現在日本で AR を扱っているであろう技術者ならば、たぶんみんな一度は見てる ― そんなふうに思えるくらい有名な作品です。2007 年に NHK 教育テレビで放映されたアニメ。電脳コイルの背景技術は AR です。第一話のサブタイトルが「メガネの子供たち」とあるように、この世界では子供たちが「電脳メガネ」と呼ばる AR デバイスを身につけています。その見た目はまさに私たちが日常見慣れているメガネで、ソードアート・オンラインのナーヴギアのような物々しさはありません。
子供たちは朝起きてから寝るまで電脳メガネを装着しています。電脳メガネはメールのやりとりや音声通話はもちろんのこと、さまざまに役立つ情報を現実の視覚情報に「重ねて」表示してくれます。子供たちの生活は電脳メガネなしでは考えられないくらいに AR 技術が日常に浸透していますが、やがて電脳メガネを通したときだけ現れる幽霊が…
見ているものが現実か仮想か、この違いが AR と VR に「臨場か遠隔か」という別の区別をもたらします。AR はその特性上、「その場に」いなければなりません。一方 VR にはそういった制限はなく、その場にいてもいいですし、離れた場所にいても構いません。
たとえば、マトリックスやソードアート・オンラインでは、人々が暮らしているのはコンピューターで演算された仮想世界であり、物理的な身体はその世界に存在しません。一方、電脳コイルの子供たちが暮らしている世界は物理的な世界であり、子供たちが見ているものは現実に「その場に」あるものです。「現場にいるのか」「遠く離れているのか」この違いが AR と VR を区別する一つの指標となります。
しかし、もしも、「遠く離れた場所に感覚器官だけを送り、その場で知覚しえた情報を遠くに伝送して消費する」ことが可能ならば、それは AR でしょうか VR でしょうか?