようなデジタルスレッド構築に必要な要件や、PLM 選定のポイントをまとめた資料をご用意しています。自社に最適なシステムを見極めるためのチェックリストとして、ぜひご活用ください。
企業間コラボレーションを成功させる、最適な PLM 導入とは?
4つの観点から最適な PLM を選ぶための基準を解説します。
詳細はこちらWindchill には「BOM 管理」「製造プロセス管理」「製品データ管理」「設計変更管理」などの機能があり、多種多量のデータをスピーディかつ正しく連携できます。視覚化に優れ、設計と製造間の情報連鎖を把握しやすく、大規模かつ複雑な製品構造にも対応可能です。
SF ロードマップ調査報告書で示されたデータ活用によるスマート化の基本ステップも、Windchill なら網羅できます。
- レベル1 データの収集・蓄積
- レベル2 データによる分析・予測
- レベル3 データによる制御・最適化
PTC は、スマートファクトリー成功の鍵となる強固なデータ基盤を提供できます。PLM ソフトウェア「Windchill」については下記ページよりご覧ください。
Windchill PLM ソフトウェア
デジタルスレッドの中核をなす Windchill の機能とメリットをご紹介します。
詳細はこちら産業 IoT プラットフォーム ThingWorx
IoT や AI を用いて収集したデータを解析し、製造業の効率化を図る industry4.0 の台頭に伴い、さまざまなデータソースへのアクセスを可能にする産業用 IoT プラットフォームが注目されています。製造業 DX に特化している ThingWorx は、通信手段の種類を問わず、設備や製品、データベース、システムを容易につなぐ高い接続性という特長があります。
ローコードでアプリケーションを開発できる開発性の高さも ThingWorx の特長です。たとえば、ThingWorx なら手早く簡単に拡張現実 (AR) も業務で活用できるようになります。複雑な産業 IoT データから異常をリアルタイムで検出できるため、予知保全に取り組むことも可能です。
「手書き+紙」から脱却し、稼働の記録をデジタルデータとしてリアルタイムに可視化するためには、ThingWorx CWC の活用をおすすめします。これにより、作業指示のデジタル化が可能になるほか、モバイル機器に慣れ親しんだ従業員のエンゲージメントを向上させ、ベテラン従業員とのスキルギャップも解消できるのです。
IoT プラットフォーム「ThingWorx」や「ThingWorx CWC」については、下記ページより詳細をご覧いただけます。
PTC を活用した製造業スマートファクトリーの成功事例
ここでは、PTC のWindchill PLM ソフトウェアや ThingWorx を活用したスマートファクトリーの成功事例を2つ紹介します。
VCST 社
自動車サプライヤーとして、パワートレインおよびブレーキ部品を提供する VCST 社は、ThingWorx、ThingWorx Kepware Server、Windchill を採用しました。これらのツールは IoT と PLM を統合し、すべての変更と構成情報を記録する「クローズドループ」 コラボレーションプラットフォーム (IT/OT PF) の構築に役立ちます。
この IT/OT PF は、設計から機械、保守の工程に至るまで網羅しており、各プロセスと機械・設備のモニタリングによって収集した IoT のデータを PLM に取り込めるようになりました。これにより、取得されたデータから AI が自律的に発見・抽出したインサイトとパターンをもとに、製品およびプロセスの継続的な改善につなげています。
この PF を 既存の IT および OT システムに統合する際に、VCST 社は少しずつ実施するモジュール式アプローチを採用しました。これにより、プロジェクトの迅速な開始を可能にし、段階的な成功をおさめ、「総入れ替え」に伴うリスクを回避したのです。
JRC 社
国内に拠点を持つコンベヤ部品大手の JRC 社は2019年、実質アナログでデータを管理する状態から、スマートファクトリー化の検討を始めました。「製造だけで閉じたデジタル化ではなく、設計や原価管理などまで含めたデジタル業務プロセス全体の最適化が必要」との考えをベースに、顧客の受注情報からデリバリーまで一気通貫でつなぐスマートファクトリーを目指しています。
JRC 社では、トップダウンの意思決定により ThingWorx を導入しました。 可視化、自動化、全体最適というスマートファクトリーに必要なステップを踏む仕組みが備わり、変化に強い柔軟性と拡張性を備えるアーキテクチャーが決め手になったのです。工場の設備からデータを吸い上げる際は、機械の内部システムの情報開示に設備メーカーが応じなかったために、外付けセンサーを活用するといった工夫も行いました。
PLM はデータのサイロ化から脱却し「全体最適」実現の鍵となる
全体最適を志向するスマートファクトリー実現には、データの一元管理が重要な鍵となります。データの価値を最大化するには、リアルタイムのデータソースへのアクセスを可能にする ThingWorx と、取得したデータを製品ライフサイクル全体で管理する Windchill PLM ソフトウェアが不可欠です。
サプライチェーン全体での競争力強化や、市場の需要変動に迅速に対応できるアジャイルな生産体制の構築に関心をお持ちの担当者の方は、PTC のエキスパートまでぜひご相談くださいませ。
Windchill のさらに多くの成功事例からヒントを得る
国内外の様々な企業が、どのような課題を抱え、 PLM でどう成果を上げたのか。貴社に近い業種・規模の具体的な事例をご確認いただけます。 導入事例一覧はこちら
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