今回は 製造業における技術継承の課題やデジタル化への取り組み、その先にある製造業の変革を紹介します。記事の最後で Creo のお客様導入事例もご紹介しておりますので、気になる方はぜひ最後までご覧ください。
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製造業の技術継承が進まない理由とは
多くの企業で技術の伝え方が最適化されておらず、製造業における技術継承の取り組みは効率的に進んでいません。事業継続の可否に関わる重要課題であることは認識されているものの、目先の課題解決を優先しがちで、うまく進められていないのです。
しかしながら、ほとんどの企業が熟練エンジニアの大量退職に直面している中、製造業の技術継承は先送りできない課題になりつつあります。労働人口が急速に減少していく中で、「匠の技」をどのように継承するのか。あるいは蓄積された情報やノウハウをどのように共有するのか。
ここでは、製造業の技術継承が抱える課題やそのデジタル化について詳しく見ていきましょう。
技術継承とは。継承と伝承との違い
技術継承とは、一般的に熟練技術者が持つ知識やノウハウを社内の後継者に伝達し引き継いでいく取り組みのことです。従来の対面による直接指導や紙のマニュアルによる伝え方を、最新のデジタル技術を用いて定量化や標準化することは、技術継承のデジタル化と呼ばれます。
前提として、技術は客観的に言語化あるいはデータ化できる知識の体系であることを押さえておきましょう。知識の体系である技術は、個人ではなく組織や社会に帰属しているものです。一方、技能は、人の働きや動きなど定量化や標準化が難しく、人を介在することでのみ伝えられる定性的なものを指します。人間の行動様式には、この技術と技能が混在しているのです。
継承とよく似た概念に「伝承」がありますが、どのように異なるのでしょうか。伝承は、一般的に定性的なものを伝える際に使われる言葉です。なかなか代替がきかない、学べば誰でも習得できるというわけではない、いわゆる属人的な技能を伝える際には伝承という言葉が使われます。
技術継承における課題
製造業に限らず、あらゆる業界・業種で技術継承は先送りされる傾向にあります。技術を伝えていくには、その整理・体系化があらかじめ必要です。しかし整理・体系化に膨大な時間と投資が必要になる一方で、投資対効果を把握しづらい点は先送りされる一因と言えるでしょう。
製品の複雑化や不確実性の高まりに応じて、昨今では市場の変化が著しいことも、技術継承の取り組みを混乱させる一因になっています。例えば、製造業の足元の課題は、市場の変化に応じた迅速な対応です。課題解決のためには、設計力の強化が必要です。設計段階から製造現場の関係者を巻き込み、開発の初期段階にリソースを集中的に投入するフロントローディングが求められるようになりました。(注1
つまり技術継承は、次世代を対象とした限定的な取り組みから変容しつつあります。設計・製造の工程の中で、社内だけでなくサプライヤーや顧客などの関係者と「技術=体系化された知識」を共有する方法も検討しなくてはなりません。そこで製造業における技術継承は、「データの共有・連携」と言い換えると、より理解しやすくなるでしょう。
技術継承のデジタル化が注目される背景
団塊世代の大量退職が2025年から始まり、技術継承のデジタル化が注目されています。熟練エンジニアの技術継承を効率的に行える環境づくりは、今や喫緊の課題なのです。日本のモノづくりの現場は、長年にわたり「匠の技」に助けられてきたことが多分にありました。「勘に優れた」「経験豊富な」エンジニアたちは、製造現場がうまく回るように、きめ細やかに支えてきたのです。
仕様の擦り合わせなどを担っていた熟練エンジニアが退職することは、工程設計力の低下リスクの上昇を意味します。工程設計力が低下しているにもかかわらず、市場の変化に応じた迅速な対応が求められる状況は、製造業の現場にとって過酷なものになるでしょう。そこで製造業においては、技術継承のデジタル化の一環で、設計、製造、調達といった「部門間の連携を強化」するものづくり企業が増えています。(注1、(注2
実際に2020年度ものづくり白書によると、部門間の連携がとれている企業ほど、製品設計力と工程設計力が向上する傾向にあることがわかりました。
<図132-11 製品設計力の5年前と比べての変化と設計、生産技術、製造等の部門間連携の関係>
<図132-12 工程設計力の5年前と比べての変化と設計、生産技術、製造等の部門間連携の関係>
資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」(2019年12月)
出典:2020年度ものづくり白書(2.設計力強化戦略)|経済産業省
テクノロジーの進化に伴い、「技術継承=データの共有・連携」は今や容易に実現できるようになりました。整備された部品表 (E-BOM、M-BOM) や工程表 (BOP) を各部門が共有し、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンを連携する動きも活発化しています。競争力維持のために、フロントローディングによる設計力強化とともに、設計から製造へのプロセス効率化を検討する時代が到来したと言えるでしょう。
技術継承のデジタル化の先にある製造業の変革
コロナ禍を経て、日本社会にもデジタルツールを活用した在宅勤務やリモートワーク、あるいはハイブリッドワークが浸透しました。打ち合わせや会議、面接をオンラインで実施することが普通のことになったこともあり、技術継承のデジタル化への受容性も高まっています。
今では多くの企業で業務ワークフローがデジタル化されていることから、図面の承認にかかるプロセスはスムーズでしょう。PLMシステム導入企業では、設計管理の担当者はリモート環境でもスムーズに部品表 (BOM) にアクセスできます。ただし CAD を扱う業務においては、コロナ禍に自宅から「社内サーバー」にアクセスした際に、ネットワーク環境の課題もあって「動作が遅い」などの諸問題に直面しました。
SaaS 版 CAD の急速な普及
そこで製造業の未来像を考えたときに、注目されているのが SaaS 版 CAD 及び PLM ソリューションへの移行です。設計データは競争力の源泉となる知的財産であり、安全に管理しなくてはなりません。そこで製造業における情報資産管理の在り方を変革する方法として、 SaaS 版 CAD が今後広く普及すると見られています。 SaaS 版 CAD なら、アクセス制御によりセキュリティを強化しながら、アクセスのしやすさも向上できるほか、拡張性、コラボレーションも高められるのです。
PTCは2023年5月、オンプレミス版 Creo 10 のすべての機能に加え、コラボレーションを強化した SaaS 版「Creo+」 を発表しました。SaaS 版 Creo+ の導入によって、複数のチームメンバーがリアルタイムで製品・部品デザインをレビュー、検討、編集できるようになります。リアルタイムコラボレーションの実現により、イノベーションが加速します。
SaaS 版 Creo+ は、オンプレミス版 Creo と同じコア技術を使用しているために、データ変換の必要はありません。クラウドベースのデスクトップツールによって、効率的なライセンス管理も可能です。
シミュレーション主導型の設計開発プロセスの強化
最新テクノロジーを活用し、シミュレーション主導型の設計開発プロセスを強化すれば、市場投入期間の短縮、製品の初期品質の向上、製造コストの低減が可能になります。例えば、AI を活用した設計を実現するジェネレーティブデザイン機能や CAD 上で設計者が自ら解析を行うことができるシミュレーション機能によって、より革新的で優れたデザインをより短時間で提供できるようになるのです。
2024年5月発表の Creo 11 と Creo+ では、AI を駆使したジェネレーティブデザインの拘束条件に関する機能強化や、Ansys の技術を利用した新たなシミュレーション駆動機能の実装が行われました。
技術継承のデジタル化を成功させる方法
製造業における技術継承のデジタル化は、今や製造業の競争力を強化するために必須の取組みです。では、どのような点に留意しながら進めていけば良いのでしょうか。ここでは、技術継承のデジタル化を成功させるためにポイントとなる情報を紹介します。
鍵はデータの「共有性」と「信頼性」
「3D CAD の情報は相互に連携する」点を押さえておきましょう。そこで技術継承を成功させ、データの「共有性」と「信頼性」を高めることが重要な鍵になります。上流工程の構想設計と、下流工程の詳細設計を完全連携したトップダウン設計を実現できれば、修正ミスや設計不整合を回避できます。
参照が切れたり、ある部品を修正したら他の部品が意図せぬ修正がされる設計環境は、技術継承の失敗例と言わざるをえません。データの共有性と信頼性がある 3D CAD ソフトウェアとは、具体的には下記の通りです。
- 必要なデータがまとまっている
- 連携漏れがない
- 修正漏れがない
- 長年使用しても、データ劣化が少ない
- 他部門とデータを共有できる
「必要なデータがまとまっている」ためには、下記の2点が求められます。
- 構想設計(設計思想)が明確に定義されている
- 3D モデルに図面だけでなく、アノテーション(注釈)、製造情報、部品表、公差などの解析データなどの製品情報が紐づいた状態になっている
構想設計の段階で、できる限り設計変更の可能性がある箇所を想定して情報に含めるようにしましょう。パラメトリック CAD では、後に想定される変更をあらかじめ考慮しておくと、設計変更がしやすくなります。
製品の製造と検査に必要な情報を 3D モデルに紐づけた 3DA モデル(モデルベース定義:MBD)を共有すれば、生産用 2D 図面への依存を無くせます。設計から製造へ直接移行できるようになることから、開発時間、コスト、品質の面で著しい改善を期待できます。
データの共有性を高める方法
シングルデータベースで強固な連携性を保持している CAD は、データの共有性を高めます。従来は、前工程が完了するまで次工程に進めない「シーケンシャル プロセス」が設計の主流でした。
一方、同じデータを一気通貫で使用するシングルデータベースの CAD なら、複数の設計者が設計意図を共有し、同時並行で製品開発を進める「コンカレント プロセス」が可能になります。さらに SaaS 版 CAD を活用すると、アクセス性も増し、リアルタイムコラボレーションが可能です。
データの信頼性を高める方法
設計データの修正が、リアルタイムで関連データ全てに更新及び反映されることが、データの信頼性を高める1つの方法です。設計情報から製造情報に至るまで、修正内容が自動的に伝播されると、安心して設計の変更ができます。
バージョンアップ時のデータ劣化・破損を起こさないことも、設計チームのノウハウや知的財産などを、確実に次世代へ技術継承していくために重要です。またデータ連携に強みがあり、強力なジオメトリエンジンを搭載し、3DA 機能が充実したパラメトリック系の CAD は、データ矛盾を起こしません。3D 正の運用を可能にし、実物と同じ形状の 3D モデルを作成できるのです。
3D CAD ソフトウェアの重要性
以上を検討しますと、データの信頼性を担保できる 3D CAD ソフトウェアを選定することが重要です。Creo は、パラメトリックなフィーチャーベースのソリッドモデリング手法の 3D CAD ソフトウェアです。寸法、拘束などのパラメータとフィーチャーの積み重ねによって、設計の意図を明確に表現します。
Creo なら下記の通り、バージョン保証、各工程の修正が一括反映、連携漏れゼロを実現できます。さらに製造業 DX に必要な PLM とも連携可能です。
- バージョンアップ時のデータ劣化が少ない(バージョン保証あり)
- シングルデータベースで連携/修正漏れゼロ
- モデルベース定義 (MBD) 機能により 3D 正の運用が可能
- トップダウン設計機能で、設計思想が明確に定義される
- 3D モデルをコアに設計データを TDP (Technical Data Package) として保存可
- PLM との連携性が高い
Creo は、シングルデータベースによる設計・製造プロセス全体を通じたデータの一元管理が大きな特徴です。自社開発した独自カーネル「GRANITE One」がシングルデータベースを可能にし、相互連携性を高め、3D モデルから図面、解析まで全てに修正を反映させています。
スケルトン機能、コピージオメトリ、参照制御といった トップダウン設計機能を使用すれば、設計の重要な情報を集約しながら、大規模アセンブリのフレームワークの計画もできます。スケルトンにおけるジオメトリのマスター定義により、コンカレントプロセスも可能になるのです。
Creo を活用し、ノウハウ共有を通じて AI設計(ジェネレーティブデザイン)を実現する方法について詳しく知りたい方は、こちらもご覧ください。
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技術継承のデジタル化 成功事例
UD トラックスは、Creo に完全一本化した上で「必要な時に、必要なデータを、どこでも取り出せる」環境を構築しました。Creo の 3D データに、同じく PTC の PLM と IoT プラットフォームを連携させ、エンジニアリングとサプライチェーンのデータを統合することに成功したのです。サプライヤーと顧客との双方向なコミュニケーションの場を作ることで、意思決定の迅速化やコミュニケーションロスを排除しています。
トップダウン設計に適した 3D CAD「Creo」お客様導入事例
Creo は、トップダウン設計を効果的に推進する機能を実装した 3D CADソフトウェアです。自社開発の独自カーネルを搭載することでシングルデータベースを可能にし、「データ連携 100%保証」を実現しています。
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Creo お客様導入事例
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【導入事例】
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参考資料
・注1:2020年版もの作り白書(2.設計力強化戦略)|経済産業省
・注2:2024年版ものづくり白書(第 2 節 DX による製造機能の全体最適と事業機会の拡大)|経済産業省