AR のデモクラシー -The AR for the rest of us-

執筆者: 山田 篤伸
  • 1/26/2021
  • 読み込み時間 : 5min
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今このブログ記事を読んでいるみなさんは、きっとウェブブラウザをお使いのことでしょう。いまではさまざまな情報がインターネット上で公開され、ウェブブラウザを通じて簡単にそうした情報へアクセスできるようになりました。この技術が大いに広がり始めた 20 世紀末、HTML で書かれてインターネット上で公開された情報は「ウェブサイト」と呼ばれていました。ホームグラウンドといえば本拠地、ホームベースといえば野球で打者が最初に立つところ、ホームディレクトリといえばログイン後に最初にいるディレクトリ、ですね。同じように当時は「ホームページ」とは、インターネット・エクスプローラーやネットスケープ・ナビゲーターなどのウェブブラウザを起動したとき、最初に表示されるウェブサイトを指していました。

そのホームページという言葉はいつのまにか、インターネット上で公開された HTML 文書全体のことを指す言葉として使われるようになります。筆者は 21 世紀を目前に控えたころ、かなりの量の HTML やスタイルシートを手書きしていたのですが、「ホームページ・ビルダー」という製品のリリースを知ってその名前に衝撃を受けたことを今でも覚えています。

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ホームページ・ビルダーをはじめとする「ホームページを簡単に作れるソフト」は一世を風靡した製品でした。こうしたソフトをオーサリングツールといいますが、オーサリングツールの黎明以前にはテキストエディタで HTML を打ち込んでいたのです。当時は HTML そのものが成長段階で規格が頻繁に変更になったり、ブラウザ独自のタグもたくさんあったりして、どのブラウザでも同様に動作するウェブサイトを作ることにはそれなりの技術力が必要だったのです。
瞬く間に巷を席巻したホームページのオーサリングツールですが、当初は PC にインストールして使う「ソフトウェア」でした。当時、仕事でホームページを作る必要があった人の多くは、ホームページ・ビルダーかドリーム・ウィーバーのどちらかを使っていたのではないでしょうか。ホームページを通した情報の提供が企業にとって当たり前の活動になるころ、今度は「ブログ」が流行りはじめます。ウェブ上で自身の記録(ログ)を発信するメディアという意味でウェブログ → ブログという言葉が定着したのだと思いますが、このブログ、それまでのホームページ制作者には大いに悩みの種でした。ページの更新頻度が圧倒的に多いのです。しっかりと企画してかっちりと制作する広報型の情報とは違い、ブログは頻度よく更新しないと読者に飽きられてしまいます。そのため、これまでは多くても月に一度程度だったホームページの制作が、毎日や隔日といった頻度に増してしまいました。

ブログなどの流行によってホームページの制作頻度が上昇するにつれ、それまでのオーサリングツールではなくブログに特化した作成・発信サービスが登場します。最初に台頭したのば Movable Type でしょうか。ブログをはじめとるするホームページは、最終的には公開インターネット上のサーバーに保持する必要があります。ウェブサーバーをクラウド事業者から借受け、そこに Movable Type などの「ブログエンジン」と呼ばれるソフトウェアを導入してブログを立ち上げるという手法が確立しました。この方法の良いところは、ブログなどの情報を作成する場所と発信する場所が同じになったことです。ブログ発信者の PC にオーサリングツールを導入しなくても、ウェブブラウザだけで情報の発信が可能になりました。もともとホームページをはじめとする HTML で書かれた情報にアクセスするにはウェブブラウザを使いますから、情報の閲覧も発信も同じソフトを使うことで、情報発信のプロセスが大幅にシンプルになりました。最終的には、レンタルサーバーを借りて自身でブログエンジンを構築するのではなく、ブログエンジンそのものをサービスとして利用する形態に落ち着きます。現在では、WordPress が人気のブログエンジンですね。WordPress は多くのインターネット・プロバイダーがサービスとして提供しています。

さて、ここまでホームページの発信に関する技術の推移を簡単に振り返ってみました。端的にいうと、HTML やスタイルシートといった低レイヤーの技術を使って専門知識を持った技術者が情報を作成し、それをサーバー構築・維持といった別の専門知識を持つ人が管理するサーバーで公開するという方法から、誰もが簡単に情報発信サービスを利用するといった方向へと進化しています。30 年近い時間をかけて情報の発信が専門家の仕事から普通の人たちの手へと渡っていったのですが ― この動きがまさに今、拡張現実 (AR) の世界で起きています。

拡張現実は決して新しい概念ではないのですが、その誕生から一貫してコンテンツ作りはプログラマの仕事でした。PTC からも Vuforia Engine という製品をかねてより提供していますが、Vuforia Engine はプログラマが利用するライブラリです。一方で、デバイスとソフトウェアの進化が近年加速しており、拡張現実でできることの幅が急速に拡大しています。以前は特定の目的のために作成されていた拡張現実のアプリケーションが、現在では多用途・多目的のために求められはじめています。

拡張現実はゲームなどのエンターテイメントや、マーケティングで商材として利用さることがかつては主流でした。現在ではこうした利用方法に加えて、企業が設備の維持・点検に利用したり、アフターサービスやセルフサービスの現場で利用したりと、さまざまな分野で使われはじめています。ちょうどホームページで起きた流れ、ゲームなどのように「しっかり企画してかっちり作る」用途だけではなく、作業手順書のように「その場で必要なことを日々記録・配信」する要求が高まってきています。こうなると、いつまでも専門家に依頼して拡張現実のコンテンツを作ってもらい続けるというのは、コスト、確保できる人材、納期の 3 つの点から見ても現実的ではなくなってきています。そこで、専門的なプログラミングの知識を持たない人でも、気軽に拡張現実のコンテンツを作れるようにしよう、という流れが出てきました。こうした流れのなかで PTC が提供しているサービスが Vuforia Expert Capture になります。 Vuforia Expert Capture ではステップ・バイ・ステップの作業手順を拡張現実のコンテンツとして作成できます。従来までとは違い、コンテンツづくりにプログラマは必要ありません。むしろ、Vuforia Expert Capture ではコンテンツ作りからはプログラミングの要素は排除されています。作業の記録は音声コマンドとジェスチャーで、作業の編集はウェブブラウザで行えるように調整されており、現場での作業を熟知している熟練工のかたであれば、簡単なレクチャーのみで即日から長くても数日で拡張現実のコンテンツを作成・配信できます。

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Vuforia Expert Capture の登場によって、拡張現実のコンテンツ作りに対する技術的なハードルは大幅に引き下げられました。ブログの流行によってインターネットのトラフィックが伸びてさまざまなコンテンツが世に溢れたように、これからは専門家「ではない」人たちが気軽に使える拡張現実のオーサリングツールが広まることで、企業の現場での拡張現実技術の採用が一層広まるものと PTC では期待しています。
なお、PTC ではこれからも Vuforia Expert Capture のように、SaaS で提供する「気軽に拡張現実のコンテンツを作成・配信するソリューション」を拡充していきます。今後のソリューション展開にご期待ください。


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執筆者について

山田 篤伸

製品技術事業部
プラットフォーム技術本部
本部長 執行役員

2012年、PTCジャパンに入社。サービスライフサイクル管理(SLM)ソリューションの日本での事業開発担当として、自動車、重工業、ハイテク業界を中心に、製造業のサービス事業化(Servitization)を推進するための啓蒙活動やアセスメントなどを幅広く手がける。
2016年以降、ThingWorx や Vuforia などのPTC が買収した IoT / AR 製品群を用いたソリューション事業の新規展開を担当。