デジタルトランスフォーメーション (DX) とは?定義や課題、DX 事例などを解説

執筆者: PTC Blog Author
9/14/2022

読み込み時間: 15min

近年推奨されているデジタルトランスフォーメーション (DX) とは?

近年の国内の製造業では、少子高齢化を背景とした働き手不足、高度経済成長期を支えてきたベテラン技術者の引退と技術継承といった人材に関する課題に悩まされています。加えて、情報化社会に生きる消費者の嗜好の多様化と市場の激しい変化を受け、製造業は大量生産から少量多品種生産にシフトしています。それに対応するために、国内製造業でも 3D CAD や PLM、生産管理システムなどを導入するなど設計・製造のデジタル化が進んできました。

しかしながら、欧米諸国の企業と比較して、その進捗は後進であるといわれ続けてきており、国内製造業の 8 割を占める中小企業も含めて業界全体を見渡せば、依然として紙や PDF などのアナログな情報を主体とした業務が多く残っています。それが、国内製造業における業務効率向上や技術継承などを妨げているとよく言われます。一見、最先端の IT が浸透していそうな大手企業においても、拠点ごとでその状況が大きく異なる場合もあります。

このような状況から脱却を図るべく業務改革を推進しようとする大手メーカーの経営者や、そこに対して IT システムを提供する IT ベンダーから頻繁に聞こえてくるのが、「デジタルトランスフォーメーション」や「DX」という言葉です。国内においては、この数年間で、急にたくさん聞こえるようになりました。

しかしながら、製造業に勤める人たちに話を聞いていると、「デジタルトランスフォーメーション (DX)」が、「分かるようで、分からない」「なんだか、もやもやする」と言う人を、いまだによく見かけます。


デジタルトランスフォーメーション (DX) の定義とは

「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」は、「DX(ディーエックス)」と縮めて言われることが多くあります。

この言葉は、もともと 2004 年当時、スウェーデンのウメオ大学に在籍していたエリック・ストルターマン (Erik Stolterman) 教授(現・デジタルトランスフォーメーション研究所 エグゼクティブアドバイザー)が提唱したものです。

当時の定義は、「人々の生活のあらゆる側面に、デジタル技術が引き起こしたり、影響を与える変化のこと (The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life.) 」(※1)ということでした。
※1 出典:デジタルトランスフォーメーション研究所

日本国内において、「DX」という言葉は、2018 年 9 月に経済産業省(経産省)が発表した「DX レポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~」に登場したことがきっかけで注目されるようになりました。そこで、ストルターマン氏が 2004 年に定義した DX について触れつつ、組織におけるデジタル技術の積極活用による業務革新の重要性について訴えかけました。

ストルターマン氏によれば、2004 年当初の定義は、「社会における DX」を指していて、「デジタル技術による外部環境の変化と捉え、それが人々の生活のあらゆる面に影響を与える」ということを伝えたつもりであったそうです。しかもストルターマン氏は、盲目的にデジタル技術を受け入れることに批判的な立場であったといいます。

しかし、日本国内においては、経済産業省が掲げたような、「DX は組織(企業など)や個人が主体的かつ戦略的に起こすもの」という独自解釈が広まりました。ストルターマン氏が当初考えていた定義は、それよりもう少し受動的な社会の変化のことを言っていたものの、日本では組織や人が能動的に社会の変化を生み出すような概念に転じて広まったということです。

「それが日本によい影響を生み出している」と考えた同氏は 2022 年 2 月に、DX について「社会」「公共」「民間」(企業)と分類して、日本で広まっているような意味を踏まえて定義をし直したと表明しています。


ビジネスにおけるデジタルトランスフォーメーション (DX) の定義とは

ビジネスにおけるデジタルトランスフォーメーション (DX) は、おおよそ、「IT やデジタルデータを活用することで、ビジネスの在り方や業務遂行などに大変革を起こし、ビジネスにおいて破壊的なイノベーションを創出すること」を指しています。

「DX」と言う言葉は、広大で抽象的である上、細かい定義は今もなお、各所で厳密に一致していません。また、どこかにそれについて厳密に定めた規格や認証などがあるわけでもありません(※本ブログ公開時点)。それも、デジタルトランスフォーメーション (DX) という言葉に触れる方々の「もやもや」につながっているのかもしれません。

以降で紹介する経済産業省の定義を踏まえれば、デジタルトランスフォーメーション (DX) とは、おおむね、

「IT システムやデジタルなデータを、会社全体でしっかり使い尽くして、今の時代に合わないビジネスのやり方をやめて、もっと楽になって、いままで見たことがないビジネスや、誰も思いつかなかったようなビジネスを生み出して、たくさん儲けて、会社も、そこで働く我々も、元気になろう!」

ということを言っていると考えればよいのではないでしょうか。


経済産業省が発表したデジタルトランスフォーメーション (DX) の定義とは

経済産業省は、先の DX レポートの中で、DX の定義について、「DX に関しては多くの論文や報告書等でも解説されている」としつつ、調査会社の IDC Japan が発表していた定義を引用していました。

「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」(※2)
※2 出典:Japan IT Market 2018 Top 10 Predictions: デジタルネイティブ企業への変革 - DX エコノミーにおいてイノベーションを飛躍的に拡大せよ, IDC Japan プレスリリース, 2017年 12 月 14 日

IDC の定義では、クラウドコンピューティングやモビリティ(乗り物)、ビッグデータなど、固有の技術名を挙げており、最新 IT やテクノロジー系の調査を得意とする同社らしい表現になっています。このような技術を駆使して、「これまでになかった新しい製品やビジネスを創出し、インターネットと現実世界の両面で、カスタマーエクスペリエンス(CX:顧客経験=顧客がモノを買い、捨てるまでの間の、顧客が得られる体験や価値のこと)をより良いものに変革しよう」「それを実現する製品の提供側は、市場での優位性を得られる」ということを説明しています。

DX レポートから約 3 カ月後、2018 年 12 月、経済産業省が公表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」の中でも、DX の定義が示されています。

「本ガイドラインでは、DX の定義は次のとおりとする。『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。』」;

先の DX レポートで引用していた IDC の定義が基になっていて、IT 系のカタカナ用語を日本語に変えて意訳するような内容になっています。

「DX レポート~ IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~」

経済産業省による、国内の DX 推進を目的としたレポートです。製造業に限らず国内の産業で、1980 ~1990 年代ごろに導入され老朽化した IT システムの刷新がうまくいっていない現状に対して、想定される経済損失に基づき警告を促しています。

レガシーシステムの本質(出所:経産省「DX レポート」)

「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」

経産省が民間企業向けに公表した、DX 推進のための経営の在り方や、IT システム導入のための体制や仕組みづくりなどを説明したレポートのことです。


デジタイゼーションやデジタライゼーションとの違いや関係性

デジタルトランスフォーメーション (DX) においては、「デジタル化」や「デジタルデータ」が重要なキーワードです。それと一緒に聞こえてくるのが、「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」という言葉です。いずれも、われわれ日本人にとってはそっくりに見える言葉ですが……。

「デジタイゼーション (Digitization)」や「デジタライゼーション (Digitalization)」は、辞書で引いても、どちらも「(情報の)デジタル化」と訳されます。ところが、日本語の辞書だけではなく、英英辞典で調べても同義であると説明されてしまいます。しいて言えば、Digitalization は医学用語として解説されているのが目立ちます。

辞書に頼っていると、どうもらちが明かないので、経済産業省「DX レポート2」と、総務省「情報通信白書」の国連開発計画 (UNDP) に基づく定義を引用し、「業務のデジタル化」に絞って、それぞれの言葉について解説します。

・デジタイゼーション
経済産業省=「アナログ・物理データのデジタルデータ化」
総務省=「既存の紙のプロセスを自動化するなど、物質的な情報をデジタル形式に変換すること」「会社内の特定の工程における効率化のためにデジタルツールを導入する」

デジタイゼーションの具体例としては、紙の図面や書類をスキャナーで取り込んで電子化するなどペーパレス化の実施、電子メールの導入、電子化された設備の導入、CAD による設計の導入、CAM の活用による機械加工の数値制御化などです。

・デジタライゼーション
経済産業省=「個別の業務・製造プロセスのデジタル化」
総務省=「組織のビジネスモデル全体を一新し、クライアントやパートナーに対してサービスを提供するより良い方法を構築すること」「自社内だけでなく外部環境やビジネス戦略も含めたプロセス全体をデジタル化する」

デジタライゼイセーションの具体例は、3D CAD や CAE(シミュレーション)、PLM を導入して、設計・製造業務の自動化や効率化を図るとともに、3D データを設計現場以外の営業や生産、保守などの各部門でも利用して、設計初期での問題洗い出しを行って後戻りを削減するなどが挙げられます。

・デジタルトランスフォーメーション (DX)
デジタルトランスフォーメーション (DX) は、デジタイゼーションとデジタライゼーションの上位概念です。

経済産業省=「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化」「“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革」
総務省=「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第 3 のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」「デジタル技術の活用による新たな商品・サービスの提供、新たなビジネスモデルの開発を通して、社会制度や組織文化なども変革していくような取組を指す」

デジタルトランスフォーメーション (DX) の具体例は、設計データや工場設備の稼働状況のデータをデータベース化して可視化し、そのデータを用いて遠隔監視・制御を実現して省人化や人材活用を行う、データベースを利用した新サービスを提供して顧客満足度を向上させる、あるいは新規顧客を開拓するなど、自動化や効率化の域を超えて、今までになかった価値を従業員や顧客に提供することです。

デジタルトランスフォーメーション (DX) は、データを 1 カ所に集約して一元管理するデジタルプラットフォームを整備して、さらにインターネットを介してクラウドプラットフォームに関係者がアクセスできるようにし、企業内の組織だけではなく顧客ともつながることを示しています。一方、デジタイゼーションやデジタライゼーションの段階では、データ一元化されたデジタルプラットフォームは整備されておらず、これまでのようなサーバや PC 端末によるデータ管理を前提としています。

DX の構造(出所:経産省「DXレポート2」)

いずれにせよ、デジタイゼーションやデジタライゼーションという言葉は、とにかく「DX という大きな山で、われわれは一体何合目にいるのか」を示していると考えたら分かりやすいのではないかと思います。


デジタルトランスフォーメーション (DX) と IT 化の違い

例えば、IT を活用した業務効率化、AI などを利用した作業の自動化、CAD を使った機械製図、紙データの電子化などは、あくまでデジタルトランスフォーメーション (DX) を成し遂げるための 1 つの手段であって、それらの活動そのもののことをデジタルトランスフォーメーション (DX) とは言わないという解釈が一般的です。

また、IT やデジタルを使用した業務改善についても、上記の定義に当てはめれば、「自社のビジネスに大きなインパクトを及ぼす変革とイノベーション創出」につながっているとは考えづらいレベルであることがほとんどであることから、それがイコール、デジタルトランスフォーメーション (DX) と解釈することはできないとされています。もちろん、デジタルトランスフォーメーション (DX) の中の施策の一部であることには変わりません。

デジタルトランスフォーメーション (DX) を目標とした取り組みをしている企業の方の中には、「自社の取り組みは、全然デジタルトランスフォーメーション (DX) ではない」と謙遜する方もいます。しかし、デジタルトランスフォーメーション (DX) を目指す計画に基づいているのであれば、現状は業務改善レベルの取り組みにとどまっていても、「われわれは、デジタルトランスフォーメーション (DX) に取り組んでいる」と、堂々と言ってもよいのではないのでしょうか。

デジタルトランスフォーメーション (DX) にしても、デジタル化にしても、あくまで「企業が、最終的に何を目指しているのか(目的)」が大事であるといえます。


デジタルトランスフォーメーション (DX) が注目されている理由

先の経済産業省による DX レポートの公開を機に、国内では、大規模な基幹システムを長年導入してきた大手企業を中心として、IT やデジタルによる組織・業務改革に積極的に乗り出す動きが少しずつ見られるようになりました。

さらにこの 2020 年以降は、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 問題、アジア各国の自然災害、ロシア・ウクライナ情勢の悪化など、製造業を操業するにあたって不確実性が非常に高い状況が続いています。国内製造業では、IT やデジタルを駆使したリモート会議やテレワーク、設備の遠隔制御や遠隔監視、予知・予兆保全などへの注目が非常に高まりました。DX 推進の取り組みも、企業規模にあまり関係なくアクセルが踏まれたような状態です。


デジタルトランスフォーメーション (DX) における企業の課題と対策

デジタルトランスフォーメーション (DX) という言葉が、これほど頻繁に聞こえるようになった今も、その流れにうまく乗れず、IT やデジタルの取り組みにブレーキを踏み続けているような企業も少なくないのも事実です。人の本能は、変化を嫌います。これまでの仕事の進め方や働き方を大きく変えることに抵抗感を覚える人たちは、多かれ少なかれいるものです。それが経営者自身であれば、現場サイドがデジタルトランスフォーメーション (DX) を望んだとしても、しっかりと予算が投じられることがなく、推進がなかなか進まないということになります。

「テクノロジーを使うだけの経営」になるなかれ

逆に、時流にうまく乗ろうと、経営者が AI(人工知能)や IoT(モノのインターネット)といった、デジタルトランスフォーメーション (DX) で活用する先端テクノロジーの部分ばかりにフォーカスしてしまい、「とにかく IoT を導入しなさい!」と現場にツール導入や活用を強いるなど、目的よりもツール導入が先走ってしまうことも、失敗例としてあります。それでは、「テクノロジーを使うだけの経営」と揶揄されます。まずは、企業のビジネスの目的や到達目標を明確にした上で、そうしたテクノロジーをどう活用するのか、どう投資していくのか計画しなければなりません。

老舗や大手ほど悩む、システムの老朽化の問題

デジタルトランスフォーメーション (DX) は、企業規模が大きいほど、IT を導入した歴史が長いほど、検討事項が複雑になります。例えば、「1980 年代に高額な予算を投じて投入した基幹システムを 30 年以上使い続け、システムが老朽化しているにも関わらず、全社の重要業務がそのシステムを基本にして最適化されている」「M&A を繰り返した結果、複数の基幹システムが社内に存在している」などです。そのため、大手企業で潤沢な予算があるからといって、デジタルトランスフォーメーション (DX) が急速に進むわけでもありません。

IT と設計・製造の両方を知る人材はさらに少ない――IT 人材の不足

さらに、IT 人材の不足の問題です。ことに製造業のデジタルトランスフォーメーション (DX) となると、IT の知識だけでは不十分であるため、情報システム部だけでは力が及ばず、設計・製造を熟知した人の知見が必要です。一方で、設計・製造側の人は、IT の知識が不足しています。トラディショナルな製造業の中では、IT 系人材の数が少なめであることと併せ、IT と設計・製造、両方の知識を備えた人となればかなり絞られてくることになります。


デジタルトランスフォーメーション (DX) 推進を行うメリット・デメリット

メリット

デジタルトランスフォーメーション (DX) を推進するメリットの 1 つは、業務において生産性がなく無駄とも思える作業や、手が取られすぎていた間接業務を削減し、本来集中したい業務や価値創造に時間を費やすことができるようになることです。また、それが製品やサービスの品質を高めることにつながります。

もう 1 つは、老朽化したシステムによるしがらみから解放されることから、変化に応じた柔軟な対応が可能になったり、新技術を取り入れやすくなったりすることがメリットです。

さらに大きなメリットとしては、これまでなかったデータプラットフォームに、誰もがアクセスして利用しやすくなる、あるいはリアルタイムに情報共有が可能になることから、従来の縦割り組織の壁を乗り越えた組織間横連携が行いやすくなります。そのことで、社内全体のナレッジが集約され、部署間のコミュニケーションが円滑になることから、問題の早期洗い出しはもちろん、新たなサービスや製品を生み出しやすくなります。

総じて、企業で働く人たちの努力がしっかりと成果へ結びつきやすくなり、それが働き甲斐へつながるという環境が実現し、さらにその環境が会社に大きな利益を生み出すという好循環が生まれることになります。

デメリット

そもそもデジタルトランスフォーメーション (DX) という概念が、「よりよくなる方向」を目指すことから、実現した矢先に大きなデメリットがあってはおかしいことになります。ただし、推進の際に苦労することは、先ほど挙げた課題のように、一筋縄では解消が難しい壁がいくつかあり、企業として大きな投資を行わなければならないことと併せ、多大な労力や時間を割く覚悟が必要です。また組織を大きく変革することについて同意しない人材が反発したり、去ってしまったりすることも覚悟する必要もあります。

よって経営層が、まず大きな投資の決断やさまざまな覚悟をすることと併せ、現場が納得できるビジョンや計画を示せなければ、デジタルトランスフォーメーション (DX) の推進も中途半端なもので終わってしまう可能性があります。


デジタルトランスフォーメーション (DX) が成功している状態とは?

上記で挙げたように、デジタルトランスフォーメーション (DX) を推進する際には、いくつかの大きな壁があるものです。そのため、デジタルトランスフォーメーション (DX) を成功させるためには、まず経営者が明確で力強いビジョンや目標を掲げて、必要な予算をしっかり投じて、経営層も現場も一丸となって、同じ方向を見ながら、具体的な期限を定めて計画的に推し進める必要があります。

「デジタルトランスフォーメーション (DX) が成功している状態」とは、データプラットフォームが機能し、頻繁に起こる変化に対して、常に迅速かつ柔軟な対応が可能な組織になっていることです。逆に「デジタルトランスフォーメーション (DX) がうまくいっていない状態」とは、先ほど定義したデジタイゼーションやデジタライゼーションの範囲からステップアップできず、デジタルデータの流れが所々で切断されてしまっていることから、業務やコミュニケーションの非効率が生じている状況になっていることです。

DX加速シナリオ(出所:経産省「DXレポート2」)


企業のデジタルトランスフォーメーション (DX) 成功事例

最後に、経産省が 2019 年に公開した「製造業 DX 取組事例集」より、成功事例を紹介します。

事例① 株式会社今野製作所「プロセス参照モデル」

今野製作所は、板金加工や、油圧機器を設計・製造に携わる、従業員 37 人ほどの都内の中小企業です。同社は、2008 年のリーマンショックでこれまで主力としてきた油圧機器事業で大ダメージを受け、そこから回復を図るため、多品種少量生産の特注品の油圧機器に注力し、付加価値向上を目指しました。しかし、当時の社内は個別受注生産の対応力が不足しており、業務の複雑化や負荷増大、納期遅れなどに悩まされました。

そこを乗り越えるべく開発した「プロセス参照モデル (SCOR)」は、自社の業務プロセスや、エンジニアリングプロセスにおける社内連携体制について可視化したものです。複雑化した業務プロセス全体をフロー図化することで、不足人材や改善すべきポイントを明確化し、デジタル技術活用における具体的な取り組みにつなげたということです。
製造業 DX 取組事例集(5 ページ目)

事例② 沖電気工業株式会社「バーチャル・ワンファクトリー」

沖電気工業は、通信機器、現金自動預け払い機 (ATM) などを手掛ける都内の電機メーカーです。同社では、マスカスタマイゼーションへの対応必要性や社会変化による需要減に対する危機感から、工場間の横串連携を検討。各工場で異なる製品を生産していましたが、設計部門は各工場に最適化した仕様設計をしており、図面の描き方や技術標準がそれぞれ異なるなど、共通する部品であっても共通の仕様による生産ができない状態でした。

同社の「バーチャル・ワンファクトリー」は、情報通信本部傘下の本庄工場(埼玉県本庄市)と沼津工場(静岡県沼津市)において推進、2 つの工場を仮想的に 1 つの工場に融合していく取り組みです。「部門間融合」「生産融合」「試作プロセス融合」「IT 融合」の 4 つからなり、これらの施策を進めることで、コスト削減だけでなく外部環境変化への対応が可能になりました。
製造業 DX 取組事例集(6 - 7 ページ目)

事例③ 富士通株式会社「FTCP (Flexible Technical Computing Platform)」

富士通は、総合エレクトロニクスメーカーで IT ベンダーでもある大手企業です。同社製品開発における課題としては、市場環境変化による製品の多様化およびカスタマイズ化への対応、納期の短縮化への対応、製品の複雑化・高密度化への対応、技術継承の継続強化がありました。製造現場における課題には、「日本でものを作ることへのこだわり」から、ノウハウ伝承、人不足への対応がありました。全社的には、調達・管理コスト削減、設計者の高齢化・サイロ化による個人差低減、災害対応によるBCP強化のための事業部間の連携強化が課題でした。事業部ごとに特定の製品を特定の工場で生産しており、事業部間の連携や共通したルールは存在しなかったといいます。

そこで同社では、設計開発のためのプラットフォーム「FTCP (Flexible Technical Computing Platform)」を開発し、3D データを活用したデジタルモックアップ (DMU) を実現しました。FTCP を用いた「仮想大部屋」は、バーチャル空間上で設計部門、製造部門、品質保証部門が一同に会し、データ共有やデザインレビューを行うことができるシステムです。過去に蓄積された製品データやクレーム情報などのドキュメントや 3D CAD 図面などを使用し、すり合わせを行うことで、開発現場にも製造・保守のノウハウが蓄積され、フロントローディングを実現することが可能となりました。さらに、VR(仮想現実)や AR(拡張現実)技術を使い、製品データを立体視できるようにし、実物のモックアップ試作をしなくても臨場感のあるレビューができるようにしました。
製造業 DX 取組事例集(8 - 12 ページ目)

事例④ オークマ株式会社「IT Plaza」

大手工作機械メーカーであるオークマは、自社主力製品である NC 工作機械の開発や当時の標準化への機運の高まり・論調を通して、個別最適ではなく全体最適を指向していました。それには、「創発の場→対話の場→システムの場→実践の場→…」のサイクルにより知識創造を促進することが重要だと考えました。 オークマは、同社の NC 工作機械に付随した生産システム「IT Plaza」を開発。設計・生産技術プロセス、生産管理プロセス、知識マネジメントの 3 つの基軸から「付加価値の高い製品を、速く、安く作る」ための生産プロセスの革新を行いました。この設計開発環境で、自社の NC 工作機械の知能化に取り組んでいます。IT Plaza は、顧客企業にも提供しています。 製造業 DX 取組事例集(13 - 15 ページ目)

事例⑤ トヨタ自動車株式会社「工場 IoT」

大手自動車メーカーのトヨタは、過去より 3D CAD データや試作時の特性データなど、個々の情報のデジタル化を行い、技術開発・生産準備に成果を上げてきました。しかし、実際の製造や、顧客から得たデータの技術開発へのタイムリーなフィードバックに苦戦していたといいます。「インダストリー 4.0」や、自動車業界での非自動車メーカーの台頭などの社会変化を受け、危機意識を持ち、全社的なデジタル化を検討しています。

トヨタの「工場 IoT」は、3D CAD データなど既存のデジタル化データを一元管理できる、工場と現場などの部署間にまたがる情報共有基盤です。以下の 5 点を目的として構築しています。
  • 「現有資産の最大有効活用」:すぐに着手できるよう、既存の設備を活用
  • 「拾い切れていない現場の困りごとをAIで解決」:データ分析の効率化
  • 「FA機器類からのデータ授受」:ログデータとして現有資産に保管されたデータの有効活用
  • 「セキュリティ対策」:外部と接続するIoT工作機器などへの対応
  • 「IE化されていない設備の標準化」:インターフェースの標準化
さらに、工場 IoT の考え方をエンジニアリングチェーンやサプライチェーンに広げ、「開発」「市場」「工場」をデジタル化で連携することを目的として情報共有基盤を構築しています。
製造業 DX 取組事例集(16 - 17 ページ目)


まとめ

国内製造業では、今日のコロナ禍でのニューノーマル対応、半導体や材料などのサプライチェーン混乱などに見舞われる状況下で、人材不足や技術継承の課題に悩みながら、厳しい状況で戦わねばなりません。

激しい市場の中でますます短納期化し、コストダウンのプレッシャーも依然として高く、それが設計・製造の現場に強いプレッシャーとしてのしかかることで、組織が疲弊し、製品の品質低下や、品質検査改ざんへとつながってしまう恐れがあります。疲弊した組織を救うことができるのが、デジタルトランスフォーメーション (DX) の取り組みです。

しかしデジタルトランスフォーメーション (DX) の取り組みをしたいと考えても、予算が確保できず十分な投資が行えない、推進するためのナレッジや人材が不足しているなど、深刻な悩みを抱える企業は、今も多くあります。

国内製造業のデジタルトランスフォーメーション (DX) への興味や意欲を高めるための啓発が大事であるとともに、デジタルトランスフォーメーション (DX) がままならぬ企業に立ちはだかる壁を取り払うために、具体的にどう支援に取り組んでいくべきか、業界全体や国家、行政が、より力を入れて取り組む必要があるかもしれません。


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