統合予測分析:

さまざまな企業が、新型コロナウイルス感染症の拡大から学んだ多くの教訓を、今後の標準作業手順書に活かすべきであると考えています。それが最も顕著なのは、現場の機器および製品のサービスと管理の領域です。幸いなことに、現場の機器のパフォーマンスをリモートかつリアルタイムで監視するための技術が重要な役割を果たします。また、予測分析を使用して進行中の問題を特定可能にすることで、そのような情報を入手するメリットを補完することもできます。そのような対応により、是正措置とプロアクティブなメンテナンスを実施できるため、ダウンタイムや予定外の現場訪問の必要性がなくなります。

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、メーカーや現場で製品を修理する企業が、通常の作業手順を見直す必要性が高まったことは明らかです。出張制限により、担当者を遠隔地に派遣して問題の評価や解決を行うことができなくなりました。また、顧客が地元の企業で、理論的には施設を訪問できたとしても、自治体または企業自体が施設への立ち入りを禁じていた可能性もあります。

変革のための技術要素

このような制限によって、製品が現場でどのように動作しているのかリアルタイムで入手する必要性が明確になりました。そのためには、複数の技術を組み合わせて活用することです。

まず必要になるのは、製品にセンサーを組み込み、最新の状態や主要なパフォーマンス指標 (KPI) を監視および測定することです。測定対象のパラメータには、モーターなどの動作速度、温度、圧力などがあります。また、プリンターのインク、エンジンオイル、イメージングシステムのフィルムなどの消耗品の状態や消費量なども含まれます。幸いなことに、スマートセンサーやモノのインターネット (IoT) の普及により、このようなデータアクセスに必要な技術的土台は存在します。

以前は、このようなデータは現場でしか得られず、SCADA (Supervisory Control and Data Acquisition) や DCS（分散制御システム）などの ICS（産業用制御システム）でしかアクセスできませんでした。一般に、センサーはプライベートのイントラネットを介してこれらのシステムに配線接続されていました。

Wi-Fi や 3/4G セル方式などの既存の無線サービスや新しい無線接続サービス（Wi-Fi 6 や 5G など）の広がりに応じて、これらのデータを使用できる範囲が拡大しました。このような接続技術により、ICS システム以外のシステムでもデータにアクセスできるようになります。また、無線接続を使用すれば、データへのリモートアクセスも可能です。そして今では、機器の提供や管理を行う企業が一元的に現場の機器の状態を監視できるようになりました。このようなデータへのリモートアクセスは戦略的にも有効です。
たとえば、多くの企業がこれらの機能を使用してリアクティブなメンテナンス（故障したら修理する方式）から予知保全に移行しました。

技術の 3 大要素の 1 つ目はセンサーの組み込み、2 つ目はリモートネットワーク、そして最後の 1 つは分析です。無線接続によってリモートで使用できるようになった IoT およびセンサーのデータは、収集後に分析してトレンドを探ることができます。

ダウンタイムの削減およびパフォーマンスの最適化

センサーと各種の接続技術を活用することで、メーカーや現場で製品の修理を行う企業は、スケジュールに基づくメンテナンスから状態に基づくモニタリングとメンテナンスに移行しています。たとえば、ある企業が過去のデータを参照して、自社の施設内では通常、ベンダー A の部品がメーカー公称の平均故障期間の 2 倍長持ちすることを特定したとします。その場合、メーカーのスケジュールどおりに交換するのではなく、自信をもってその部品を使い続けることができます。これにより部品の交換コストを長期間に分散できるため、スペア部品と交換部品の年間コストを全体的に削減できます。

前述したとおり、今まで企業は、定められたメンテナンススケジュールに基づいて定期的に部品を交換していました。しかし、機器や部品からパフォーマンスに関する情報を得ることで、機器にパフォーマンス低下の兆しがあるかどうかを企業が確認できます。潜在的な問題を検出するこのような予測機能によって、障害が発生する前に進行中の問題を解決できるため、さらにコストを削減できます。これにより計画外ダウンタイムが回避され、緊急修理の実施コストが不要になります。予告なしで技術者を派遣する場合、高額な出張費が発生します。また、このように故障してから修理するという方法では、部品を現地に迅速に送る必要があるため、配送料も高額になります。分析によって得たパフォーマンスやステータスに関する情報によりこれらの問題を最小限に抑えることができます。

このような機能がもたらす価値を示す代表的な例が、換気およびガス処理ソリューション製造の世界的大手企業である Howden 社の取り組みです。Howden 社の機器は、インフラ、発電、石油・ガス、廃水、金属、鉱業、運輸などの分野で採用されています。

Howden 社は、PTC の IoT プラットフォームである ThingWorx を使用して、デジタルトランスフォーメーション (DX) の促進を目的とした Howden Uptime ソリューションを開発しました。Howden Uptime プラットフォームは、世界各地の顧客施設で作動するコンプレッサー、ファン、タービンなどのあらゆる回転機器を対象とした、パフォーマンスのリモートモニタリングおよび最適化アプリケーションです。

このアプリケーションにより、北海などの遠隔地で稼動している機器を積極的に監視および管理できます。Howden 社の担当者はこのソリューションを活用して、まるで実際にそばにいるかのように機器を監視しています。

新しいビジネスモデルの実現

機器のサービスを行うメーカーや企業は、機器に接続性をもたせることで、業務およびビジネスモデルを変革できます。

リアクティブな業務から予測型の業務へと移行することで、メンテナンス担当者の効率を向上させ、計画外ダウンタイムを削減できます。

最も重要なのは、機器を接続する技術と収集されたデータが、インダストリー 4.0 やデジタルツインなど、業界の未来に向けた取り組みに不可欠であるという点です。

なぜこれが重要なのでしょう。インダストリー 4.0 およびデジタルソリューションを推進する企業は、経済的な混乱を乗り越えるための体制が整っています。危機的な状況下でも、同業他社よりも速く、そして遠くまで進むことができます。このような強みは、新型コロナウイルス感染症による危機が去った後でも失われることはないでしょう。