製品技術事業部 CAD技術本部
シニア テクニカルスペシャリスト
元メカ設計者、1990 年から CAD 製品のエンジニアとして活動。以来、カスタマーサポート、教育、ローカライゼーション、などに従事する。現在は CAD 全般と CAE のプリセールスエンジニアとして活動している。
※本ブログは、Creo Chapter Webinar シリーズの内容をもとに編集・再構成しています。
「設計がますます複雑になり、従来の手法では限界を感じる…」
「アセンブリの管理が煩雑で、設計変更への対応に時間がかかりすぎる…」
「解析や製造(CAM)のためのモデル準備に、多大な工数を割かれている…」
設計業務におけるこのような課題には、Creo の「マルチボディ設計」が解決策となるかもしれません。
マルチボディ設計は、単一の部品ファイル内で複数のソリッド(塊)を個別に管理できる画期的なアプローチです。これにより、設計の自由度は飛躍的に向上し、従来の手法では困難だった複雑な設計やワークフローをシンプルに実現します。
この記事では、Creo のマルチボディ機能の基本から、生産性を劇的に向上させる応用テクニック、そして他 CAD との連携やよくある質問まで、網羅的に解説します。Creo ユーザーの方はもちろん、他 CAD からの移行を検討中の方も、ぜひご一読ください。
Creoについての詳細はこちら
機能の詳細に入る前に、マルチボディ設計があなたの業務を具体的に「どのように変えるのか」を明確にイメージしていただくため、その核心的なメリットを深掘りしてご紹介します。
従来のシングルボディ設計では、フィーチャーを追加するたびに形状が一体化(マージ)されるのが当たり前でした。しかし、これが複雑な形状を作成する際の足かせになることも少なくありません。
マルチボディ設計では、各形状を独立した「ボディ」として存在させることができます。これは、まるでレゴブロックのように、個々のブロック(ボディ)を自由に組み合わせたり、位置を変えたり、後から取り除いたりできるようなものです。
製品の構想段階で主要なコンポーネントの配置や構成を一つのファイルで検討し、そこから各部品を生成する「マスターモデル法」は、トップダウン設計の強力な手法です。
マルチボディによって、このマスターモデル法は劇的に効率化され、シンプルかつ信頼性の高いものになります。
小規模な装置ユニットの設計など、複数のコンポーネントが連携する製品開発において、マルチボディを活用した「マスターモデル法」は、トップダウン設計を劇的に効率化します。
グリップ部分に柔らかいエラストマーを使用した電動工具や、透明な窓を持つ筐体など、複数の材質で構成される製品は珍しくありません。
マルチボディを使えば、このようなマルチマテリアル製品を単一の部品ファイル内でスマートに設計できます。
電動工具のグリップや化粧品の容器など、硬い部分と柔らかい部分を組み合わせる「オーバーモールディング製品」の設計は、マルチボディの得意分野です。
例えば、硬質樹脂の本体部分を「ボディ1」、手で握る軟質樹脂のグリップ部分を「ボディ2」として、一つの部品ファイル内でモデリングします。Creo ではこのように、部品は一つでもボリュームが分かれている状態で設計を進めることができます。
各ボディには、右クリックメニューから異なる材質(例:ABS 樹脂、TPE)や質量特性を個別に割り当てることが可能です。これにより、単一部品でありながら正確な質量特性を算出できます。さらに、図面を作成する際には「リピート領域」機能を活用することで、ボディごとの材質、体積、質量といった情報をリスト形式で自動的に表示させることができ、正確なドキュメント作成に貢献します。
取引先から受け取った STEP や IGES といったフィーチャー履歴のないデータの編集は、多くの設計者にとって頭の痛い作業です。
マルチボディと、Creo の強力なダイレクト編集機能「フレキシブルモデリング」を組み合わせることで、この課題を劇的に改善できます。
ジェネレーティブデザイン(自動設計)や構造解析 (CAE)、流体解析 (CFD) といったシミュレーション駆動の設計ワークフローでは、荷重をかける領域、固定する領域、流体が流れる空間といった「領域」を正確に定義することが不可欠です。
マルチボディは、これらの「領域」をボディとして明確に定義するための最適なツールです。
以下より、Creo のジェネレーティブデザインについて詳細をまとめた資料をご覧いただけます。詳しく知りたい方はぜひこちらもご確認ください。
ジェネレーティブデザインの概要や解決できる課題、導入事例について解説します。
詳細はこちらここでは、マルチボディ設計の根幹をなす基本的な操作と考え方を解説します。
ボディを作成するのは非常に簡単です。押し出しやスイープ、回転といった、普段お使いのフィーチャー作成コマンドのダッシュボード(メニュー)に注目してください。押し出しメニューに「マルチボディ」オプションが追加され、新規ボディを作成するためのチェックボックスが選択可能になります。ここにチェックを入れるだけで、作成される形状が既存のボディとは統合されず、独立した新しいボディとしてモデルツリーに追加されます。
CADにおける「ブール演算」またはブーリアン演算とは、複数の図形やオブジェクト(ボディ)同士を組み合わせ、より複雑な形状や構造を新たに生み出すことです。これは、集合演算(和集合、差集合、積集合)を 3D モデルで実現する機能だと考えてください。
これらの機能を駆使することで、設計の途中段階で「やはりここは別の部品にしよう」といった仕様変更にも、モデルをゼロから作り直すことなく柔軟に対応できます。
一つのボディを、データム平面やサーフェイスを基準に複数のボディに分割する機能です。
「ボディの数が増えてくると、モデルツリーが複雑になり、管理が難しくなるのでは?」と懸念されるかもしれません。Creo には、その懸念を払拭する洗練された管理機能が搭載されています。これらを使いこなすことが、マルチボディ設計をマスターする鍵となります。
モデルツリーに「設計ツリー」を表示させることで、ボディやキルト(サーフェス)といった設計アイテムを一覧で管理できます。
各ボディには、その状態を示すアイコンが表示されます。
「このボディは、どのフィーチャーによって作られたのか?」これを明確にするのが「寄与フィーチャー」の概念です。モデルツリーで特定のボディを選択すると、そのボディの形状構築に関わったフィーチャー群がハイライトされます。これにより、複雑なモデルでも形状の成り立ちを正確に把握し、修正箇所を迅速に特定できます。
ブール演算で「消費」されたボディは、画面上からは見えなくなります。しかし、「一体どんな形状で、どこにあったのか?」を確認したい場面は頻繁にあります。
ここで活躍するのが「スナップショットを表示」機能です。モデルツリーで消費ボディを選択して右クリックし、この機能を選ぶと、モデルの履歴をロールバックすることなく、そのボディが存在していた最後の状態がハイライト表示されます。
さらに、「スナップショットをコピー」機能を使えば、消費されたボディを新しいボディとして復活させ、別のブール演算に再利用することも可能です。
これも非常に強力な機能です。例えば、ブール演算で削除に使って消えてしまったボディに対し、「角にラウンドを付け忘れた!」というケースを考えます。
通常であれば、履歴を遡り、ブール演算の前にラウンドフィーチャーを追加する必要があります。しかし「ボディに挿入」機能を使えば、モデルツリー上で消費ボディを選択し、挿入モードに入るだけで、まるでそのボディがまだ存在しているかのように、直接新しいフィーチャー(この場合はラウンド)を追加できます。これにより、設計履歴の整合性を保ちながら、効率的な修正作業が実現します。
ここでは、より具体的な設計シーンを想定し、マルチボディがどのように活用できるかをご紹介します。
マルチボディは板金部品にも完全に対応しています。これにより、単一部品ファイル内でボディごとに異なる板厚を持つことが可能となりました。
最初に作成する板金形状の厚みは、部品全体のデフォルト板厚として設定されます。2つ目以降のボディに関しては、部品からのリンクがオンになっていれば、このデフォルト板厚が自動的に反映されます。リンクを解除すれば、そのボディ独自の板厚を自由に入力できます。この板厚は、後からでもリンクを解除したり、再設定したりすることが可能です。
大規模アセンブリのパフォーマンス向上や、外部提供用の機密情報を隠した軽量モデルを作成する際に使用される「シュリンクラップ」機能。これもマルチボディに対応したことで、活用の幅が大きく広がりました。
もともと、各部品が一つのボディを持つか、複数のボディを持つかに関わらず、ボディをシュリンクラップで統合することができます。最初の状態では、ボディが個別に存在しますが、シュリンクラップを選択すると、それぞれのボディがまとめて一つのボディとして作成されます。
また、部品単位でボディを管理することも可能です。部品ごとに個別のボディを作成し、それを必要に応じて追加したり統合したりできます。さらに、全てのボディをマージして一つのボディにすることも可能です。このように、シュリンクラップ機能を活用することで、複数のボディを効率的に管理できるようになっています。
アセンブリから外部シュリンクラップを作成する際、ボディの作成方法として以下のオプションを選択できます。
これにより、目的に応じて最適な粒度でアセンブリの情報を部品ファイルに変換できるようになりました。
ここでは、セミナーなどで頻繁に寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q: 別の部品を、既存の部品に「ボディ」として取り込めますか?
A: はい、可能です。具体的には、「外部コピージオメトリー」機能や「マージ/継承」機能を使用すれば、別部品のジオメトリーをアクティブな部品内にボディとして取り込めます。元の部品に加えられた変更を、取り込んだボディに自動で更新させることも可能です。また、アセンブリ環境であれば、前述の「シュリンクラップ」機能で、選択した部品をアクティブな部品にボディとして取り込む方法も有効です。
Q: 作図ボディを含むパートから IGES を作成するとどうなりますか?
A: デフォルト設定では、作図ボディは IGES としてエクスポートされません。これは、作図ボディがあくまで設計補助のためのものであり、最終製品の形状ではないからです。もし作図ボディも含めてエクスポートしたい場合は、エクスポートプロファイル設定で「作図ジオメトリーを含める」といった趣旨のオプションにチェックを入れる必要があります。
Q: Creo7を利用していますが、消費ボディ等の分類はありませんでした。
A: 「消費ボディ」という概念自体は、マルチボディが導入された Creo 7 から存在します。ただし、モデルツリー上のアイコン表示や管理機能の細部は、バージョンアップごとに改良されています。本記事で紹介した「スナップショット」や「ボディに挿入」といった高度な機能の多くは、Creo 8 以降のより新しいバージョンで強化されたものです。最新の Creo 11 では、これらの機能がさらに洗練されています。
Q: 干渉チェックで、干渉ボリュームを個々のボディとして取り出せますか?
A: はい、可能です。アセンブリの干渉チェック機能には、干渉しているボリュームを部品として保存するオプションがあります。 さらに、ブール演算の「交差」機能を使用すれば、2つのボディが重なり合う部分だけを新しいボディとして抽出できます。これにより、干渉の具体的な形状を詳細に分析し、対策を講じることが容易になります。
Q: SolidWorks で作成されたマルチボディデータは、Creo で正しく読み込めますか?
A: はい、読み込めます。Creo のインポート設定を有効にすると、SolidWorks で作成されたマルチボディのデータを、Creo でもマルチボディとして読み込むことができます。エクスポートに関しては、マルチボディの状態でデータを出力する際、Creoから出力する時点で自動的にマルチボディとして出力されます。
Q: ボディごとのパラメータは、Windchill(WTパート)とどのように連携しますか?
A: Windchill 12 以降、この連携は大幅に強化されています。Creo でボディごとに設定した材質、質量、その他のパラメータを、それぞれの WT パートの属性情報として自動的に連携させることが可能です。これにより、設計から製造、調達に至るまで、より詳細なBOM管理が実現します。
Creo のマルチボディ設計は、もはや一部の高度なユーザーだけのものではありません。それは、日々の設計業務の品質と効率を飛躍的に向上させる、すべての設計者にとっての「次世代の標準」です。
このパワフルな機能を使いこなすことが、競合他社に対する技術的な優位性を確立し、ひいてはビジネスの成功に直結します。
この記事を読んで、マルチボディの可能性を感じていただけたなら、ぜひ次のステップへ進んでみてください。「百聞は一見に如かず」です。ご自身の目で、手で、Creo のマルチボディ設計がもたらす変革を体験することが、理解への一番の近道です。
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【導入事例】
本ブログで解説した機能は、こちらの動画にてさらに詳しく説明しております。実際に Creo の操作画面もお見せしながらお話ししていますので、ご興味のある方はこちらもご覧ください。