航空宇宙メーカーがネットゼロの達成に向けて競争を加速させる中、はっきりしてきたことがあります。それは「サステナビリティが周縁的な取り組みではなくミッションそのものになった」という事実です。もはやコンプライアンス対応やPR目的の活動ではなく脱炭素への取り組みは商用航空と防衛の双方でエンジニアリング、オペレーション、サプライチェーンの形を根本から変えています。
こうした変化の実態を探るため私はPTCのサステナビリティ担当バイスプレジデントであるデーブ・ダンカン(Dave Duncan) に話を聞きました。長年にわたり航空宇宙や産業界のリーダーを対象にデジタルトランスフォーメーションの推進を支援してきたデーブ・ダンカンは現在PTCのサステナビリティ戦略を牽引しています。航空宇宙OEMや防衛機関がインテリジェントなプロダクトライフサイクル技術を活用し排出量削減、効率向上、レジリエンス強化を実現できるよう支援しています。
Q: 航空宇宙業界はかなり大胆なサステナビリティ目標を掲げています。こうした脱炭素化の加速を後押ししているのは何なのでしょうか?
航空宇宙産業を見渡すとこの分野はこれまでも常に革新的な技術によって進化してきました。ジェット推進やフライ・バイ・ワイヤ、複合材機体など数々の技術革新がその歴史を形づくっています。現在起きている変化もその延長にある重要な転換点といえますが、今回はサステナビリティを実現するためのイノベーションである点が特徴です。
この加速を生み出している要因は大きく三つあります。
第一に社会や投資家からの圧力です。航空会社に対する視線は厳しく、Flyskam(フライトシェイム)のように航空利用そのものを見直す動きも出ています。加えて各国政府は炭素税の導入や鉄道で代替可能な短距離便の制限など規制強化を進めています。
第二に規制の変化です。EUが進めるCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)やDPP(Digital Product Passport)の枠組みによってメーカーは部品レベルに至るまで環境影響を定量化し報告することが求められるようになりました。
第三に経済性です。脱炭素は倫理的な観点だけでなく収益面でも合理的です。燃料消費の削減、メンテナンス最適化、機体寿命の延長はすべてコスト効率や利益率の向上につながります。
Q: 2050年のネットゼロ達成を目指すうえで、航空宇宙企業が直面する最大の課題はどこにあると考えますか?
航空機のライフサイクルは非常に長く、今日設計を始めた新型エンジンや機体も実際の生産開始は2030年代になり、運用は2060年代まで続きます。つまり2050年のネットゼロを実現するために残された製品世代は実質的に一つということになります。
次に課題となるのがスケールです。持続可能な航空燃料は優れた橋渡し技術で排出量を最大80%削減できますが、世界のジェット燃料消費に占める割合は現在1%未満にとどまっています。供給量がまだ追いついていません。水素や電動推進は短距離や地域路線には有望ですが大陸間航路には適していません。
こうした状況を踏まえると脱炭素を着実に進めるための近道は製品設計とライフサイクルのインテリジェンスにあります。軽量化や材料選定、サービ ス最適化のような取り組みは新しい燃料技術が普及するのを待たずに二桁台の排出削減を実現できます。
Q: 先ほど設計とライフサイクルのインテリジェンスに触れていましたがPTCの技術は脱炭素化を支えるインテリジェンスをどのように提供しているのでしょうか?
私たちはこれを「Intelligent Product Lifecycle」と呼んでいます。製品ライフサイクルのあらゆる段階をデジタルスレッドでつなぎ環境負荷を測定可能で実行に移せる形にする取り組みです。
一つの例がWindchillとMakersiteの連携です。これによりエンジニアはデジタルBOMから自動でライフサイクルアセスメント(LCA)を実行できます。材料やサプライヤーの選択がCO₂にどの程度影響するかを、外部分析を数週間待つ必要なく、その場で把握できます。設計段階の早い時期から継続的にサステナビリティを組み込める点で大きな変化をもたらします。
さらにPTCはDigital Product Passportの導入も支援しています。これは設計段階から運用段階まで製品の環境面および社会面のパフォーマンスデータを一元的に記録し連携させるものです。材料の由来や使用状況再利用、回収の可能性まで高い透明性を確保でき企業のサーキュラリティ基盤の構築に貢献します。
Q: 素材の透明性を高めるためにWindchillではどのような強化が行われているのでしょうか?
Windchill 13では材料管理をPLMエコシステムの中心機能として位置付けました。材料管理ツールはCAD モデルや製品構造に直接リンクされるようになり、エンジニアやサステナビリティ チームはライフサイクル全体にわたって指定、使用、追跡される材料をリアルタイムで把握できるようになりました。Windchillの新しい「BOM Roll up」機能では重量やコストコンプライアンスといった材料属性を設計時点でアセンブリ全体に集計でき、材料やサプライヤー変更の影響を即座に確認できます。
これによりエンジニアは例えば「このアルミ合金を軽量の複合材に置き換えた場合質量はどう変わるか、炭素量含有量はどうなるか、再利用の可能性はどうか」といった問いを設計段階で検討できます。システムがこれらの属性を早い段階で提示しデジタルスレッドに組み込むため調達判断も設計判断もより適切に行えるようになります。
さらに材料の使用状況を設計だけでなく製造サービスそして最終的な廃棄段階まで追跡できます。この透明性はサステナビリティやコンプライアンスライフサイクル最適化に不可欠です。
Q: Windchillで材料データを管理することは航空宇宙組織のフットプリント削減やサーキュラリティ向上にどのように役立つのでしょうか?
航空宇宙分野ではライフサイクルが長く構造が複雑で材料の価値も高いという特徴があります。材料の使用を最適化することはコスト面でもサステナビリティ面でも大きな効果を生むポイントになります。
最新のWindchillではエンジニアが初期段階からより適切でサステナブルな判断ができるよう支援する機能を強化しています。設計プロセスの早い段階で材料の影響が見えるためスクラップの削減や過剰仕様の回避に役立ちます。材料やサプライヤーの追跡も容易になり、どの材料がどこで使われ最終的にどのように再利用やリサイクルできるかを把握できます。材料データがつながることでコンプライアンスリスクを低減し意思決定の確度も高まります。
重量やコスト、炭素含有量、材料の由来といった属性が可視化され報告できるため製品ライフサイクル全体でより根拠ある判断が行えます。
結果として得られるのは部品単位ではなくシステム全体で材料使用を捉える視点です。設計バリエーション全体での最適化やサービス全体の改善、サプライチェーン全体の最適化が可能になり最終的に製品のフットプリント削減につながります。
Q: 防衛組織でもサステナビリティを任務に取り込む動きが始まっていますが、その文脈では脱炭素化はどのように異なるのでしょうか?
防衛分野には独自のサステナビリティの考え方があります。重視されるのはイメージではなくレジリエンスと即応性です。
多くの防衛機関は電動化やハイブリッド化した地上装備が、環境面で優れているだけでなく戦術的にも有利であることを理解し始めています。燃料輸送部隊への依存を減らし騒音や熱の発生を抑えられるため運用面での優位性が生まれます。
また重要なのがクリティカルマテリアルの問題です。防衛電子機器の多くはレアアースに依存していますがこれらの資源へのアクセスは年々制約が強まっています。この状況を踏まえるとサーキュラー設計やリマニュファクチャリングはサステナビリティだけでなく安全保障の観点からも不可欠になっています。
Q: 今後5年間で航空宇宙と防衛が脱炭素化を進めるうえで最も有望な機会はどこにあると考えますか?
最大の機会はデジタルトランスフォーメーションを脱炭素化の加速に活用することです。PLMやIoTデジタルツインの導入で生まれたデータ基盤は生産性向上だけでなく排出量を把握し削減する取り組みにも拡張できます。
そのうえでリーダーが先行できる分野は三つあると考えます:
- Lifecycle Carbon Intelligence – 設計から生産運用まで排出量をシミュレーションし最適化するためにデジタルツインを活用する取り組み
- Circular Supply Chains – 再利用リマニュファクチャリング材料回収を視野に入れた設計を進めサーキュラーなサプライチェーンを構築する取り組み
- Performance-Based Sustainability – 成果基準の契約形態へ移行しスループットではなく稼働時間や効率といった成果に収益を連動させる取り組み、いわゆる「パワー・バイ・ザ・アワー」に代表されるモデルでサステナビリティをパフォーマンスに結び付けます
サステナビリティ規制が成熟するにつれデジタルによるトレーサビリティは耐空性と同じくらい重要な要素になります。こうした能力をいまの段階で組み込んでおく企業は将来的に大きな競争優位を得ることになります。
まずサステナビリティを本業の業務システムに組み込むことです。サイドプロジェクトやCSR活動として扱うのではなく設計と運用の一部として統合することが重要です。
自社の製品バリエーションごとのカーボンフットプリントを把握しているか、サプライヤーが排出削減目標と整合しているか、設計データとサービスデータをつないで継続的な改善を測定できているか。こうした問いに一つでも「いいえ」があればこれから起きる変化に備えられているとはいえません。規制も投資家も顧客もその回答に「はい」を求めるようになるためです。
まとめ
航空宇宙と防衛産業は独自の脱炭素化課題を抱えていますが同時に比類ないイノベーション能力を持つ産業でもあります。デーブ・ダンカンが述べたように現在設計が進む次世代機が2050年ネットゼロ達成の可否を左右します。サステナビリティをデジタルエンジニアリングやライフサイクルインテリジェンス、サービス最適化と結び付けることで航空宇宙メーカーは地球規模の必須要件を事業上の優位性へと変えることができます。
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