いまだからこそ振り返る、VR ・ AR の名映画・名アニメ

執筆者: 山田 篤伸
  • 7/16/2020
  • 読み込み時間 : 10 min
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1. はじめに

アイルランドの文豪ジョナサン・スフィフトは、有名なその著作の中で「必要は発明の母」と書きました。1726 年、日本の発明王・平賀源内が生まれる二年も前のことです。もしスウィフトが現代に生きてテクノロジーの進歩を目の当たりにしたならば、きっと「想像は発明の母」と表現したのではないでしょうか。1979 年に放映され少年たちの心を鷲掴みにした 18 メートルの鉄の巨人が、三十年後のお台場に実物大のモックアップとして佇立した時、それからさらに数年後、日本のクリエイターグループが全高 4 メートルの操縦できるロボットを開発した記事を目にしたとき、そう思ったものでした。みなさんもきっと、最新の技術を目にして「これは昔見たあの映画で描かれた未来技術だ」と感じたことがすくなからずあるのではないでしょうか。

さて、最新の技術というと、昨今では AR・VR をめぐる技術革新が著しいですね。2020 年においても、マイクロソフトの Hololens 2 が普及段階になり、アップルがモバイル端末に深度センサーを搭載するなど、AR や VR で実現できることの幅が拡がっています。そんな AR や VR が、かつては創作物でどのように描かれていたのか、有名な映画やアニメを紹介しながら簡単に振り返ってみたいと思います。かつての想像の未来に現代の技術は追いつき、凌駕しているのでしょうか。それともいまだ「夢の技術」なのでしょうか。AR や VR の取り組みをこれから始める人にも、「どういった技術を目指しているのか」「ひとびとがかつて夢見た想像の技術のどこまでを、今の時代で実現しているのか」を簡単に知るよい案内になれば、と思います。

以後、紹介する映画やアニメは少々のネタバレを含みますので、あらかじめご了承ください。

2. マトリックス

情報技術を背景に取り込んだ映画を紹介するにあたって、まず最初は 1982 年製作のトロンを取り上げるべきなのではないかと思いましたが、大ヒット映画のマトリックスから始めたいと思います。マトリックスでは、主人公は少々の不満を抱きながらも、何ということもない日常を生きています。しかし、その主人公が現実だと認識していた世界は、コンピューターが作り上げた巨大な仮想世界でした。主人公以外にも多くのひとびとが仮想世界の中で、そうとは知らずに暮らしています。この映画は典型的な仮想現実(バーチャル・リアリティ: VR )をその舞台としていますね。

マトリックスの世界では、人々は脊椎や頸椎に何本もの「ターミナル」を埋め込まれ、太いケーブルがターミナルに接続しています。人の思考はすべてコンピュータに読み取られ、視覚・聴覚・臭覚・触覚・味覚のすべてはコンピューターから脳に直接情報として送られているようです。こうした五感の全てを実際の感覚器官からではなく、コンピューターから知覚させる装置を、「フルダイブ」型の VR デバイスといいます。2020 年に生きる私たちには夢の機械ですね。現在 VR デバイスで再現できるのは視覚・聴覚・一部の臭覚あたりで、頭部にある感覚器官のものに限られます。仮想世界の中で何かに触れた時、その触覚を指先に再現することはまだできません。

マトリックスは 1999 年に公開されました。前世紀なんですね。このためか、「想像の産物」としての VR 機構は少々古いです。具体的にいうと、中央コンピューターから VR 装置へのデータ転送が物理的なケーブルであること、そして人間の感覚との同調が侵襲型ターミナル(人体の一部に物理的に埋め込むタイプ)であること、ですね。もっとも、人体に刺さっているケーブルのいくつかは、栄養を供給したり排泄物を処理したりするためのものなのでしょうけれど。

3. ソードアート・オンライン (SAO)

2002 年初出。2009 年文庫化。マトリックスよりも少し後に発表された川原礫によるライトノベルを原作として、2012 年からテレビアニメが放送されています。主人公をはじめとする登場人物は、初めて市販化されたフルダイブタイプの VR 装置である「ナーヴギア」を装着して、「完全なる仮想世界」でゲームを楽しんでいます。フルダイブの仮想世界ですから、脳が知覚するものすべてはコンピューターに支配された状態です。現実世界と仮想世界を切り替えるために、ゲームプレーヤーはフルフェイスのヘルメットに見えるナーヴギアを装着し、ベッドなどに横たわって「リンクスタート」と音声命令で仮想世界へと「ダイブ」します。仮想世界から現実世界へ戻るには、仮想世界の中で「ログアウト」を実行します。主人公をはじめとして2000 を超えるひとびとが仮想世界でゲームを楽しんでいましたが、ある日突然ゲーム世界からログアウトできなくなってしまい、あまつさえゲーム内でプレーヤーが死亡すると現実世界の肉体にも死が訪れ… というところまでが物語の冒頭ですね。

1990 年代半ばに企画・構想が始まったであろうマトリックスにくらべて、本作品では VR の技術が進化しています。まず、VR 装置は非侵襲型です。ナーヴギアは頭部の上半分を覆いますが、肉体的な改造を必要としません。また、中央コンピューターと VR デバイス間のデータ転送は無線技術を用いているようです。五感のどこまでをカバーできるか、人間の思考を読み取ることができるかに大きな違いはありますが、非侵襲型・無線通信・音声コマンドというスペックは現在のウェアラブルデバイスでも実現できていますね。ちなみにナーヴギアの発売は作中では2022 年のこととされています。あと二年で人類の技術はどこまで追いつけるでしょうか。

ソードアート・オンラインは現在も連載が続く息の長い作品で、そのほとんどは VR による仮想世界を舞台とします。その中でも異色なのが 2017 年に劇場映画として公開された「オーディナル・スケール」ですね。こちらは本シリーズには珍しく AR を舞台としています。使用する AR デバイスの名前は「オーグマー」。VR では脳の反応速度が全てですが、AR は体の運動機能をそのまま使いますから、その違いに主人公は戸惑います。作中で現実世界に仮想世界のオブジェクトを混ぜ込んで人間の脳に知覚させる ― だます ― ことの危険性を主人公が大学の先生に問う場面が出てきますが、娘と観賞していた私は答えを出せませんでした。

VR は脳の反応速度が全てと書きました。体の反射や運動機能を超えて、脳が処理できる速さが自分の運動速度の限界を決める VR 世界。そんな VR の特徴を上手く活かした作品が、「アクセル・ワールド」です。こちらは同じ作者がソードアート・オンラインの数十年後の世界を描いたお話になります。人が仮想世界に生きる時、コンピューターが処理速度を上げれば人間の体感時間も加速していくのか。現実世界では長くて 100 年くらいしか生きられない人間も、加速された仮想世界ならばもっと長い生を歩めるのか。

ソードアート・オンラインは長大な物語で、文庫本で 30 巻、テレビアニメでも 100 話以上ですが、第 1 期だけでも楽しめますのでご興味のある方は是非。筆者はオーディナル・スケールを娘と見ていた時、「マザーズ・ロザリオ」の登場人物がクライマックスに一瞬だけ姿を現した瞬間に涙腺崩壊しました。隣で娘も泣いていました。大人でも十分に楽しめる作品だと思います。

4. 電脳コイル

現在日本で AR を扱っているであろう技術者ならば、たぶんみんな一度は見てる ― そんなふうに思えるくらい有名な作品です。2007 年に NHK 教育テレビで放映されたアニメ。電脳コイルの背景技術は AR です。第一話のサブタイトルが「メガネの子供たち」とあるように、この世界では子供たちが「電脳メガネ」と呼ばる AR デバイスを身につけています。その見た目はまさに私たちが日常見慣れているメガネで、ソードアート・オンラインのナーヴギアのような物々しさはありません。

子供たちは朝起きてから寝るまで電脳メガネを装着しています。電脳メガネはメールのやりとりや音声通話はもちろんのこと、さまざまに役立つ情報を現実の視覚情報に「重ねて」表示してくれます。子供たちの生活は電脳メガネなしでは考えられないくらいに AR 技術が日常に浸透していますが、やがて電脳メガネを通したときだけ現れる幽霊が…

この作品、大変に面白いです。そして怖いです。さすが NHK。手を抜きません。また、世界観の作り込みも秀逸で、「メタタグ」「オートマトン」「ドメイン」「ヌルキャリアー」など情報処理界隈で生業を立てているものの目から見ても、違和感のない言葉がいろいろと使われています。

本作品で使われる AR デバイスである電脳メガネは、非侵襲型・無線接続・音声コマンド・モーションコマンドに対応しています。なによりも軽量。普通のメガネと区別がつきません。メガネのツルの部分に演算装置や通信装置などが埋め込まれているのだと思いますが、それにしてはバッテリーの持ちも良いようですし、相当な技術の進歩が見受けられます。こちらも 202X 年が舞台となっています。モーションコマンドは 2020 年の現在においても、実装がされ始めていますね。一方でデバイスの小型軽量化は、今後に期待です。

5. アバター

2009 年公開。誰もが知る大ヒット映画ですね。

ところで AR と VR の違いはなんでしょうか。いろいろな定義がありますが、大きく違うのは人間の知覚しているもの(代表的には見ているもの)が現実のものか仮想のものか、です。AR では、AR 利用者が見ている景色のほぼ全ては現実世界のものです。現実世界のなかにいくつかのデジタルオブジェクトが混ざり込んでいるのがARですね。一方 VR では、すべての視覚情報はコンピューターが作り出したものです。したがってゲーム世界に没入してファンタジーを楽しみたいときには VR しか選択肢がありません。一方で旅行先で便利な情報を知りたいといった使い道には、AR が適切です。

見ているものが現実か仮想か、この違いが AR と VR に「臨場か遠隔か」という別の区別をもたらします。AR はその特性上、「その場に」いなければなりません。一方 VR にはそういった制限はなく、その場にいてもいいですし、離れた場所にいても構いません。

たとえば、マトリックスやソードアート・オンラインでは、人々が暮らしているのはコンピューターで演算された仮想世界であり、物理的な身体はその世界に存在しません。一方、電脳コイルの子供たちが暮らしている世界は物理的な世界であり、子供たちが見ているものは現実に「その場に」あるものです。「現場にいるのか」「遠く離れているのか」この違いが AR と VR を区別する一つの指標となります。

しかし、もしも、「遠く離れた場所に感覚器官だけを送り、その場で知覚しえた情報を遠くに伝送して消費する」ことが可能ならば、それは AR でしょうか VR でしょうか?

そんな疑問を持ちながら見ていたのがアバターです。アバターでは、マトリックスと同じように登場人物がフルダイブ型の VR 装置に横たわって感覚器官の全てをコンピュータに委ねます。ただし、感覚器官にインプットされる情報はコンピューターが作り出した仮想世界ではなく、どこか遠く離れた場所に実際に存在するデバイスのセンサー情報です。またこのデバイスは人間とよく似た種族の形をしており、運動機能もほぼ再現され、フルダイブ中の人間の脳内情報を読み取ってデバイスへフィードバックします。つまり、頭で考えただけでデバイスを思うように操れるのです。遠く離れた世界に実存するもうひとりの自分 ー アバターとして。

これが AR なのか VR なのか、あるいはこれをこそ MR (Mixed Reality) と呼ぶのかは別として、アバターでは「感覚器官」「運動器官」と「脳の処理」の分離という技術が使われています。現在私たちが現実に持ち得ている機能で、感覚器官と脳の処理の分離は実現できそうです。が、脳の処理を読み取って、それを仮想デバイスにフィードバックするという技術は、まだまだこれからの技術進化を待たなければならないようですね。

6. 仮想デバイスに関しての落ち穂拾い

デバイスから知覚情報を脳に送る、いわゆる「データの上り線」に関しては現在の技術である程度実現できています。映画やアニメの世界では、体に直接プラグを埋め込む侵襲型や、電磁波などを用いて脳へ干渉する非侵襲型が考え出されています。現在は網膜や鼓膜など人間の感覚器官をそのままインプットとして使う技術までは実現できています。

特に視覚に関して、人間の感覚器官をインプットとして使う次世代の、未来の夢のデバイスとはどんなものでしょうか? 一つのヒントは、2012 年に放送されたテレビアニメ「トータルエクリプス」に描かれているデバイスです。このデバイスは非侵襲型・無線接続ですが、ソードアート・オンラインのナーヴギアとも、電脳コイルの電脳メガネとも一線を画します。このデバイスは、直接人間の網膜へレーザー光線で情報を投射します。スクリーンに投射した映像を目に読み取らせるのではなく、目の中に情報を直接送るのです。こうすることで、眼球の前に遮るものがなにもない完全な透過型デバイスが実現します。こうした技術はきっと 2020 年の今、世界のどこかで誰かが開発していて、そのうちお披露目されるのでしょう。待ち遠しくてなりません。

データの下り線に関してはどうでしょうか? つまり脳から情報を読み取ってデバイスを動作させる仕組みですね。こちらはまだ、技術の進歩が空想世界へ追いついていないように思います。マトリックスでは頸椎に直結されたターミナルを経由して脳波が中央コンピューターに送られているようですし、ソードアート・オンラインではナーヴギアが同様の処理を行なっています。一昔前に一世を風靡したエヴァンゲリオンでは、額の左右に貼り付けた非侵襲型デバイスが A10 神経系を中心とする脳の神経網と同調していました。AR・VR デバイスの次の大きな技術的挑戦は、「脳波を読み取ってデバイスに入力する」、データの下り線の実現かもしれませんね。

7. 夢の装置の実現はいつ?

少数ですがいくつか有名な作品を取り上げて、過去に AR・VR が空想世界の中でどう描かれてきたのか振り返りました。電脳コイルもソードアート・オンラインも舞台は 2020 年代に設定されています。まさにその 2020 年を迎えた私たちの身の回りにある技術は、どこまで追いついたのでしょうか。また、あと何年したら、「あのときに夢のように思った未来技術」を手にすることができるでしょうか。個人的には、そう遠くない未来じゃないのかなと予想しますが、はてさてその予想はどこまで当たりますことやら…。
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執筆者について

山田 篤伸

製品技術事業部
プラットフォーム技術本部
本部長 執行役員

2012年、PTCジャパンに入社。サービスライフサイクル管理(SLM)ソリューションの日本での事業開発担当として、自動車、重工業、ハイテク業界を中心に、製造業のサービス事業化(Servitization)を推進するための啓蒙活動やアセスメントなどを幅広く手がける。
2016年以降、ThingWorx や Vuforia などのPTC が買収した IoT / AR 製品群を用いたソリューション事業の新規展開を担当。

いまだからこそ振り返る、VR ・ AR の名映画・名アニメ
拡張現実 (AR) や仮想現実 (VR) は最近注目されている技術の一つですが、これらはこれまでも映画やアニメの中で描かれてきました。作成された時代背景や世相のなかで様々な描写がなされており、今見ても新鮮なものも少なくありません。特に注目される作品をいくつかピックアップして、どんな技術として描かれていたかをご紹介します。