要件によって、製品の機能的および物理的なニーズが定義されます。要件は、製品開発にとって道路地図のようなものです。製品開発チームはこれを手掛かりとして、製品に何が期待されているかを理解します。きわめて多くの作業を必要とするものの、要件のリストを作成するのは、実際には全体のプロセスの中では比較的容易な部分です。それよりも、それらの要件を管理することの方が複雑であり、往々にして失敗の原因となります。実際、クリストファー・リンドキスト (Christopher Lindquist) 氏は『CIO Magazine』の記事「Fixing the Requirements Mess」(要件定義の混乱を収束させる) で、「失敗した (組み込み) ソフトウェア プロジェクトのうち、実に 71 % は不適切な要件管理が原因であり、それがプロジェクト失敗の唯一にして最大の理由となっている」と述べています。プロジェクトの失敗は、投資の無駄、過剰コスト、逸失収益につながります。では、どうすればこれを回避できるでしょうか。
次に示す 6 つの課題は、企業が要件管理に苦戦している理由の上位に挙げられているものの一部です。これらの課題に対処することによって、成功のためのしっかりとした基礎が確立し、プロジェクト失敗のリスクを回避するのに役立ちます。このことは、新しい顧客の獲得、より革新的な製品の開発、効率の向上、利益率の増加につながります。
要件が明確に定義されていない
要件管理の最初のステップは、要件を正確にとらえて定義することです。何が求められているかが明確でなければ、要件が満たされないのはほぼ確実であり、製品が失敗に終わる確率も上がります。明確に定義された要件は、顧客ニーズに結び付いています。これによって開発チームの理解が容易になると同時に、市場での成功達成に主眼を置きながら作業を進めていくことが可能になります。要件は明確かつ測定可能であることも必要です。そうすれば、要件が満たされたかどうかの評価が容易になります。
要件に対する変更管理が適切ではない
仮に要件が不変であれば、要件管理ははるかに単純になりますが、変更は避けられません。市場の変化、新しいテクノロジ、競合他社の反応、新しいアプローチ、設計の不具合、テスト不合格のいずれも、変更につながる可能性があります。変更の影響をすべて特定して関係者全員に通知することができなければ、変更管理は不適切ということになります。変更が適切に実施されなければ、労力が無駄になり、情報は古すぎて意味を持たなくなり、設計の矛盾が生じることになります。この結果として、コストが上昇し、遅れが発生します。
要件の "唯一の正しい情報源" が存在しない
今日の製品は一般的に、複数のエンジニアリング分野が関与しており、それぞれが開発するコンポーネントが互いに依存して製品を構成しています。各分野で独自の設計開発ツールが使用される傾向があります。要件は複数の分野を横断しますが、"唯一の正しい情報源" が存在しない状態では、その製品の全体像をとらえることはほぼ不可能です。相互依存しながらも "唯一の正しい情報源" が存在しない場合、変更やテスト不合格の影響全体を特定することは不可能といってよいでしょう。
要件とテストの間につながりがない
要件定義における重要事項の 1 つが、評価方法です。要件とテストの間につながりがない状態で、要件が満たされたかどうかを、どうすれば知ることができるでしょうか。何の評価が行われたかを、どうすればわかるでしょうか。要件とテストの間につながりがない状態では、製品の状態を評価するのは非常に難しくなります。そして、テスト不合格となったときに要件までさかのぼることは、かなりの難題となります。
開発サイクル全体を通して要件を追跡することができない
要件の定義が完了した後で、その要件をライフサイクル全体を通して追跡することができなければ、あるコンポーネント、サブシステム、または製品の変更や問題がどのように要件に影響するかや、ある要件変更がどのように進行中の作業に影響するかを理解するのはきわめて難しくなります。加えて、新しい製品にも類似の要件がある場合に、何を再利用できるかを特定するのにかかる時間は大幅に増えることになります。プラットフォーム設計と設計バリエーションについても、要件とライフサイクル資産との間で追跡が不可能な状態ならば、管理ははるかに複雑になります。
機能的安全性や標準に対するトレーサビリティが欠如している
規制への準拠や標準への適合が求められる企業は、大量の文書を必要とします。要件のトレーサビリティが欠如している企業は、コンプライアンス証明のための記録を用意するのに、かなりの時間を投入しなければなりません。トレーサビリティが確立している企業は、コンプライアンスを裏付ける報告書や監査可能記録を簡単に用意できます。規制要件を詳細まで自動的に追跡していくことが可能であり、満たされていることを証明できます。
これらの課題に対して、要件管理のベスト プラクティスを活用して対処することによって、プロジェクトの成功に向けた体勢が整います。そしてこの成功を、より高い収益性へと結び付けることができます。