個人持ちの設計計算ノウハウをデジタル化する

執筆者: 後藤 智
  • 8/24/2020
  • 読み込み時間 : 5min
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1. はじめに

2007 年(平成 19 年)当時、団塊の世代の一斉退職によって、彼らが持っていた貴重な技術ノウハウの喪失危機が大きな社会問題となりました。いわゆる 2007 年問題です。多くの企業が危機感を持って取り組んでいた技術情報の伝承活動は、いまでも順調に進んでいますか。例えば、豊富な業務知識を持った熟練技術者らの設計計算ノウハウは、次の若い世代のためにすでに形式知化していますか。仕様検討のための応力計算の解法、実験材料の配合計算の導出過程等、貴重な会社の知的財産が個人持ちの手書きメモのままで放置されていることはないでしょうか。たとえ、電子ファイルに保存してあったとしても、それらは会社の技術資産として誰が見てもわかるように適切に管理されているでしょうか。2007 年問題以来、いまだに重要な個人の暗黙知が埋もれたままで、次の世代に引き継がれていないという企業は少なくありません。本ブログでは、個人持ちのために埋没してしまった設計計算ノウハウを、他者にもはっきりとわかる形でデジタル化することの価値について考えてみたいと思います。


2. 個人持ちノウハウのデジタル化における課題

まず、過去 30 年のデジタルエンジニアリングの取組みを振り返ってみましょう。製造業の製品開発現場では、CAD / CAM / CAE ツールに代表されるエンジニアリング IT ソリューションの目覚しい進化と貢献がありました。三次元モデルとしてデジタル化した製品データの活用により、製品の設計から製造までの業務プロセスの劇的な納期短縮とコストダウンを実現しました。一方、個人持ちになっている設計計算ノウハウは、製品開発における重要な知的財産であるにもかかわらず、その管理の仕方が適切とは言い難い状況が散見されています。例えば、個人所有の大学ノートや部課内の共有バインダーによる紙ベースの管理が実情ではないでしょうか。

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個人持ちの暗黙知を形式知化し次の世代に継承することは熟練技術者の義務であり、次の時代を担っていく若手技術者にとっての権利です。個人で保有している手書きの計算メモや紙ベースで記録されていた技術文書をデジタル化する場合 、設計の意図や計算の導出過程は、”そのまま見える状態で” 記述しておくことに大きな価値があります。工学技術計算に関するドキュメントは、企業にとって重要な知的財産です。重要なノウハウが、デジタル化せず誰にも見えない状態で埋もれていることは、企業競争力を低下させる大きな要因となりかねません。


3. 表計算ソフトの壁を越える

私たちは日常的にワープロや表計算ソフトを使います。そして、設計者のノウハウはデジタル化されていきます。しかし、気をつけなければならないのは、表計算ソフトのマクロ言語では設計計算ノウハウは、逆にブラックボックス状態となってしまうことです 。

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これでは、設計意図や計算過程の妥当性を客観的に判断するのは困難です。また、数式の入力が煩雑なワープロ機能では、技術業務の生産性があがりません。ノウハウのデジタル化によってコラボレーションを促進するはずの IT ツールが、技術伝承の機会を妨げているかもしれません。良かれと思ってノウハウの IT 化を狙ったはずが、逆に IT 化によって重要な設計原理を見えなくさせていたら本末転倒です。


4. 技術者には技術者向けのワープロソフトを!

PTC では、このような課題を解決するために、計算根拠が数式のまま見える工学技術計算ソフト「PTC Mathcad Prime」を提供してきました。

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工学技術計算に関する文字 、図形、イラスト、2D / 3D の幾何形状、方程式、統計処理といった計算情報を、書式に拘束されない自由なMathcadワークシートとして、柔軟に表現することが可能です。PTC Mathcad Prime は、個人持ちの工学技術計算ノウハウを、誰が見ても客観性のある再利用可能な企業レベルのデジタル資産にすることを主眼において開発された、いわば “技術者向けワープロソフト” です。以下に、PTC Mathcad Prime の代表的な機能の特長をご紹介します。

(1)そのまま数式で表現できる
たとえば、幾何学方程式は、ワークシート上に数式そのまま記述することができます。表計算ソフトが持っている難解なマクロに置き換えることは不要です。特殊な演算記号や、行間を越えた難解な方程式を表現する際も、事務用ワープロ機能にありがちな操作上の煩わしさや表記方法の制限がありません。そして、数式のそれぞれの変数に値を代入するだけで、演算結果がグラフ表示と共に、動的かつリアルタイムに表示されます。難解なプログラミングや特別なカスタマイズを必要としません。単位系のミスマッチといった人的なケアレスミスも自動検知します。事務用ワープロや表計算ソフトでは、このように 設計意図や計算過程を、柔軟でリアルタイムに表現することが困難です。PTC Mathcad Prime は、一連の工学技術計算の流れをワープロ感覚で手軽に表現できます。

(2)プログラムコードの見える化
過去に作成した古いプログラムのソースコードの再利用にも効果的です。たとえば、昭和時代の FORTRAN 言語で開発した流体計算や NC プログラムなどは、いまだに各部署のなかで何十年にもわたり使用されていることがあります。作成した当人でさえ、もはや解読不能なソースコードとなっていることはないでしょうか。当時のプログラム開発者は、すでに退職や転職をしてしまい身近に存在していません。さすがに、”昭和の FORTRAN” は極端な例かもしれませんが、20 年前の技術者が自作した設計計算プログラムを、中身を知らないまま 20 代や 30 代の若手技術者が、現在もなお使用し続けていたとしたら大きな問題です。もし、自社製品の欠陥が発覚しリコールとなった場合、この状態では計算過程と演算結果が正しかったことを客観的に証明するのは至難の技です。PTC Mathcad Prime を使用することで、過去のソースプログラムを見える化し、誰もが計算ロジックの意味を適正に理解しながら実行することが可能となります。

(3)3D-CAD データとの連携
三次元 CAD システムで作成される 3D モデル形状は、顧客の仕様や設計意図に基づいて正しく定義されたものでなければなりません。しかし、その形状に至った技術的な根拠は、3D モデル情報だけでは判断がつきません。なぜ、その寸法値になったのか、それは会社のルールだったのか、顧客の要件だったのか、その設計意図がわかりません。また、表計算ソフト内のマクロと 3D モデル内の属性の両方に、同一情報を二重持ちにしているケースもありますが、これではどちらの値を最新情報とすべきか曖昧です。PTC Mathcad Prime は、CAD システムのモデルパラメーターと連動することが可能です。さまざまな要因によって決定される 3D モデル上の寸法値は、あらかじめ Mathcad ワークシート上で繰り返し検討を重ね、その最終結果を 3D モデル側の形状パラメータへと転送する方式です。


5. おわりに

最近のコロナ禍で、出勤規制や在宅テレワークを余儀なくされている状況では、熟練技術者の設計計算ノウハウの引き継ぎ作業も停滞気味な状況にあります。若手技術者と熟練技術者が、対面型の OJT による技術伝承が難しい時代です。しかし、貴重な設計計算ノウハウを、埋没したまま放置しておくわけにはいきません。本ブログでご紹介した PTC Mathcad Prime を活用すると、設計計算の導出過程が数式のまま表現されているので、技術者同士がリモートワークの状態であってもノウハウの相互理解が促進されます。また、市場から製品の不具合による企業責任を問われた場合でも、迅速かつ正当な説明責任を果たすことが可能です。何を将来に残し何を廃棄すべきか、この機会に断捨離を断行しつつ、個人持ちの貴重な設計計算ノウハウのデジタル化に取り組んでみてはどうでしょうか。

PTC Mathcad ホワイトペーパー: 「工学技術計算 - 設計の品質向上と効率化
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執筆者について

後藤 智

ビジネスディベロップメント

ディレクターフェロー

経営学修士(MBA)

デジタルトランスフォーメーション(DX)に関するエグゼクティブアドバイザ。PTCジャパン(株)ディレクター フェロー。早稲田大学IPS・北九州コンソーシアム 理事。ボンド大学ビジネススクールにてMBA取得。日本経営工学会より「IoT時代のPLMシステムに求める技術要件とそのビジネス価値に関する考察と提言」で2016年度の経営システム賞を受賞。

個人持ちの設計計算ノウハウをデジタル化する
団塊の世代の一斉退職が問題となったいわゆる 2007 年問題以来、いまだに重要な個人の暗黙知が埋もれたままで、次の世代に引き継がれていないという企業は少なくありません。本ブログでは、個人持ちのために埋没してしまった設計計算ノウハウを、他者にもはっきりとわかる形でデジタル化することの価値について考えてみたいと思います。