製品技術事業部 CAD技術本部
シニア テクニカルスペシャリスト
元メカ設計者、1990 年から CAD 製品のエンジニアとして活動。以来、カスタマーサポート、教育、ローカライゼーション、などに従事する。現在は CAD 全般と CAE のプリセールスエンジニアとして活動している。
まず、このリアルタイムシミュレーションは、Creoのエクステンションとして提供されている機能です。この機能は「Creo Simulation Live」という拡張機能を使用することで実現でき、リアルタイムでシミュレーションを行うことが可能です。まずは、この機能の概要についてご説明いたします。
まず、ここにいきなりPTCのロゴとAnsysのロゴが表示されていますが、皆さんご存知のように、Creoを提供しているPTCは30年以上にわたって3次元CADをリードしてきました。では、なぜここにAnsysのロゴが出てくるのかについては、少し後で説明いたしますが、Ansysは40年以上にわたってCAEをリードしている会社です。
このように、PTCとAnsysは協力し、CADとCAEの間の障壁を取り除くことで、製品設計の革新を目指して開発されたのが「Creo Simulation Live」です。
従来の設計プロセスが抱えている課題についてお話しします。従来のプロセスでは、構想設計や詳細設計を行った後にシミュレーションを実施し、その結果を受けて試作し、製造に進むという流れが一般的で、プロセスごとに分かれた設計とシミュレーションの流れがありました。
設計を行い、シミュレーション結果を確認して再設計を行い、再度シミュレーションを実施するというループを何度も繰り返すことで、より精度の高い設計が可能になるというのが、以前から考えられていた設計者と解析の考え方です。
しかし、実際には、設計とシミュレーションを行うツールが別々になっている場合や、CADの中でシミュレーションが可能な場合でも、CADデータそのものをシミュレーションすることが難しいことがありました。その理由として、シミュレーションの規模が大きすぎて時間がかかることや、アセンブリの中にシミュレーションには不要なパーツが含まれているため、シミュレーションに必要なものだけを絞り込む作業が必要だったりするためです。これらの課題があったため、従来は設計からすぐにシミュレーションを行うことができなかったというのが、主な問題点です。
今回のリアルタイムシミュレーションを使用すると、構想設計や詳細設計を行いながら、常にシミュレーションが実行されている状態を作ることができます。従来のように、シミュレーションと設計が分かれているわけではなく、設計とシミュレーションが同時に進行するため、よりシミュレーションに基づいた精度の高い設計が可能になります。
ここに「Simulation Live」と書かれていますが、リアルタイムシミュレーションという言葉を使っているように、結果をリアルタイムで見ることができるほど迅速な解析が行えることが特徴です。瞬時に対話型の設計が行えるという利点があります。
ただし、このリアルタイムシミュレーションを単独で使うよりも、状況に応じて従来の「Creo Simulation」や「Creo Ansys Simulation」のような高精度な解析ツールを併用することをお勧めします。これらのツールは高忠実度・高精度な解析を提供しており、最終的な確認作業を行う際には非常に有効です。このページでは、リアルタイムシミュレーションを行う際には「Creo Simulation Live」を使い、最終的な高精度な確認が必要な場合には従来の解析ツールを併用するのが良いと提案しています。
「Creo Simulation Live」でできることについてですが、シミュレーションといえば、まず思い浮かぶのは構造解析です。構造解析はもちろん行うことができます。また、熱伝導解析、いわゆる熱の問題に関する解析も可能です。さらに、固有値解析も行うことができます。最後に流体解析にも対応しており、流体に関するシミュレーションも可能です。
ただし、通常版のライセンスでは、構造解析から固有値解析までが対応範囲です。この範囲を超えて流体解析を含めるには、「Creo Simulation Live Advanced」というライセンスが必要です。このライセンスは通常版よりも金額が高くなりますが、構造解析から流体解析まで対応できるため、より高度なシミュレーションを行うことが可能です。
このように、Creoには二段階のライセンス体系が存在し、用途に応じた選択が可能です。
次に、なぜリアルタイムシミュレーションと呼ばれるような高速な解析が可能なのかについてですが、これには最近よく耳にする「GPUコンピューティング」が関係しています。この「Creo Simulation Live」は、GPUコンピューティングを取り入れているため、非常に速い解析を実現しています。
従来の解析ツールは、CPUで計算を行うのが一般的です。CPUが複数のコアを持っている場合、そのコアの数だけ並列処理を行うことができます。しかし、GPUの場合、並列処理を行うコアの数が非常に多いという特徴があります。例えば、一般的に市販されているGPUでも、高性能なものでは2万以上のコアを持つことがあります。この膨大な数のGPUコアを活用することで、解析計算が非常に高速に処理され、リアルタイムシミュレーションが可能になるのです。
「Creo Simulation Live Advanced」について、先ほど流体解析には上位のライセンスが必要だという点に触れましたが、流体解析についても非常に高速でリアルタイムな解析を実現しています。流体解析に関しても、同様にGPUコンピューティングを活用し、迅速な解析が可能となっています。
流体解析には、解析する対象物によって「外部流れ」と「内部流れ」という分類があります。外部流れの場合、解析対象物の外側を流体が流れるようなシナリオです。一方、内部流れは、機器内部で流体が流れるシナリオで、例えばファンを使って機器内部に流体を流す場合などが挙げられます。このように、外部流れと内部流れの両方に対応できることが、「Creo Simulation Live」の特徴です。
ここまで、Creo Simulation LiveおよびCreo Simulation Live Advancedの基本的な機能についてご覧いただきましたが、Creoのバージョンアップに伴い、機能が向上し続けています。過去に追加された機能を振り返りながら、これまでの進化を見ていきたいと思います。
まず、Creo Simulation Liveでは、アセンブリを解析する際に「範囲」機能を使って解析対象範囲を指定できるようになっています。この機能により、アセンブリを一度組み直す必要がなく、例えば、ブラケットとボルトだけを解析対象範囲として選択することができるようになりました。この機能は、Creo 6.0.1.0のバージョンで追加されたものです。
さらに、Creo 7では、熱伝導解析に「非定常状態」というモードが追加されました。熱伝導解析の「定常状態」では、温度分布が完全に釣り合った状態で求まりますが、「非定常状態」にすると、初期温度から時間が経過することでどのくらいの温度まで冷却されるかなど、時間経過に伴う温度変化を解析できるようになります。これが「非定常熱伝導解析」です。
ここにグラフが表示されていますが、横軸が時間軸、縦軸が温度を示しており、例えば「何秒後に何度になった」といった時間経過に伴う温度変化を視覚的に確認することができます。これが非定常熱伝導解析の特徴です。
さらに、Creo 8.0では、流体解析に「定常」というモードが追加されました。先ほど動画で見ていただいた流体解析は非定常状態のものでしたが、定常流体解析では、完全に釣り合った状態での解析が行えます。これにより、定常状態での流体の挙動を解析することができるようになりました。
また、Creo 9.0では、サーフェス分割機能が追加されました。この機能は、Simulation Liveとは直接関係ありませんが、非常に便利な機能です。サーフェスを分割することで、分割したサーフェスに対して境界条件を設定できるようになりました。例えば、高速や荷重などの条件を設定することが可能です。
従来のCreo Simulation Liveでは、面全体に対して高速や荷重を設定していましたが、面の一部に対して条件を設定することはできませんでした。しかし、Creo 9.0でサーフェス分割機能が追加されたことにより、分割した面に対しても境界条件を設定できるようになりました。
次に、接触シミュレーションについてですが、Creo 9.0以前では、アセンブリ状態で解析する際に、いわゆる「ボンド結合」など、パーツ間を完全に結合した状態で解析を行っていました。この状態では、パーツ間の条件として完全に接触していると仮定し、解析していたため、応力が高い部分は外側にしか現れませんでした。しかし、Creo 9.0からは接触条件を設定できるようになり、パーツ間が完全に接触していない状態でも解析できるようになりました。これにより、内部に発生する応力、例えばボルトにかかる応力などを正確に確認することができるようになりました。この改善は、アセンブリ解析において非常に大きな進歩と言えるでしょう。
次に、Creo 9.0で追加されたマルチフィジック(連成解析)のサポートについてです。まず、熱伝導解析を行い、熱源による温度分布が求まります。この温度分布を利用して、次に熱膨張解析を行います。熱膨張解析は構造解析の一部ですが、熱伝導解析と構造解析を連成して解析することができるようになりました。これがマルチフィジック解析と言われるもので、Creo 9.0ではこれをサポートしています。
ただし、この機能は「Creo Simulation Live Advanced」のライセンスが必要です。Creo Simulation Live Advancedを使用することで、熱膨張解析などの連成解析が可能になります。
Creo 11.0では、共役熱伝達解析のサポートが追加されました。これは、熱流体解析を行う際に非常に重要な機能です。これ以前のSimulation Liveでは、流体解析のみがサポートされていましたが、共役熱伝達解析が可能になることで、個体から流体への熱伝達はもちろん、流体から個体への熱伝達も正確に計算できるようになりました。
これにより、よりリアルな熱流体解析が可能となり、設計精度が向上します。
Creo Simulation Liveと、他のCreo機能との連携について説明します。 まず、Creo Simulation Liveは、Creo Simulation Extensionと連携することができます。具体的には、Creo Simulation Extensionで定義した境界条件(荷重や高速など)を、Simulation Liveにインポートすることが可能です。この連携は一方通行であり、Simulation Extensionで定義した条件をSimulation Liveで利用することができます。
ただし、Simulation Live側で変更があった場合、その変更が自動的にSimulation Extensionに反映されるわけではありません。そのため、都度、Simulation Extensionから条件をインポートする必要があります。このように、Simulation Liveで利用するための条件を手動でインポートする形となります。
もう一つは、シミュレーション間での連携についてです。Simulation LiveとCreo Ansys Simulationの間では、スタディの定義を相互に利用することができます。例えば、構造解析やモーダル解析のスタディが定義されており、それぞれに拘束や荷重条件が設定されています。これらのスタディを、Simulation LiveとAnsys Simulation間で相互に利用できるということです。
具体的には、Ansys Simulation側で定義したスタディをCreo Simulation Live側で利用でき、逆にSimulation Live側で定義したスタディもAnsys Simulationで利用できます。また、どちらかで変更があった場合、その変更が反対側にも反映されるため、双方向でのデータ更新が可能です。
Behavior Modeling Extension(BMX)との連携についてですが、Creo Simulation Liveでは、プローブの値をパラメーターとしてBMXに渡すことができるということを動画でご説明しました。BMXについての詳細な説明はここでは省略しますが、簡単に言うと、BMXは最適化やパラメーター最適化を行う機能です。この機能に渡したパラメーターは、BMX側で目的関数として使用することや、設計拘束(制限)として利用することが可能です。
次に、Additive Manufacturing Extension(AMX)との連携の例です。AMXは主に格子フィーチャーを作成する機能ですが、AMXで作成した格子形状をCreo Simulation Liveの流体解析に利用することができます。この格子形状は、体積に対して表面積が非常に大きくなる特性を持ち、熱交換器などで利用されています。このような格子形状を流体解析に使用することで、より効果的な解析が可能となりました。
Q: 最新のAnsys Discoveryとその性能は同じなのでしょうか?それとも、バージョンとして古い、または制約条件があるのでしょうか?
A: Ansysさんのソルバーは毎年アップグレードされていると思いますが、端的に言うと、Creo Simulation Liveは少し遅れて追従する形になります。Ansysさんが先行し、その後Creo Simulation Liveが追従する形です。
リリースの時期によって異なりますが、その時点では最新のバージョンが反映されていることが多いです。コア機能はもちろんですが、それ以外の機能についてもほぼ最新のものが追加されているイメージです。基本的には同じような機能が提供されており、決定的に劣っている点はないと思います。
Q: 流体シミュレーションでは内部実装のファンの情報も反映できるのでしょうか?
A: 現在、Simulation Liveにはファン機能は搭載されていませんが、将来的にはファンを導入する計画があります。具体的な時期はまだ明確ではありませんが、今後ファンをサポートする予定です。
本格的にファン解析を行いたい場合は、Creo Flow Analysisを使用することになります。Flow Analysisでは、流体解析に関してさまざまな設定ができ、ファンが必要な場合は特にこちらのツールが適していると言えます。
Q: Simulation Liveで大まかな解析を行い、その後Creo Simulateで詳細な解析を行う際に、Simulation Liveで設定した解析条件をCreo Simulateに引き継ぐことは可能でしょうか?
A: 先ほどもお伝えした通り、Creo SimulateからSimulation Liveへ設定を引き継ぐことは可能ですが、その逆、Creo Simulateに設定を引き継ぐことはできません。詳細解析を行う際に、Creo Simulateではなく、Creo Ansys Simulationを使用する場合は、この連携が実現できます。
Q: Ansysは電磁界シミュレーションも提供していますが、こちらとの連携は予定されていますか?
A: 電磁界に関しては、現在のところCreo Simulation Liveでの対応は予定されていないようです。私が聞いている範囲では、Flow Analysisの方で対応が進んでいるという話は聞いていますが、Simulation Liveでは現時点でのエンハンス予定はないということです。
Q: メッシュ要素のアスペクト比が大きくなるような板金製品のような薄肉形状の構造解析において、解析精度を検証したデータはありますか?また、精度よく解析するための設定方法はありますか?
A: 皆さんご存知のように、薄肉構造の解析は難しいものです。通常、他の解析でもソリッドで要素分割を行うと、解析規模が非常に大きくなりがちです。そのため、シェル要素を使うなどの工夫が必要になります。しかし、Simulation Liveにはシェル要素での置き換え機能がないため、薄肉構造に関しては精度を出すのが難しいという点があります。
薄肉構造の解析結果を検証したデータについては、残念ながら現時点で検証結果はありません。また、精度よく解析を行う方法として、現実的かどうかは分かりませんが、GPUのVRAM容量が大きいものを使用することで、より高精度な計算が可能です。シミュレーションライブはVRAMの容量をもとにGPUの性能を判断し、分割サイズを決定するため、VRAM容量が大きいGPUを使用することで、より精度の高い計算ができるようになります。
また、精度を優先する設定もありますが、スピードよりも精度を重視するためには、設定でその調整を行うことが可能です。
Q: 今日ご紹介されたシミュレーション機能はCreo Packages Design Engineer Professionalから使用可能な機能でしょうか?最初ぐらいのDesign Essentialsも変わらずシミュレーション機能がついていたように記憶していましたが、今日紹介された機能は別購入となりますでしょうか?
A: はい、別購入になります。
Q: 数年前にAnsys Discovery Liveがリリースされた際、ハイエンドクラスのGPUが必要だったと思いますが、現在も変わりませんか?通常のCAD端末のGPUで問題なく計算できるのでしょうか?
A: 一応、スペックとして、NVIDIAのCUDAというグラフィック処理を行うためのプラットフォームに対応している必要があります。これがまず一つの要件です。また、VRAMの大きさについては、4GB以上、推奨8GB以上が望ましいということが言われています。
ハイエンド端末の定義についてですが、一般的にエンジニア向けCADを動かすことが目的のモバイルワークステーションなどを見ると、最低でも4GBのVRAMはクリアしていることが多いです。さらに、少し性能の良いモデルになると、8GB、またはハイエンドクラスでは16GBのVRAMが搭載されていることもあります。これらの端末であれば、推奨要件を十分に満たしていると言えます。一般的なエンジニア用モバイルワークステーションでは、最低4GBのVRAMはほとんどクリアしていると考えてよいでしょう。