IoTと拡張現実で データの 力を解き放つ
計り知れない可能性を秘めた前途有望なテクノロジーであるAR(拡張現実) は、IoT(モノのインターネット)の可能性を最大限に解き放つカギとなるものとし て注目を集めています。ARアプリケーションは、IoTデバイスやコンポーネントが 生み出す様々な種類のデータを活用して、従業員の有効性や生産性の向上に役 立っています。
売上と利益の2桁成長を促すコスト削減、収益増加、利益率向 上の好循環をすばやく生み出すために、企業はIoTとARを断片 的に捉えるのではなく、これらのテクノロジーを組み合わせた 戦略を策定する必要があります。本レポートでは、これらのテク ノロジーの利点を企業がどのように活かすことができるかを分 かりやすく説明した、ダウンロード可能なIoT-ARアプリも提供 しています。
ARとIoTを組み合わせるべき理由
ほとんど気付かれないままに、IoTコネクテッドデバイスの台数 は2016年の約60億台から2018年には110億台に増加 し、Gartnerによると、2020年には200億台に達するだろうと言 われています。この増加は、文字通りデータのビッグバンを引き 起こしました。Cisco SystemsとIDCの見積りでは、IoTにより生 成されたデータの量は、2016年では約22ゼタバイト(22兆ギガ バイト)であったのに対し、2019年には2倍以上の52ゼタバイト に膨れ上がりました。そして、2021年には85ゼタバイトに達す る見込みです。
しかし、データ量の急速な増加に対応できず、多くの企業が収 集したすべてのデータを利用しきれていないというのが現状で す。膨大なデータ量により処理速度が低下し、その結果、デー タがデータレイクに停滞してしまっているのです。さらに、デー タセットが一貫した順序になっておらず、データベースのソース が多すぎるために合成が不可能な状況です。その結果、多くの 企業が、従業員が適時に適所で利用可能な「データに基づくイ ンサイト」を創出することが困難だと感じています。
ビッグデータを効果的に利用する上で見落とされがちなもう1 つの課題は、標準的なビジュアライゼーションツールです。これ らのツールは、様々なソースから収集したデータを表示するの に必ずしも効果的とは言えません。ところが、ほとんどの人は、 データをすばやく理解するために視覚的な表示を必要としてい ます。
ここでARが役立つのです。データ分析を可能にするため、IoTデ バイスが物理世界からデータを取り込み、ARデバイスがそのデ ジタルデータを人が閲覧したりやり取りできる形に変えて物理 世界に戻します。(次のページの「IoT-ARソリューションのスイ ートスポット」をご覧ください。)
ユーザー自身が仮想環境に入らなければならない仮想現実ア プリケーションとは異なり、ARアプリケーションはデジタル情 報をユーザーの物理環境に重ね合わせます。例えば、ARアプリ ケーションではデジタルコンテンツをライブカメラフィードに追 加し、コンテンツを物理世界の一部かのように見せることがで きます。そうした機能により、ユーザーはより直感的にデータと やり取りできるのです。
IoT-ARソリューションのスイートスポット
IoT-ARソリューションが最も有用となるのは、自動システムでは なく従業員が一部または全部の判断を行い、作業員が機械や 空間のような対象物を効果的に扱うためにデジタルデータを必 要とするような業務上の場面です。
IoT-ARアプリケーションはまた、膨大な量の多種多様なコンテ クストデータを1つのビューに集約して表示すると判断が容易 になるような場面や、従業員がリアルタイムで物や環境を効果 的に扱うために両手を必要とする場面、目に見えない物体や部 品を扱う必要がある場面などに非常に有用です。
IoTとARの利用が急増
拡大するARのビジネス利用:ARは当初試験運用されていたマ ーケティング・営業部門の枠を越えて、企業に幅広く導入され る傾向が高まっています。(「拡張現実:カメラは広告業界の次 なる目玉となるか」[BCGレポート、2018年4月]をご覧くださ い。)なかでも、製造、オペレーション、サービス、トレーニング などの機能への導入が拡大しています。(“Ro l l i n g Out Augmented Reality in the Field,” BCG article, October 2018 をご覧ください。)専用デバイスの開発よりも、ARに対応した スマートフォンやタブレットの普及がARの利用拡大を促進して います。
利用拡大のトレンドを把握するため、BCGとPTCは、IoTおよび ARソリューションのいずれかまたは両方を利用している企業の 経営幹部200名以上を対象に定量調査を実施しました。我々は また、数名の上級役員の方々にもインタビューを行いました。 驚いたことに、多くの回答者がIoTとARを互いを補完するもの とみなしていました。調査対象企業の81%がIoTを利用してお り、ARの利用を検討中と回答した一方で、AR単体のソリューシ ョ ンを開発中の企業の約76%が、自社のアプリケーションにIoT を追加することに価値があると思うと回答しました。
IoT-ARソリューションは、大量の多種多様なコンテクスト固 有データを単一のビューに統合することにより、従業員がよ りスマートな意思決定を行えるよう支援します。
IoTとARを組み合わせて利用することが最近のトレンドとなっ ています。2010年以降にIoT-ARソリューションを試した企業は ごくわずかでしたが、2017年以降はその数が急激に増加してい ます。さらに、調査対象企業の80%以上が、IoT-ARソリューショ ンは今後5年間で自社の業界の標準となるだろうと予想してい ます。この調査ではその他にも、以下の5つの領域における重要 なトレンドが浮き彫りになりました。
- 業界:いくつかの業界が、他に先駆けてIoTとARテクノロ ジーの利用を同時に進めています。重工業が先陣を切り、 テクノロジー、エンジニアリング、航空宇宙、通信、およびメ ディアがそれに続いています。設備保全などの機能では、IoT とARアプリケーションはすでに最先端の象徴となってい ます。
- 設計:我々の調査によると、IoT-ARの試験導入は47%の企 業がIoTの利用から始め、のちにARを追加しています。しか し、上級役員とのインタビューによると、最初からIoTとAR テクノロジーを組み合わせたソリューションを開発したほう が、導入も簡単で、得られる価値も高かったとコメントしてい ます。
- デバイス:調査対象企業では、多くのIoT-ARアプリケーショ ンユーザーが複数のARデバイスを使用しています。スマー トフォンが最も多く (51%)、次いで、Microsoft HoloLens (39%)、Google Glass (18%)、自作デバイス (17%)、ヘッドマ ウントディスプレイ (16%)、RealWearウェアラブル (11%)、 Magic Leapディスプレイ (9%) となっています。
- 組織構造:調査対象企業のうち、85%がすでにIoTとARアプ リケーションをセットで開発および導入し管理しており、それ らの企業のうち77%がAR専用の予算を設けています。
- 対価:調査対象企業のうち、約80%がIoTとARへの投資を3 年以内に回収することを期待していたと答えており、26%が 1年以内に投資を回収しています。実際、両方のテクノロジー を導入した企業、または試験導入の最終段階にある企業の 半数が、すでに社内でその価値を実証しており、約35%がこ れに続こうとしています。
職場におけるIoTとAR
我々は調査とインタビューで、30件を超えるIoT-ARのユースケー スを特定しました。それらを詳しく見てみると、IoT-ARの使用が 人間の活動をどのように拡張し、ビジネスにどのような影響を 与えるかを考慮することにより、意味のある分析ができること が分かりました(図表1参照)。
IoTとARアプリケーションは、以下の3つの方法で人間を支援す ることができます。
- データを可視化し、環境とやり取りする:IoT-ARソリューショ ンは、従業員がデータを可視化、分析および理解できるよう 支援し、ひいては、環境の中を効率よく移動することを可能 にします。人間はデータを3次元で見ることで、より直感的に 理解することができます。学習科学によると、問題解決に当 たっている従業員に関連性の高いデータや知識を提供する ことが、彼らの作業を支援する上で最も効果的な方法だと言 われています。従業員がデータを可視化し、環境とやり取り することを可能にするIoT-ARのユースケースのうち、20%が作 業員のスペース管理を支援するものでした。
- 問題を診断する:IoT-ARアプリケーションは、様々な種類の データを単一のビューに統合するため、従業員は物体や空間 をより適切に分析し、対象物とその周囲の環境に存在する問 題を診断することができます。例えば、これらのアプリケーシ ョ ンを使うと、従業員は複雑な機械の問題を、機械を開けるこ となく特定し、棚をあちこち探し回ることなく部品を見つける ことができます。従業員が問題を簡単に診断することを可能 にするIoT-ARユースケースのうち、22%が設備や物体の管理 を支援するものでした。
- アクションを起こす:IoT-ARソリューションは、大量の多種 多様なコンテクスト固有データを単一のビューに統合するこ とにより、従業員がよりスマートな意思決定を行えるよう支 援します。また、IoT-ARアプリケーションで、従業員は遠隔 地にいるエキスパートとつながり、リアルタイムでガイダンス を受けることができます。従業員がアクションを起こすこと を可能にするIoT-ARユースケースのうち、15%が人間の能力 を高めるものでした。
これら3つの方法は相互の上に成り立っています。問題を診断す るには、データを可視化し、環境とやり取りしなければならず、 アクションを起こすには、問題を診断する必要があります。
IoTとARテクノロジーはまた、以下の3つの領域でビジネスに影 響を与えます。
- 人間の能力を高める:企業はIoT-ARソリューションを利用し て、従業員が複雑な業務のやり方をより簡単に学べるよう支 援することができます。例えば、企業はIoT-ARアプリケーショ ンを用いて、製品のシミュレーション映像にIoTデータを重ね ることにより、工場の従業員に装置の組立方法や機械の使 用方法に関するトレーニングを実施することができます。同 様に、病院でも医療技術者のトレーニングにこれらのソリュ ーションを活用することが可能です。
- スペースの管理:IoTとARテクノロジーは、工場や倉庫、小
売店などの物理的スペースから取得した細分類されたデー
タを、企業が理解する上で役立ちます。機能領域をうまく管
理するためには、細分類されたデータを理解することが重要
です。例えば、企業はIoT-ARアプリケーションを用いて、売れ
行きの良い製品に割り当てるスペースの量を決定することに
より倉庫の使用を最適化し、在庫の健全性を監視し、搬出す
るべき古い在庫を特定することができます。このアプリケー
ションではまた、IoTデータとARデバイスを用いて作業員に
最も効率の良いルートを示し、倉庫内をガイドすることも可
能です。このようなアプリケーションを導入することにより、
必要な運転資金を削減し、エネルギーコストを節減し、労働
生産性を向上させることができます。
同様に、企業はARを使用して、ビーコンやモバイルアプリ、ビ デオ解析を用いて収集した客足データを小売店の構成図に 重ね合わせ、最適な店舗のレイアウトを特定することができ ます。さらに、ARヘッドセットに店内のセンサーから取得し たIoTのライブデータを映し出すことで、マネージャーが商品 棚の間の通路を見回り、問題を発見することが可能になりま す。例えば、製品が在庫切れになっていたり、誤った場所に 陳列されていたり、誤ったバーコードが貼付されていたりす ると、アラートを表示して知らせることもできます。
- 設備の管理:IoTデータを機械のコンポーネントの画像に重
ね合わせて表示するARアプリケーションを作成することで、
従業員が複雑な装置の微調整や修理が行えるよう支援する
ことができます。このような画像を使用することで、機械内
部の見えにくい部分さえも「見る」ことが可能になるため、作
業員は簡単に問題を診断できるようになります。作業員が修
理を行っている間、ARを使って画像にステップ・バイ・ステッ
プの指示を重ね合わせたり、遠隔地にいるエキスパートから
のガイダンスをリアルタイムで表示したりすることができま
す。場合によっては、現在の手順が完了したことがデジタル
処理で確認できてからしか、次の修理手順が作業員に対して
表示されないようにすることで、修理の品質を高めることも
できます。
店舗フロアでは、技術者に各自の業務に関連したIoTデータ を可視化できるARデバイスを装着させることもできます。例 えば、生産ラインの機械にIoTセンサーが埋め込まれていれ ば、ARメガネを装着している技術者がフロアを巡回して、装 置が正常に機能しているかどうかを確認することができま す。技術者が装置に近づくほど、より具体的な情報を得るこ とができます。IoT-ARアプリケーションを使うと、組立ライン 全体から問題箇所を見つけることも容易になります。
装置を設計する際には、企業はIoTデータをデジタルモデル にフィードし、ARを使って拡張したそれらのモデルとやり取 りできるため、設計者は設計した装置が現実世界でどのよう なパフォーマンスを発揮するかをはるかに正確に知ることが できます。例えば、その装置の映像は、デザイナーが最もよく 使われる機能を特定し、装置の設計とパフォーマンスを改善 する上で役立つ可能性があります。同様に、建物やその周辺 に設置されたカメラや温度センサーのようなリモートIoTデバ イスは、データの収集を可能にし、企業はそれをもとにデジ タルツインを作成することができます。このような仮想モデ ルとARデバイスを組み合わせることにより、建築家や工事請 負業者、建築業者はデータとやり取りし、より良いアイデア を提供することができます。そして何より、水道管や電気配 線の配置を改善することが可能になります。
IoTとARを活用してパフォーマンスを向上
IoTとARの導入は、企業が収益アップを実現する最もスピー ディな方法です。IoT-ARソリューションを活用すれば、企業は 多くの場合同時に3つの方法で業績を改善できます。
- コスト削減:企業はIoTとARテクノロジーを活用して労働生 産性を高め、資材の廃棄率を削減し、資産のダウンタイムを 短縮し、運転資金を最適化することで、コストを削減するこ とができます。しかも、これはほんの手始めに過ぎません。 コンテクスト固有データをリアルタイムでレンダリングし、装 置の修理に対応する作業員を支援するIoT-ARソリューション などのシンプルなアプリケーションでさえ、初回修理完了率 を向上させ、エラーを減らすことができます。これらはいずれ も資材のコスト削減と技術者の再訪問の排除につながるも のです。
- 収益アップ:企業はIoT-ARソリューションを導入することに よりオペレーションのスピード化を図り、それにより事業の 生産性を高めることができます。また、これらのテクノロジ ーを活用して、収益化の可能性のある新しい製品やサービス を開発することもできます。例えば、顧客維持や顧客離れの 抑制、アフターサービスの契約顧客数の増大に役立つような IoTとARを基盤としたプレミアム・メンテナンス・サービスの 創設などが考えられます。
- 戦略的価値の創出:IoT-ARソリューションの付加価値は、ブ ランドエクイティの向上、顧客満足度の向上、リスクの緩和 など、様々な方法で生まれます。例えば、ARを使って倉庫内 を安全に移動できるよう作業員を誘導することにより、職場 環境を改善することができます。
81% 現在IoTを使用しており、AR の使用も検討している回答 者の割合
現在AR単独のソリューションを 開発しており、IoTを追加するこ とに価値があると考えている回 答者の割合
47% IoTテクノロジーを先に導入 して、後からARを追加した 回答者の割合
85% IoTとARをセットで管理している回 答者の割合。うち77%がAR専用の 予算を設けている
80% IoT-ARへの投資を3年以内に回収する ことを期待していた回答者の割合
50% IoTとARの利用価値をすでに 実証している回答者の割合
IoTとARを活用して、設備保全のコスト削減と収益増大を実 現。アフターサービスは、工業製品メーカーにとって実入りの良 い収益源です。というのも、ほとんどの顧客が購入した資産の 保守管理契約を結ぶからです。しかしメーカーは、より良いサー ビスをより低コストで、より迅速に提供してほしいという顧客か らの高まる要望に直面しています。さらに、多くのメーカーは拡 大するスキルギャップにも対応しなければなりません。団塊の 世代が現役を退くと、企業は彼らの経験と専門知識を一気に失 うことになります。こうした状況を背景に、設備保全にIoT-ARソ リューションを活用することで、以下のような様々な問題に対 処できます。
- 予想外のダウンタイム:IoTテクノロジーは機器を常時監視 して、機械や生産ラインの動作について早期に警告信号を発 することができます。IoT-ARソリューションは、IoTのパフ ォ ーマンスに関するリアルタイムデータ、高度なアナリティク ス、そしてARテクノロジーを利用して、こうした警告をスタッ フに送り、スタッフが予防保守を計画できるようにします。
- プロジェクトの遅延とコストの増大:IoTデータとアナリティ クスにより、設備のダウンタイムによる影響が最も少ないタ イミングと、どの部品が点検または修理が必要かを判断する ことができます。このようなガイダンスは、プロジェクトの遅 延とコストの増大を避けるのに役立ちます。
- 修理の長い待ち時間:フィールド・サービス・エンジニアは通 常、設備のある現場を訪問して修理を行う必要があるため、 ダウンタイムが長くなりがちです。しかし、ARを介した遠隔 サポートと、IoTダッシュボードのデータへのアクセスを組み 合わせることで、現場にいる経験の浅いエンジニアが自力で は解決できないような問題に対応できるようになります。
- トレーニング時間の増大:今後、経験豊富な従業員が引退し ていきます。その結果、会社はより多くの時間を、複雑な作業 のやり方を新人に教えるためのトレーニングに割かなければ なりません。ARデバイスなら、分かりやすいステップ・バイ・ ステップの指示を対象物に重ね合わせて、従業員に必要なガ イダンスやOJT(職場内訓練)を提供することができます。
- 修理品質の低下:IoTとARテクノロジーを活用すると、設備 が正しく修理または点検されたかどうかを確認し、さらに AR主導型の作業指示により修理品質を高めることができま す。
修理サービスにおける 5つの問題点 - IOTとARを利用していない従来のシナリオ
- 企業は掘削機が故障するまで修 理が必要なことに気付かない。 そのことが原因でダウンタイム が発生する。
- 予定外のダウンタイムによりプロ ジェクトが遅延し、コストが増大。 さらに、交換部品を待っている間、 時間のロスが発生する。
- 誤った診断が下され、エキスパー トが正確にトラブルシューティ ングを行うため現場へ出向く必 要が生じた場合に、時間が無駄 になる。
- 経験豊富な作業員が現役を退く。 その結果、複雑な作業のやり方を 新人に教えるためのトレーニング にかなりの時間を奪われる。
- 修理中、複雑なマニュアルを読み 解く際に間違いが発生。また、修 理の品質が確認または記録されて いない。
Global Foundries、Howden Group、Sysmex、およびVolvo Groupなどいくつかの企業では、保守の問題への対応や、顧客 へのセルフサービスオプションの提供、品質向上のためにIoTAR ソリューションを導入しています。これらのOEM企業で は、IoT-ARソリューションがサービス提供のスピードと質を劇的 に改善し、顧客満足度の向上と消費者離れの抑制につながっ ています。
IoT-ARソリューションを導入することにより、企業はかなりの経 済的利益を実現しています。
- 労働生産性の向上:AR主導型の指示を提供することで、修 理にかかる時間を削減し、労働生産性を向上させることがで きます。遠隔サポートによりエキスパートの出張が不要にな るため、一人ひとりのスペシャリストがより多くの修理サービ スの依頼電話に応えることができるようになります。
- 資源廃棄率と修正作業の削減:ARベースの指示をIoTによる 確認作業と組み合わせることで、修理を確実に1回で完了さ せることができます。これにより、修正作業や部品の再発注 の必要がなくなります。
- コスト削減:IoT-ARトレーニングソリューションを活用す ると、経験の浅いエンジニアに修理を任せることができる ため、人件費を削減できます。これらのアプリケーションな ら、OJTをオンデマンドで提供することができるため、トレー ニングコスト削減にもつながります。
- 顧客離れの抑制:IoT-ARソリューションは、企業の顧客対応 スピードとサービス品質を高めることができます。その見返り として、企業は実入りの良いアフターサービス契約の更新率 をアップさせ、新しい契約機会を成約へと結びつけることが できます。
- 新たなサービスや能力の提供:付加価値のある新しいIoTAR サービスや能力を開発することで、メーカーは既存の顧 客から収益を創出する機会を拡大することができます。その ようなサービスや能力は、企業のブランドエクイティを構築 する上でも役立ちます。
IoTとARを組み合わせたソリューションがいかにコストを低減 し、収益を増大することができるかを示すため、我々は現実世 界のデータを使ってケーススタディを作成しました。我々のケー ススタディで取り上げるメーカーは、アフターサービスの年間 収益が10億ドルまたは事業の年間収益の30%を占め、1,000人 のサービスエンジニアを雇用しています。
IoT-ARソリューションを導入し、雇用しているサービスエンジニ アの20%~30%と併用することで、このメーカーは収益10億ド ルにつき1,300万~3,000万ドルの純便益を上げるポテンシャル があることが分かりました。また、この範囲の上限付近の成果 を達成している企業が多く見られました。(図表2参照)。
IOT-ARソリューションがサービス提供の スピードと質を 劇的に改善
- 予測監視。IoTアナリティクスは設備を プロアクティブに監視し、設 備の健全性について早期に 警告を発します。
- 点検と部品配送の スケジュール設定。IoTアナリティクスが、メンテ ナンスのためのダウンタイム による影響が最も少ないタイ ミングと、どの修理部品が必 要かを判断します。
- データ駆動型の 診断。ARを介した遠隔サポートと IoTデータへのアクセスによ り、エキスパートの出張時間 を削減し、経験の浅いエンジ ニアが問題を診断できるよう 支援します。
- ガイド付き修理作業 とトレーニング。IoT-ARソリューションが装 置の上にわかりやすいステ ップ・バイ・ステップの指示 を重ね合わせ、ガイド付き 修理作業と没入型のOJT ( 職場内訓練)を可能にし ます。
- 初回修理完了率の向上。IoT-ARソリューションが点 検・修理が正しく行われた かを判断し、作業員のパフ ォーマンスを追跡します。
確かに企業は、IoT-ARソリューションの代わりに他のオプションを利用することもできます。その1つが、エンジニアのスキルを適切なタスクにマッチさせる方法で、これによりエラー件数を減らし、初回修理完了率を向上させることが可能です。純粋な人的ソリューションは低コストになる可能性が高いですが、IoT-ARソリューションが提供するすべての利点を提供することはできません。例えば、前者のオプションでは、作業を請け負うエキスパートの出張費用を削減したり、トレーニングに関する利点を提供したり、新しい技術者が短期間で作業スピードを上げることを支援したりすることはできません。
ケーススタディを具現化するために、BCGとPTCは共同でIoT+ARというアプリを開発しました。このアプリでは、ユーザーが3Dで設備の保守管理ソリューションを体験することができます。このアプリはiOSおよびAndroid端末でダウンロード可能です。このアプリでは、ユーザーが技術者の視点に立って、IoTおよびARによるステップ・バイ・ステップの指示に従い、掘削機の修理を体験することができます。
BCGとPTCのIoT+ARアプリを App StoreまたはGoogle Playか らダウンロードします。次に、デバ イスのカメラをこのページの画像 に向け、AR service experience を起動してください。
IoTとARを活用して、倉庫のコストを縮小:
我々が作成した2つ目のケーススタディでは、オーダーピッキングに焦点を当てています。巨大倉庫では、発送または配達のために製品を選別する作業は、広大なスペースの中を作業員が移動しなければならないため、処理に時間がかかります。たいていの場合、製品の場所は出入口にのみ掲示されているため、倉庫内にいる作業員が製品の場所を正確に知ることは困難です。そのため作業員は、製品を探すのに多くの時間を費やし、最適ではないルートを 通って目的の製品にたどり着きます。さらには、クリップボードやチェックリストを持ちながら、かさ高い製品を持ち上げるため、事故や製品の破損につながることが多く、明確な指示なしで作業を行うこともこのリスクを増大させます。
IoT-ARソリューションを活用すると、オーダーピッキング作業を迅速化し、生産性を高めることができます。いくつかの企業(DHL、Intel、Boeingなど)では、自社の倉庫全体にIoTセンサーを配備し、ヘッドマウントARデバイスを装着した作業員の視界に指示を重ねて表示することで、作業員を製品の場所まで誘導しています。これらのソリューションは、作業員が最短ルートで製品の正確な場所にたどり着けるよう支援します。作業員が製品を見つけると、装着しているヘッドセットのカメラが製品をスキャンし、チェックリストからその製品を削除
企業はIoT-ARウェアハウスソリューションを導入することにより、以下のような様々な利点を得ることができます。
- 労働生産性の向上: IoT-ARアプリケーションを使うと、倉庫内の最適なルートを示して時間を短縮し、オーダーピッキング作業に必要な作業員の数を削減できます。
- 廃棄率の低減: AR主導型の指示に従うことで、製品破損のリスクを軽減することができるため、保険のコストと資材の廃棄率を下げることができます。
- 処理速度の向上:IoT-ARソリューションを活用して作業スピードを高めることで、従来のボトルネックが緩和できます。
- リスクの低減:AR主導型のナビゲーションにより、安全性が高まり、事故を減らすことができるため、倉庫の作業環境が改善します。
- ブランド評価の向上:IoTによる位置追跡を活用することで、企業は常時、製品(特に高価な製品)の位置を追跡することができます。配慮の行き届いたサービスを高い処理速度で迅速に提供することにより、新たなビジネスチャンスが生まれ、企業の評判を高めることができます。
このケーススタディでは、大量の製品の輸送を管理する物流企業に焦点を当てています。この企業はタイトなスケジュールで業務を行っており、世界中に複数の倉庫を所有しています。ほとんどの製品のピッキング作業は、約90,000人の従業員で構成される同社の労働者が手作業で行っています。
我々の見積りによると、このような企業は収益200億ドル規模の場合で、年間約30億ドルの人件費をオーダーピッキング作業に費やしています。IoT-ARの初回導入時に、労働者の3分の1を対象にIoT-ARを配備したところ、同社は収益10億ドルにつき年間350~700万ドルの純便益を上げることができました。この純便益は、ソリューションの配備を残りの労働者にも拡大するにつれて、時間の経過とともに上昇の一途を辿りました(図表3参照)。
もちろん、IoT-ARソリューションは、倉庫のオーダーピッキングや梱包仕分けの問題に対処する唯一の方法ではありません。ロボットを使用する方法も考えられます。一般的により高コストではありますが、大きな倉庫を所有しており、同種の小型製品を取り扱う利幅の大きい産業には、ロボットは適していると言えます。企業は様々なソリューションを試してみて、自社に最適なテクノロジーを特定する必要があります。
BCGとPTCのIoT+ARアプリがこれを具現化します。このアプリでは、IoTとARを活用した製品ピッキング作業を体験することができます。このアプリはiOSおよびAndroid端末でダウンロード可能です。このアプリでは、ユーザーが倉庫作業員の視点に立って、IoTおよびARを活用することで、いかにすばやく安全に製品を見つけることができるかを体験することができます。
倉庫業務における5つの問題点 - IOTとARを利用していない従来のシナリオ
- 製品の場所とステータスはスキャン 場所でしか確認できない。
- 作業員は自身の判断により、紙の ピッキングリストを頼りに倉庫内 を移動するため、注文フルフィルメ ント処理が遅い。
- 製品は手作業で仕分け・ スキャンされている。
- 作業員は不明瞭な指示に従って 作業を行っているため、事故の リスクが高い。
- 従業員は自身の判断によりトラック に積載するため、スペースが効率よく 利用されていない。
ヘルスケア業界におけるIoTとARの活用
IoT-ARソリューションは単に収益増大とコスト削減に役立つだ けでなく、社会的利益ももたらすことができます。例えば、これ ら2つのテクノロジーの併用は、ヘルスケアアプリケーションに 大きな変革を起こす可能性があります。具体的に言うと、低侵 襲手術は手術全体の約35%を占めていますが、このような手術 の最中、医師は患者の体に小さな切開を入れ、超小型カメラと 小型の器具を挿入します。これにより、患者の体に大きな傷や 切開を入れることなく、体内を目的の場所まで移動することが できるのです。
鍵穴手術とも呼ばれるこの手技は、過去20年以上かけて磨か れてきましたが、外科医はいまだにいくつかの課題を抱えてい ます。挿入したカメラから送られる2次元のビデオストリームか らだけでは、必要なすべての情報が得られないのです。さらに 外科医は、ビデオ画面、生体信号モニター、立ち会っている外 科チーム、そしてもちろん患者など、いくつかの情報源からフォ ーカスを何度も切り替える必要があります。
一方、IoT-ARソリューションでは、ARヘッドセットを装着した外 科医は、患者の体の上に映し出された診断画像の3Dモデルを 見ることができます。このモデルは、患者の体の上または体内 に配置した高精度のポジショントラッカーにより、患者の生体 組織にぴったりと重ね合わされます。外科医は、簡単なハンド ジェスチャーでこの3Dモデルを回転させたり、拡大/縮小した り、操作したりすることができます。患者のバイタルサインや生 体信号は、最適なアングルや切る深さなどの指示とともに外科 医の視界に重ね合わせて表示されるため、様々な要素を確認す るために画面を切り替える必要がなくなります。外科医は手術 全体を通して、ハンドジェスチャーや音声コントロール、目の動 きで操作を行えるため、ボタンを押す必要がなく、患者から一 瞬も目を離すことなく処置を行うことができます。
外科医にとっても患者にとっても、非常に大きな利点がありま す。外科医はほとんどミスなしで手術を行い、初回成功率を高 めることができます。そのため患者は、回復にかかる時間が短 縮され、合併症のリスクも低下します。世界中でいくつかの臨 床試験が行われており、当局の承認が下りると、IoT-AR手術ソ リューションは社会に非常に大きな利点をもたらす可能性があ ります。
IOT-ARソリューションは、 オーダーピッキング作業の 効率と安全性を向上
- 製品データへの アクセス。 センサーの付いた製品の場 所とステータスは、IoT-ARソ リューションを利用している 作業員やバリューチェーン全 体に公開される。
- <strong倉庫内の最適化された>I oT- A Rソリューションが作 業員に、ピッキングリストに 記載されている製品の場所 まで効率よく倉庫内を移動 する方法を示す。 </strong倉庫内の最適化された>
- ハンズフリーの 在庫スキャン。 作業員が装着しているA R ヘッドセットが製品をスキャ ンし、正しい品目がピッキン グされていることを確認して 在庫を更新する。
- 安全性と正確性の 向上。I oT- A Rソリューションが関 連のあるデータを製品に重 ね合わせて表示することで、 安全性とスピードが向上。
- スペースの 有効活用。 I oT- A Rソリューションが作 業員のARヘッドセットを介し て、最適化された積載指示を 配信する。
IoTとARを正しく理解する
IoT-ARソリューションは現在、変曲点にありますが、いくつかの 業界でまもなく最低限の要件になることが予想されます。企業 は正しい出発点を選ぶ必要があります。つまり、最も大きいコス トセンターと収益機会から始めて、IoT-ARアプリケーションが 最高の価値をもたらす場所を特定します。金銭的利益を得るだ けでなく、新しいアプローチがうまく機能するのに必要な文化 的変化が根付くまでの時間を確保するためにも、このようなア プリケーションを社内全体にできるだけ迅速に展開することが 非常に重要です。企業は課題に直面するでしょう。それでも、こ れらの複雑なテクノロジーをうまく活用することは可能なので す。(次のページの「IoT-ARソリューションの導入に伴うリスク の管理」をご覧ください)
範囲と価値:企業は最大の価値を創出する機会の順にプロジェ クトをランク付けし、価値をもたらすIoT-ARアプリケーション を1つまたは2つ選んで開発し導入する必要があります。また、 投資対効果検討書を作成し、これら2つのテクノロジーを併用 することによるバリュー・プロポジション(価値提案)を明確に 示さなければなりません。
IoTテクノロジーの使用はますます広がっていますが、ARが単 なる付け足しやギミックとならないよう、ARに付加価値のある 役割を持たせることが重要です。我々の調査によると、企業が 初期段階からIoT-ARアプリケーションを開発したほうが、ARを 後から追加するよりも、従業員がARを核となる技術とみなす 確率が5倍にのぼることが示唆されています。
組織構造とパートナーシップ:成功のためには、従来の部門の 枠を超えた機能横断的なコラボレーションが非常に重要です。 企業は核となる部門だけでなく、ITやR&D(研究開発)も含 め、関連するすべてのグループのステークホルダーにIoT-ARの 試験導入を支援してもらう必要があります。先に述べたように、 調査対象企業のうち、85%がすでにIoTとARアプリケーション をセットで開発および導入し管理しています。
IoT-ARソリューションの開発は事業レベルの取り組みでなけれ ばならないため、経営幹部の後押しを得ることが重要です。そ の後押しを最初から得ることにより、これらのプロジェクトを すばやく軌道に乗せることができます。企業はIoT-ARエコシス テムのテクノロジーベンダー、パートナー、システムインテグレ ーターを慎重に選ばなければなりません。これらの組織は、オ ペレーションプロセスの再設計や技術的ソリューションの実装 に対応する能力を備えている必要があります。
開発と立ち上げ: 企業はIoT-ARデバイスが実際に使用される 物理環境において快適で直感的に使用できるよう、ユーザーエ クスペリエンスを最適化する必要があります。これを正しく行う ことで迅速な採用が可能となり、従業員が日常的にこのテクノ ロジーを利用するようになります。ユーザーエクスペリエンスを 最適化する最善の方法は、実用最小限の製品を開発し、パイロ ッ トプログラムを実行し、エンドユーザーテストを行い、ソリュー ションをすばやくイテレーションして短期間で開発を進めるよ うIoT-ARチームを促すことです。
IoTとARテクノロジーを組み合わせることにより、人々が周囲 の世界とやり取りする方法を改善することができます。しか し、そのパワーを活用するためには、企業はテクノロジーを配 備する場所を選び、IoTとARをサポートするエコシステムを構築 し、両方のテクノロジーを扱える人員を育てる必要があります。 それを実践した企業は、コスト削減や収益増大、顧客体験改 善、ブランド強化を実現できるだけでなく、以前は想像もでき なかったような方法でコンテクストデータを活用できるように なります。
IoT-ARソリューションの導入に伴うリスクの管理
いくつかの課題が、IoT-ARプロジェクト始動後にプロジェクト の障害となる可能性があります。そのため、最初からそれらを 考慮に入れておくことが重要です。主なリスクは以下のカテゴ リーに分類されます。
- コスト:IoTとARのシステムはいずれも、この段階で行う選 択の内容により、開発や導入が比較的高額となることがあり ます。自社の投資対効果の目標を達成できるよう、企業は慎 重に選択肢を評価する必要があります。スマートフォンやタ ブレットをARデバイスとして使用すると、コスト効率が良い でしょう。我々の調査が示すところによると、標準的なスマー トフォンが最も多くエンドポイントデバイスとして使用されて います。
- 人材:IoT-ARソリューションの開発は、通常、ほとんどのIT 部門の専門外です。そのうえ、物理的な機械とデジタルテクノ ロジーの両方を理解している人材が必要です。適切な専門知 識を備えた人材の数は世界的に少なく、求められるスキルセッ トを社内で育成している場合でさえも、ほとんどの企業が 外部のテクノロジープロバイダーと提携する必要があるで しょう。
- データ:IoT-ARソリューションの質は、その企業が使用する データの質に左右されます。データにアクセスして、それを意 味のある方法で組み合わせることは困難を伴うことがありま す。企業はすべてのプロセス、製品、アプリケーション間で相 関しているデータを紐づけするために、デジタルスレッド(デ ータの流れを可能にする通信フレームワーク)を構築すると 良いでしょう。
- デバイス:優れたユーザーエクスペリエンスを提供するため、 それぞれのARソリューションはデバイスの種類を考慮に入れ て設計する必要があります。ARヘッドマウントデバイスはか さばるものが多く、視界が限られていて、着け心地の面で長 時間の使用には適していません。テクノロジーはすばやく改 良されていますが、企業は今日の制約の中でうまく対処し、 様々なデバイスに適合するAR戦略を構築する必要があり ます。
- コネクティビティとセキュリティ:IoTのライブデータを使っ たスムーズなAR体験を創造するためには、接続速度を高め てレイテンシーを低く抑えることが必要です。これはへき地 や地下などの場所では困難なことがあるため、企業はアプリ ケーションを開発する際にこれらの条件を考慮に入れる必要 があります。これらの問題はやがて5Gネットワークにより解 消するかもしれません。それでも、IoTデバイスに加えてARデ バイスを管理する場合には、IoT-ARシステムに接続される資 産の数が増えるため、セキュリティが脆弱になる可能性も高 まります。企業はIoT-ARソリューションの設計開発にセキュ リティのエキスパートを加え、サイバーリスクを最小限に抑え る必要があります。
- スピード:IoTとARは新興テクノロジーであるため、ソリュー ションの展開には予想よりも時間がかかる可能性がありま す。機械や医療器具の取り扱いを指示するアプリケーション など、一部のアプリケーションでは、認定や規制当局による 承認、さらには規格の策定まで必要となる場合があります。 これらのステップにより、IoTとARテクノロジーの導入にかか る時間が長くなる可能性があります。
- 柔軟性:企業は特定のテクノロジープロバイダーに縛られな いよう、様々なパートナーを利用して導入できるIoT-ARソリュ ーションを開発する必要があります。IoTソリューションが、 外部のどのクラウド・サービス・プロバイダーや社内のクラウ ドサーバーでもホストできるようにしなければなりません。