Creo には、CAM があるの?HSM 対応は?

執筆者: 武田 淳
  • 12/21/2022
  • 読み込み時間 : 5min
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はじめに

会社の興りでもある「Creo Parametric」(旧 Pro/ENIGNEER。以降は Creo とします)は、CAD 業界では設計ソリューションとしてその名を 3 大 CAD の一つで知られています。PTC の CAD 製品は、設計領域だけでなく幅広い領域を担っており CAM(Computer Aided Manufacturing:コンピューター支援製造)もあります。
有名な他社 CAM 製品が数多くあり、CAM に特化していながら設計機能を備えた製品や CAD 連携を強化している製品などがあります。ただし、それらについてここでは言及しません。
PTC の CAM はものづくりプロセスにおける Creo の一分野として PTC で開発された CAM ソリューションです。CAM メーカを買収してインターフェイスを揃えた「統合」でなく、Creo の中でネイティブなデータを扱い、加工プログラミングから NC データ出力を行ないます。
そのため、Creo の特徴であるアソシエイティビティ(双方向の連携性)があり、内部でデータの変換を一切行わず、設計データの情報(フィーチャーや属性など全て)を利用でき、データ管理システム (Windchill) でスムースな利用が可能です。
ここでは、Creo の CAM の拡張機能の種類、できることについて記述します。


Creo の CAM 拡張機能について

このブログ執筆時点(2022 年 12 月)で販売されている Creoの”Design パッケージ” 全てに CAM 機能が含まれています。
  • Creo Design Essentials・・・Creo CAM Lite(旧 Expert Machinist Ext.機能)
  • Creo Design Advanced・・・Creo Prismatics & Multi-Surface Milling Ext.
  • Creo Design Advanced Professional・・・Creo High Speed Milling Ext.
  • Creo Design Premium・・・Creo Production Machining Ext. & Creo NC-Sheetmetal Ext.
  • Creo Design Premium Professional・・・Creo Complete Machining Ext.
ただし、Creo Design Essentials の ”CAM Lite” はポストプロセッサーが含まれていません。このパッケージの場合、NC データへ変換するためには他社製ポストプロセッサーを使い Creo から出力した CL データを利用して NC データ出力をします。
もちろん、Creo CAM Lite 以外の各拡張機能(Ext. と名付けてある)は単体購入も可能です。
ご要望に応じてお得な Design パッケージと共に利用できます。


Creo の CAM ができること

次は、Creo の CAM で何ができるかについて言及します。
マシニングセンタによる2.5 軸から同時 5 軸加工、3 軸と 5 軸の高速ミリング加工、4 軸までの旋盤加工、4 軸までのワイヤ放電加工、対向主軸を持つ複合旋盤による加工、板金のレーザーやタレパン加工です。
これら各々は、前述した拡張機能によって可能な加工方法が異なります。
下図をご覧ください。


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※Creo の板金 CAM“Creo NC Sheetmetal Extension” は上図に非掲載。

やりたい加工方法や軸数に応じて、拡張機能を選択します。High Speed Milling Extension 以外は、高位の拡張機能が下位の拡張機能を含んでいます。 ここで、Creo の CAM 拡張機能として最後発の「Creo High Speed Milling Advanced」について触れます。
高速加工向け拡張 CAM 機能です。高速加工は HSM と略されますが、HSM は High Speed Machining の略で、以後 HSM とここでは表します。この CAM の拡張機能は、パス計算のエンジンに Moduleworks 製のものが採用されています。Moduleworks 社はドイツが本社のソフトウェアメーカです。各種 CAM メーカで Moduleworks 社の CAM エンジンが利用されており、PTC も Moduleworks 社のエンジンを「High Speed Milling Extension」と「Creo High Speed Milling Advanced」で採用しています。

ここからは、HSM とは、について少しだけ触れていきます。
触れていきますと書いたものの、世の中には HSM について大変よくまとめられた数々の論文や書籍などの文献や Web サイトの情報があるので、ここで PTC が改めて書き起こすこともなかろうと思いますがそれらサイトの情報を集めて再構築して「あたかも PTC 記事です!」のように書いてみます。(自虐的ですね)
そのため、参照した Web サイトの注釈を付けましたので、原文そして全文をご覧になりたい方は最下段をご参照ください。

HSM (High Speed Machining) はマシニングセンタによる加工で、通常は加工工程の最終段階で実行される加工工程の一つです。金型のキャビティの仕上げ面などで高い表面仕上げと形状精度の要求を満たすために適用されます。表面粗さは、耐食性や疲労耐性を向上させ、製品の耐久性を向上できる重要な特性です。*1(著者注:後述しますが、荒加工から仕上げ加工まで高速加工を行ない、適切な切削工具や焼きばめホルダを用いることで、工具本数を少なく面精度の良いトータルで効率の良い加工ができるようになります。)
さて、高速加工の定義について言及します。その定義として、下記のようなものを指します。
  • 高い切削速度 (vc)
  • 高い主軸回転数 (n):通常 15,000 回転/分を超える
  • 高い送り速度 (vf)
  • 高い除去率 (Q)
工作機械の上記能力だけでなく、機械全体の剛性と構造、位置フィードバック制御、熱補正、動作制御システム、刃具の保持方法などその他の多くの特性を詳細に調べる必要があります。*2

従来は焼き入れ材や高硬度材料の加工において、型掘り放電加工を用いていました。型掘り放電加工は非常に効果的でかつ現在でも多く用いられている加工方法ですが、放電電極(材質は銅合金の銅-タングステン合金、銀-タングステン合金、銅、黄銅や銅-グラファイト、グラファイトなど)の設計と電極の加工、放電加工機による型の加工が必要です。そのため、リードタイムをより短縮するためには、放電加工における製造工程期間を短縮することの限界やより革新的に早く効率的に生産する方法を探す必要がありました。(著者注:決して放電加工を否定する意図はありませんし、細く深い溝などはとても有効な加工方法です。ただし、高速加工でこの部分も対応可能です)
ここで鍵となるのが切削工具と CAD/CAM ソフトウェアです。切削工具について記述する前に CAD/CAM ソフトウェアから言及します。CAD/CAM ソフトウェアの進化によって高速加工に適した新しいツールパス生成を利用できることで CAM システムの利用が加速されました。高速加工は当初、金型業界に焦点を当てていましたが、現在では広範に利用されており、薄肉形状部がある加工においても非常に効果的であることから利用されています。
もちろん工作機械自体は堅牢であり前述したような高速加工に必要な設備や構造を備えている必要がありますが、今日の CAM によって生成される加工パスが鍵です。一貫した工具の切削負荷で加工パスを生成する機能は、特にコーナー部において高負荷になるために鍵となる部分です。小径の刃具であっても、従来の限界を超えた条件で加工を行えることもあります。*2
なお、従来のフライス加工と高速加工の違いですが、一刃あたりの切削量の違いが大きいことです。従来の加工では、刃物とワークの接触時間が長い=発熱して熱応力を持ち切削抵抗が大きい、刃物の冷却がより多く必要、精度低下など精度を求める加工では条件が悪くなります。また加工パスの軌跡自体も単純な動きでした。そのため、刃具の材質やコーティングが発達してきましたが、工具寿命を考慮してコーナー部での減速が必要ですし、クーラントも必要です。高速加工による工具寿命よりも短くなってしまいます。
直線動作 (G01) で加工を行なうほうが精度よくより高速で加工を行えますが、工作機械の駆動機構によっては円弧やトロコイド加工でも高応答性と工作機械への負荷を下げることも可能です。
さらに、切削を直接担っている工具(刃具)がとても重要な鍵です。
切削工具は、工具や保持方法が従来の加工と異なるものを用いることでより高い送り速度と主軸回転数により高速加工を実現できます。そのため、仕上げの面粗度が良く磨きレスも実現でき、切削による発熱を抑えられることから加工歪みを抑え、焼き入れ材の加工も可能です。
特徴的なことは
  • 小径の専用工具
  • 非常に高い主軸回転数(工具の高い周速)
  • 高送り加工
  • 焼きばめホルダ
です。

高速加工に用いる工具で必要なことは、専用の工具、突き出しを短く、焼き嵌め工具を使う、オイルミストやエアやクーラントによって切粉の迅速な排出です。
HSM については、これくらいに留めておきます。

かなりの量を HSM について割きましたが、再び HSM 以外の Creo の CAM に戻ります。
Creo の CAM はユーザーの間では一般的に「Creo NC」と呼ばれています。以後、Creo NC と記述します。前述のように、マシニングによる加工の多くに対応ができるだけでなく、旋盤加工やワイヤ放電加工にも対応しています。
ここで再び、Creo NC ができることの概要を箇条書きします。
  • 2.5 軸、3 軸~ 5 軸同時加工までのミリング加工プログラミング
  • 4 軸までの旋盤加工プログラミング
  • 4 軸までのワイヤ放電加工プログラミング
  • NC データ変換
  • 3D データを活用した加工手順の作成
  • 加工プログラミングに関する文書(工具リストや加工指示書等)作成
  • 設計製造密連携のための加工属性データ作成(CAD でこのデータを利用し、Creo NC で取り出して半自動プログラミング)
板金 CAM の “Creo NC Sheetmetal Extension” もありますが、ここでは文字数の関係上省略します。
箇条書きをした Creo NC ができることですが、ミリング加工では一般的に必要な加工パスタイプ、例えば平面加工、面沿い加工、プロファイル加工などのタイプの他に、穴明け加工では固定サイクルと独自のサイクル作成も行えます。
一般的な CAM のプログラムが行なえるだけでなく、「設計製造密連携」を行なえます。標準的な加工パスを作成して製造情報として保存し(XML 形式です)、設計部品内にその製造情報を埋込みます。CAM アセンブリにおいて埋込まれた情報を取り出すことで半自動的なプログラミングが可能です。 設計から製造までの DX を行なうために、部署間で利用できる製品情報(3D モデル)にデジタル情報を埋込むことでリーンな(無駄が無い状態や無駄がなくすこと)ものづくりを行なうことができます。


参考文献:

*1High speed machining of magnesium and its alloys
*2PEAK MACHINE SALES, “What is High Speed Machining?”(高速加工の歴史についても触れられているので是非ご一読ください)



お問い合わせ

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https://www.ptc.com/ja/contact-us


ご参考

  • DX を加速させる 3D CADソリューション: 日本語特設ページは こちら
  • 【YouTube】Creo ブラザーズ Presents 「クリオの部屋」は こちら
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執筆者について

武田 淳

製品事業部 CAD セグメント シニアアプリケーションスペシャリスト

超音波洗浄機、液晶製造装置等の機械設計を 2D & 3D 共に経験し1997 年に入社。機械設計分野以外に樹脂・板金金型、CAM の担当エンジニア。