スピード感のある改革を続ける海外企業の事例から考える日本の DX 戦略の進む先

執筆者: 後藤 智
  • 8/6/2021
  • 読み込み時間 : 6min
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未知のウィルスが世界中で蔓延し続けていることで、私たちが想定していなかった事業上のリスクが高まっています。この危機を乗り越えるために、デジタルデータを活用したビジネス変革を、当初の予定よりも加速させなければならないと考えている経営者が増えてきました。例えば、マッキンゼー社の調査1)によれば、COVID-19 によって多くの企業が、顧客や取引先とのサプライチェーンを再構築しながら、業務のデジタル化のための IT 投資を当初の計画よりも 3 ~ 4 年前倒ししています。海外企業は COVID-19 の影響を、むしろ DX 推進の好機と捉えながら、圧倒的なスピード感でデジタル経営を実践しています。特に、製品やサービスのデジタル活用は、COVID-19 前より約 57% 増えています。 お客様との対面機会を失いコミュニケーションが制限されたことで、自社の製品やソリューションの紹介は、デジタルデータかつオンラインの仕組みに切り替わっています。工場の生産状況や設備の保守点検作業は、直接現地に行かなくても、リモートで状況を把握できることがごく当たり前となりました。

いま、日本では、世界のトップアスリートたちによる熱戦が繰り広げられています。日本人選手のひたむきさに感動しつつも、海外勢の試合運びの巧みさや柔軟な対応力に脱帽するシーンも多いです。製造業の DX の取り組みについても同様で、海外企業のデジタルソリューション活用術は、とてもストレートで展開のスピード感があります。PTC 米国本社では、この 3 か月間、お客様や投資家の皆様に向けて、そのような海外企業の DX の取り組み事例や最先端テクノロジーを紹介するオンラインカンファレンスを開催してきました。今年の上半期に実施した LiveWorx2021 2)、PLM Virtual Conference 3)、Vuforia Live4) は、注目のライブショーでした。日本の皆様には、時差の関係もあり、それらのイベントの存在に気づかなかった方も多くいらしたかと思います。本ブログの最後に、見逃し配信のリンクを掲載していますので、ぜひ一度視聴してみてはいかがでしょうか。日本人が気づかなかった、海外企業の DX 戦略の一端を捉えるとらえることができるかもしれません。

例えば、1927 年創業の Volvo Group の建設機械部門 (Volvo CE) では、PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)システムを抜本的に再構築する DX プロジェクトが動き出しました。まず、製品およびサービスに関係する全部門のステークホルダー 60 名を一同に招集し、DX 時代の PLM 戦略策定ワークショップを実施しています。具体的な IT システム要件を定義する前に、関係するステークホルダー全員の課題感を共有することからスタートしています。このワークショップによって、175 種類の問題点が顕在化されたそうです。これらの問題を解決するために、どのようなケーパビリティを開発すべきか、そして、ケーパビリティはどの部門にどの順番でスピーディに展開していくべきか。特に、製品情報の受け渡しによるミスを減らすことで、効率と品質が高まり、顧客満足度を向上できる方策が議論の中心となっています。つまり、世界中の拠点でより多くの価値を創造できるようにすることです。製品のライフサイクル全体を通して製品データを常に一元管理することで、関係するすべての作業が付加価値を生み出せる仕掛けづくりです。ステークホルダー全員が一致団結しながら DX 戦略策定に取り組むことで、同社が目指しているサービス指向型のソリューション・プロバイダーの実現を加速させているように見えます。

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もう 1 社、創業 75 周年を迎える Valmont Industries 社の DX の取り組みも興味深いです。照明設備、交通信号、電力機器、灌漑設備といった社会インフラを支えている歴史ある産業機械装置メーカーです。同社が注目した DX 戦略は、人を中心とした育成や継承のデジタル化です。歴史と伝統のある同社では、ベテラン社員の勘と経験が頼みの綱です。しかし、ほとんどの作業で標準マニュアルというものが存在していません。存在していたとしても、内容が古すぎて使い物にならず、後進の指導と育成にとても時間がかかっていました。常に、OJT 型で、「俺の背中をみて技を盗め!」そんな昔ながらの技術伝承でした。たとえば、あるベテラン作業の組立工程を若手に教え込むには 10 日間かかります。とくに最近は、コロナ禍で問題はいっそう複雑になってしまいました。人と人の接触を避けながら、生産性は維持しなければならないのです。同社は思い切って定年間近のベテラン社員に協力を求め、AR 技術を使って作業手順をデジタル化しました。当初、ベテラン社員はデジタル化に反対するのではないかと懸念していました。しかし、実際は逆でした。むしろ彼らは大賛成で、自分たちの作業を中断することなく、次の世代の社員に自分たち技をスピーディに伝授できたことに、大きな価値と喜びを感じてくれたそうです。

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これらは ほんの一例にすぎませんが、海外企業の取り組みを調査していると、ほとんどが歴史と伝統のある古い会社だということに気づきます。このような企業は、お客様との長期的な既存取引の継続が重要な収益源となっています。もし、いま会社が重大なトラブルを起こしてしまったら、お客様との長年の関係が崩れ、社会的な信頼を一瞬で失ってしまうかもしれません。古い会社ほど、社内の業務システムが複雑で、いまの時代のスピードや複雑性に追随できなくなっています。既存システムを新しいものに置き換えるのは大きなリスクですが、お客様を失ってしまったら大問題です。社内の人材育成や技術伝承も待ったなしです。人が目視で品質チェックする作業は限界で、製品品質を維持することが厳しくなっています。従業員の高齢化問題もあり、ノウハウが継承できなくなるリスクも高まっています。
多くの海外 DX 事例を洞察していくと、デジタルトランスフォーメーションへ大きく舵を切るきっかけが、社内の業務上の問題解決だけでなく、お客様や取引先に迷惑をかけないことを重要視しているようにもみえます。上述の調査レポート1)によれば、2017 年の段階で、企業経営者の約半数が DX 戦略の最も重要な優先事項は社内のコスト削減を挙げていました。ところが、現在では、DX 戦略をコスト戦略と捉えている海外企業はわずか 10% で、半数以上が DX は競争力強化のための投資で、デジタル技術を中心にビジネス全体をスピードアップさせるための仕組みの再構築だといいます。
日本においても、世界を代表する歴史と伝統のある会社は多いです。歴史が長ければ長いほど様々な問題点が山積みです。現状の仕事の仕方のままで、次の世代にものづくりのバトンを安全に渡せるでしょうか。ひとたび製品不良が発覚すれば、莫大な改修コストがかかり、お客様や市場の信頼を一瞬で失ってしまいます。現在、日本でも DX 推進のための専門部隊を設置する企業が非常に多くなりました。当然、企業によって DX の着眼点は異なりますが、もし DX 推進の専門部隊を編成したら、スピード感をもって一気呵成に取り組むことが重要であると考えます。海外のビジネスパーソンと話をすると、DX の成功のポイントは「Time to Value」という言い方をする人が多いです。皆さんの DX 推進スピードは、世界のお客様が期待しているワールドレコードを意識していますか。

参考:
1)McKinsey & Company, “How COVID-19 has pushed companies over the technology tipping point—and transformed business forever”
2)LiveWorx - Episode3 https://www.liveworx.com/
3)PLM Virtual Conference https://www.plmvirtualconference.com/live
4)Vuforia Live https://www.ptc.com/en/special-event/vuforia-live

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執筆者について

後藤 智

ビジネスディベロップメント
ディレクターフェロー
経営学修士(MBA)

デジタルトランスフォーメーション (DX) に関するエグゼクティブアドバイザー。PTC ジャパン株式会社 ディレクターフェロー。早稲田大学IPS・北九州コンソーシアム 理事。ボンド大学ビジネススクールにて MBA 取得。日本経営工学会より「IoT 時代の PLM システムに求める技術要件とそのビジネス価値に関する考察と提言」で2016 年度の経営システム賞を受賞。