Vuforia Studio_Vuforia Expert Capture そして Arbortext の違いと適用領域

執筆者: 山田 篤伸
  • 12/3/2019
  • 読み込み時間 : 9 min
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生産やアフターサービスの現場では、設備や機器の分解組立手順やメンテナンス手順を記した文書を大量に使用します。作業指示書やサービスマニュアル、あるいはショップマニュアルなどと呼ばれています(英語の Shop には店舗以外にも工場の建屋という意味もあります)。作業指示書は生産やメンテナンス作業にはなくてはならないもので、記述の正確性やわかりやすさなどが求められます。海外に展開しているメーカーであれば、こうした作業手順書はもちろん現地の言葉に翻訳されている必要があります。

PTC には現在、作業手順書を作成するためのツールやソリューションが合計で 3 つあります。1 つめは Servigistics Arbortext、2 つめが Vuforia Studio、そして 3 つめが Vuforia Expert Capture です。

これら 3 つのソリューションはいったいなにが違うのか、最近問い合わせを受けることが多くなってきたので、ここに簡単にまとめてみたいと思います。

まずはそれぞれのソリューションの概要を見ていきましょう。


Servigistics Arbortext

Servigistics Arbortext は、もともは Arbortext 社としてシカゴ近郊に産声をあげ、2005 年に PTC に買収されました。技術文書を構造的に作成・管理する手法として DITA 規格がありますが、Arbortext は DITA に準拠した XML 文書を作成するための XML エディタです。サービス部門で利用に適した線画を CAD データから作成する ISODraw とともに、メンテナンス部門向けのサービスマニュアルを執筆するツールとして現在でも広く使われています。

Arbortext 自体は DITA 準拠の XML エディタですので大規模に展開するためにはコンテンツ管理機能が必要となります。そこで PTC が Arbortext とセットで提供しているのが Windchill Service Information Manager(SIM) です。SIM と Arbortext は融合しており、共通の PLM 基盤の上で設計者は CAD データや BOM を、サービスマニュアルの執筆者はマニュアル原稿を管理できます。同一の基盤で設計・生産・メンテナンスと製品のライフサイクルに渡る情報を管理できるため、技術情報の執筆者が情報を探す必要がなくなり、また設計変更時に即座に通知を受けるなど、文書作成の生産性が大きく向上します。

また、Arbortext Publishing Engine と呼ばれる大規模環境に適した高速の PDF レンダリングツールをオプションとして提供しています。作業手順書は場合によっては数千ページに及ぶこともあるので、こうした印刷の自動化はメンテナンス部門への最新情報の逐次配信などには非常に有効な手段です。


Vuforia Studio

Vuforia Studio は PTC の拡張現実 (AR) ソリューションの中核を担う製品で、CAD データや IoT データを利用して簡単に AR 環境での作業手順書を作成できます(Vuforia Studio で作れるものは作業手順だけではないのですが、本稿では作業手順に絞って解説します)。Vuforia Studio で作業手順を作るには、前準備として CAD のデータから「シークエンス」と呼ばれる、アニメーションに似たデータを作成します。シークエンスを作るためのツールが Creo Illustrate です。Creo Illustrate でシークエンスを作成すると、CAD データ内の「設計部門には重要だがメンテナンス部門などには不要な情報」が削られ、設計部門の外に出しても安全な形式に変換してくれます。

Creo Illustrate で作成した「シークエンス」をステップ・バイ・ステップの手順として組み上げていく作業を行うのが Vuforia Studio です。Vuforia Studio を使うと、モバイルデバイスなどの AR 対応端末上で、AR のアプリとして作業手順を表示できます。AR アプリですので、AR 対応端末のカメラが捉えている映像を解析し、メンテナンス対象の装置やデバイスを認識した上で「コンテクストに応じた」作業手順を表示できます。

Vuforia Studio は IoT プラットフォームである ThingWorx 上のデータを簡単に取り込む機能も備えています。ThingWorx と Vuforia Studio を連携させると、メンテナンス対象の装置・デバイスのリアルタイムのセンサー情報や、顧客情報・過去のサービス履歴などを AR 対応端末の画面に表示できます。メンテナンスを実施する作業者は、現在の装置・デバイスがどういう状況になっているのか、過去にどんな整備を受けたのかといった情報と、どんな手順で作業を行わなければならないのかといった情報をまとめて画面上で確認できるため、作業時間の短縮や作業の正確性の向上が期待できます。

Vuforia Expert Capture

Vuforia Expert Capture は Vufora Studio とよく似た、メンテナンス部門や製造部門に展開できる AR アプリです。Vuforia Studio との最大の違いは、ステップ・バイ・ステップの手順を CAD データをもとにして作成するのではなく、HoloLens や RealWear などのウェアラブルデバイスを装着した熟練工が「自らの実施手順」を動画や静止画として記録していくところになります。

熟練工が記録した動画や静止画は、PTC のクラウドサービスへ転送してそこで編集できます。追加の文字情報(アノテーション)を付け加えたり、不要な部分をカットしたり、順番を入れ替えたりして、手順をさらにわかりやすいものにしていきます。Vuforia Expert Capture の素敵なところはたくさんありますが、なかでも筆者の琴線に触れた機能は、クリックひとつで自動的に HoloLens 用、RealWear 用、iPad などのモバイル端末用のコンテンツをそれぞれのデバイスに最適化して生成するだけでなく、動画のキャプチャーや静止画と編集時に入力した文字情報を組み合わせてマイクロソフト・ワード形式のドキュメントまでも生成してくれることです。

なお、情報の配信には「情報の生成・情報の編集」「情報の利用」という 2 つの段階がありますが、Vuforia Studio と Vuforia Expert Capture はどちらも「情報の生成・編集」に対応しています。Vuforia Studio と Vuforia Expert Capture で生成・編集したコンテンツは、PTC の提供する AR コンテンツビューアである Vuforia View で視聴・利用します。


適用領域

さて、Servigistics Arbortext、Vuforia Studio、Vuforia Expert Capture と 3 つの「作業指示を作るソリューション」を概観してきましたが、それぞれどのような時に使えばいいのでしょうか?

まず大前提として、(法規制であれ社内規則であれ)製品の出荷物に同梱しなければならない文書は、Servigistics Arbortext で作成します。こうした文書は特定の形式や章立てに従う必要があることがほとんどで、Vuforia 系のソリューションでは少々荷が勝ちすぎます。航空業界には S1000D と呼ばれる一連の規格が存在しますが、こうした規格に準拠する文書などもはやり Arbortext が最適です。

複雑な手順を丁寧にかつわかりやすくビジュアルに表現したいのであれば、Vuforia Studio が最適です。Arbortext で作成した PDF や印刷した文書は、その成り立ちとしてインタラクティブな表現はできません。Vuforia Studio であれば、作業手順をより理解がしやすいアニメーションとして表示できます。なにかの手順を教える場合、「やってみせる」と「読ませて理解させる」のどちらがより効率的かを考えると、Vuforia Studio の Arbortext に対するアドバンテージがわかると思います。ただし、前述した通り、Vuforia Studio では「はじめにお読みください」や「クイックリファレンス」などの文書を作成することは適切ではありません。情報の網羅性や一覧性に関しては、やはり Arbortext で作成する伝統的な文書に一日の長があります。

Arbortext や Vuforia Studio で「情報を生成・編集」するには、それなりの専門性が必要です。Arbortext だと DITA や XML に対する理解が必要ですし、Vuforia Studio で CAD から生成したシークエンスを使うには、Creo Illustrate を使って CAD のデータを編集する必要があります。では、そうした専門家を持たない部門が、それでも作業手順などを作らなければならない場合はどうすればいいのでしょうか?そんな時に使えるのが Vuforia Expert Capture です。Vuforia Expert Capture では、情報の生成・編集を行う人は、XML や CAD データに関する知識を必要としません。HoloLens や RealWear に組み込まれた「キャプチャーソフト」の使い方さえ知っていれば、あとは普段自分が実施している作業を録画して編集するだけです。キャプチャーソフトの Vuforia Capture も、編集ソフトの Vuforia Editor も特別な知識を必要とせず使えるようになっていますので、ちょっとしたトレーニングだけで誰でもすぐにステップ・バイ・ステップの作業手順を配信できます。

Vuforia Expert Capture は、たとえば工場の建屋そのもののように CAD データが存在しない時にも威力を発揮します。HoloLens や RealWear などのデバイスのカメラが記録している映像をもとに AR のコンテンツを作成するため、CAD データを必要としません。Vuforia Expert Capture の注意点としては、Vuforia Studio とは違って(現在のバージョンでは)IoT データの取り込みができないことです。
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Vuforia Expert Capture については、以前に こちら のブログで概要を説明してますので、そちらも合わせてお読みいただければ幸いです。
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執筆者について

山田 篤伸

製品技術事業部
プラットフォーム技術本部
本部長 執行役員

2012年、PTCジャパンに入社。サービスライフサイクル管理(SLM)ソリューションの日本での事業開発担当として、自動車、重工業、ハイテク業界を中心に、製造業のサービス事業化(Servitization)を推進するための啓蒙活動やアセスメントなどを幅広く手がける。
2016年以降、ThingWorx や Vuforia などのPTC が買収した IoT / AR 製品群を用いたソリューション事業の新規展開を担当。