企業戦略とは、大まかな定義では、経営陣に対して有意義かつ実践的な戦略的分析、プランニング、開発を提供するものですが、これは企業の運営と成長にとって不可欠です。バランスのとれたポートフォリオを構築し、持続可能な価値を促進するために、企業はリソース割り当て、業績改善、合併および買収、企業分割といった領域全体で、さまざまな設備、機能、プロセスを調整する必要があります。
しかし現実には、企業戦略を実際に実行しようとすると、手に負えない数々の課題が発生します。ハーバード・ビジネス・レビュー誌の記事によれば、戦略担当幹部たちは社内的な問題に巻き込まれていることが珍しくありません。たとえば、対立の解決、予算の調整、業績の管理などです。
企業戦略の課題をさらに複雑にしている要因は、新型コロナウイルス (COVID-19) による危機です。世界的な感染拡大の影響は広範囲に及び、あらゆる分野のビジネスに影響を及ぼした結果、サプライチェーンの大規模な混乱が発生しています。世界中の企業が迅速に「ニューノーマル」に対応していく中、経営幹部たちは従業員の雇用と企業の収益を守るための事前対応的な戦略に目を向けています。
新型コロナウイルスの時代(そしてその先)における PTC の企業戦略について掘り下げるために、PTC の EVP 兼最高戦略責任者であるキャサリン・ミットフォードに話を聞きました。キャサリンは PTC で 14 年間の経験を持つベテランで、現在の役職に就く前は、PTC の中核的なビジネスと成長分野のビジネスに関する製品および市場戦略、製品管理、研究開発のリーダーシップをとっていました。精通している領域は、戦略、企業開発、パートナーシップと買収、企業マーケティング、トレーニング、ポートフォリオ管理です。
PTC の企業戦略部門は、リーダーたちが新型コロナウイルスによるビジネスへの影響を理解し、別の面で強力な存在感を示すために必要な機能について検討できるよう支援しています。以下で詳しく見ていきましょう。
企業戦略の主な役割は、どのような環境にあるかにかかわらず、企業を確実に成功に導くことです。危機に見舞われている時期(感染拡大、景気後退、自然災害など)もあれば、安定した時期もあります。
PTC を確実に持続可能な企業とするため、複数の要因を考慮しています。たとえば、市場で何が起こっているか?バランスのとれたポートフォリオを作成するにはどうすればよいか?積極的に注視すべきテクノロジートレンドは何か?お客様の現在の優先事項とお客様のニーズが将来的にどのように変化するかを理解し、カスタマーファーストを実現するにはどうすればよいか?といった点です。
今年の始めに、複数の主要な領域における 2020 年度の企業戦略目標を策定しました。たとえば、既存のポートフォリオに追加する形で長期的な SaaS 成長計画を立てること、優れたテクノロジーに関する PTC の市場での位置づけを強固にする買収を特定して実行すること、既存のパートナーシップと戦略的パートナーシップを促進することなどです。
PTC の 2020 年度の取り組みはすべて、新型コロナウイルスが発生してからも優先事項のままですが、前倒しに進んでいるものもあります。たとえば、SaaS です。企業戦略では、SaaS に向けたテクノロジーシフトが発生すると考え、それが PTC のお客様にどのような影響を及ぼすかという点に目を向けていました。クラウド、SaaS、モバイルファーストは CRM(例: Salesforce)などの領域で幅広く採用されていますが、設計ソフトウェアの分野ではまだそのレベルの成熟度に達していません。一部の製品開発セグメントおよびプロジェクトでクラウド / SaaS 導入の転換期を迎えていたため、Onshape を買収しました。将来的にプラットフォームとして活用するためです。
しかし Onshape は PTC にとって、新型コロナウイルス危機における希望の星となりました。多くの設計者と開発者は CAD ソフトウェアにリモートでアクセスできませんが、Onshape のユーザーなら場所も時間も問わずソフトウェアにアクセスできます。
SaaS は PTC が注視していたテクノロジートレンドで、積極的に取り組んできました。今後 2 ~ 3 年で設計の主流になるであろうと考えていましたが、新型コロナウイルスが発生し、PTC は先見的にこの危機に対処すると同時に、ビジネスの将来性も維持できました。
企業戦略というと、市場で何が起こっているか、何に参加すべきか、何が低下しているか、顧客のニーズがどのように変化しているかを把握しようとするものです。しかし企業戦略の大部分は、テクノロジーを進化させる側面と、ビジネスがそれを先導する手法に焦点を当てています。
PTC の企業戦略担当シニアディレクターの Barry Rubenstein の調査と分析によれば、企業の 89 % がクラウドおよび SaaS への取り組みを前倒しに進めることを検討しているそうです。これが企業としての PTC にとって何を意味するのか、今年の LiveWorx イベントでお話しする予定です。
年度の初めに定めたすべての戦略的取り組みは、今でも企業としての PTC にとって理にかなったものです。今、お客様がこの危機を乗り越えるためのテクノロジーに対するニーズがかつてよりも高まっています。たとえば、エンジニアが場所を問わずに設計することを可能にする PLM システムなどです。結局は、進化するお客様のニーズを把握することが大切です。特に、新型コロナウイルスの観点から。
たとえば拡張現実 (AR) については、2020 年度に AR 市場での位置づけを強固なものにするという目標を掲げました。PTC が AR 領域に進出することにした理由は、作業者の生産性とスキルギャップに対処するためです。未来の作業者が、フィジカル、デジタル、人間の融合に対応できるようにしたいと考えています。私たちと物とのかかわり方は変化するでしょう。若い作業者が短期間で作業を習得できるよう支援し、退職を迎えようとしている熟練作業者の知識を取り込むためのツールが必要です。これをすべて可能にするのが AR です。
前倒しされている取り組みのもう 1 つの例が PTC のトレーニング戦略です。今年は、2021 年までに Onshape ユーザーを 100 万人獲得するという目標を掲げました。
新型コロナウイルスとそれに伴う遠隔学習に対応するために、各種学校と大学が Onshape に簡単にアクセスできるようにし、トレーニング戦略を前倒しで進めています。しかし、テクノロジーそのものだけではありません。各種学校と大学に提供しているカリキュラムについても再検討しました。カリキュラムは教室での学習用に作られたものでしたが、遠隔学習にも対応できるように早急に改訂しました。
私たちが今学べることの 1 つは、学校と大学での学習が新型コロナウイルスによる危機を経てどのように変わっていくかということです。遠隔学習が増加すると見込んでいますが、それは大学のコースだけではなく、学生の単位として認められる認定クラス(「CAD のための Onshape」など)も同様です。
さまざまな物事が前倒しに進んでいますが、導入のために人間がその場にいる必要がないテクノロジーが特に重視されています。PTC のパートナーには、現在も未来も成功を収めてもらいたいと望んでいます。たとえば Microsoft 社からはコラボレーションツールとの統合の計画を促進する方法を学びました。
新型コロナウイルスによる危機についてですが、コロナウイルスが今年後半に戻ってくる可能性があるというレポートがあるようです。企業は現在どのように対応すべきか、そして別の危機に見舞われた場合にはどのように対処すべきかを検討しています。PTC では、パートナーとの連携方法と取り組みの内容に関して、さまざまな可能性を広げています。お客様は、すぐにソリューションを手に入れる必要がありますから。
新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される今、多くのことが不確定ですが、明確になったこともあります。それは、戦略的に思考し、こうした前例のない困難に迅速に適応できる企業は、他社の先を行くことができるということです。